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中央社会保険医療協議会における
費用対効果評価の分析ガイドライン
2024年度版
2024年1月27日 中医協総会了承
国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
目次 1 ガイドラインの目的 ──────────────────────── 4
2 分析の立場 ──────────────────────────── 5
3 分析対象集団 ─────────────────────────── 6
4 比較対照技術 ─────────────────────────── 7
5 追加的有用性 ─────────────────────────── 8
6 分析手法 ───────────────────────────── 11
7 分析期間 ───────────────────────────── 12
8 効果指標の選択 ────────────────────────── 13
9 データソース(費用を除く) ───────────────────── 15
10 費用の算出 ──────────────────────────── 16
11 公的介護費・生産性損失の取り扱い ───────────────── 19
12 割引 ─────────────────────────────── 21
13 モデル分析 ──────────────────────────── 22
14 不確実性の取り扱い ──────────────────────── 23
用語集 ──────────────────────────────── 24
略語一覧 ─────────────────────────────── 29
国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H) 33
1 ガイドラインの目的
1.1 本ガイドラインは、中央社会保険医療協議会において、評価対象として選定さ
れた医薬品・医療機器・再生医療等製品(以下、評価対象技術)の費用対効果評
価を実施するにあたって用いるべき分析方法を提示している。
1.2 本ガイドラインは製造販売業者により提出される分析と公的分析を対象とし
ている。
4 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
2 分析の立場
2.1 分析を行う際には、分析の立場を明記し、それに応じた費用の範囲を決めなけ
ればならない。
2.2 費用や比較対照技術、対象集団などについて公的医療保険制度の範囲で実施
する「公的医療の立場」を基本とする。
2.2.1 「公的医療の立場」以外の立場から分析を実施する場合でも、「公的医
療の立場」の分析を実施しなければならない。
2.2.2 一部の予防技術(検診やワクチン等)など厳密には公的医療保険制度
に含まれないものでも、それに準ずる医療技術であれば、公的医療保
険制度に含まれるものと同様の取り扱いをした分析を実施する。
2.3 公的介護費へ与える影響が、評価対象技術にとって重要である場合には、「公
的医療・介護の立場」の分析を行ってもよい。
2.4 評価対象技術の導入が生産性に直接の影響を与える場合には、より広範な費
用を考慮する立場からの分析を行い、生産性損失を費用に含めてもよい。
5
3 分析対象集団
3.1 品目の指定時点において、評価対象技術の適応症となる患者を分析対象集団
とする。
3.1.1 品目の指定から分析枠組み決定までの間に適応症が追加される場合
は、それらの適応症についても原則として分析対象に含める。
3.1.2 「3.1.1」で定める期間より後に新たな適応症が追加され、評価結果に
影響を与えると考えられる場合、当初の評価終了後に改めて評価を
実施する。
3.2 複数の適応がある場合、あるいは同一疾患内においても治療成績や使用方
法・用法用量、比較対照技術が異なる主要な集団がある場合は、各集団につい
てそれぞれ分析を実施することを原則とする。
3.2.1 ただし、「3.2」を実施することが困難な状況下で、患者数や疾患の性
質等を勘案して結果に与える影響が限定的な場合には、協議におけ
る両者(製造販売業者と国立保健医療科学院/公的分析班:以下同様)
の合意のもとで、分析対象集団から一部集団を除外できる。
3.3 各集団において、評価対象品目に関する現在の臨床実態や使用実績等を考慮
して、長期的な観点からの患者割合(特許期間の累積患者数に基づく患者割合
等)を推計することを原則とする。
3.3.1 推計が困難な場合は、上市から一定期間後の安定した状態における
断面の患者割合を用いてもよい。
3.3.2 短期間における無視しうる影響(例えば評価対象技術の導入期にお
ける待機患者の影響など)は含めない。
6 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
4 比較対照技術
4.1 評価を行う際の比較対照技術は、評価対象技術が分析対象集団への治療とし
て導入された時点で、臨床的に幅広く使用されており、評価対象技術によって
代替されると想定されるものとする。うち、治療効果がより高いものを一つ
選定することが原則的な考え方である。
4.1.1 「臨床的に幅広く使用されている」とは、使用患者数のシェアで一律
に決めるものではなく、診療ガイドラインに記載があるなど臨床的
に標準的な治療法として用いられていることを意味する。
4.1.2 「治療効果がより高いもの」を検討するにあたっては、既存の公表さ
れた費用対効果評価における追加的有用性の評価についても参照
する。
4.2 「4.1」において、一意に決めることが難しい場合は、無作為化比較試験
(Randomized controlled trial: RCT)等における比較対照技術、価格算定上
の類似技術、費用対効果の程度等も考慮して最も妥当と考えられる比較対照
技術を両者の協議により選定する。
4.3 比較対照技術としては無治療や経過観察を用いることもできる。
4.4 「4.3」の場合を除いて、比較対照技術は原則として公的医療保険で使用が認
められているものとする。
4.5 比較対照技術として選定した理由については十分に説明する。
7
5 追加的有用性
5.1 費用対効果を検討するにあたっては、評価対象技術の比較対照技術に対する
追加的な有用性がデータによって示されているか、示されていないかをまず
評価する。
5.2 追加的な有用性を検討する際に、「4.」で選定した比較対照技術に対するRCT
のシステマティックレビュー(Systematic review: SR)を実施し、追加的有
用性の有無を評価する。適切なものであれば公開されていない臨床研究や治
験の結果等を含めてよい。
5.2.1 SRを実施する際には、リサーチクエスチョン(Research question:
RQ)を明確に提示する。例えばPICO(P:患者(Patient),I:介
入(Intervention),C:比較対照(Comparator),O:アウトカム
(Outcome))などで構造化されたRQを定義する。
5.2.2 評価対象技術あるいは「4.」で選定した比較対照技術とアウトカムが
同等であると考えられる同一作用機序あるいは同一機能区分等の類
似技術について、協議の上で適切と判断されれば、それらをSRにお
ける介入(I)あるいは比較対照(C)に含めてもよい。
5.2.3 「5.2.1」におけるアウトカム(O)指標は、臨床的な有効性・安全性・
健康関連QOLの観点のうち、評価対象技術の特性を評価する上で、
適切なもの(真のアウトカム指標など)を用いる。
5.2.4 PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews
and Meta-Analyses)声明の原則に従い、研究の組み入れ基準・除外
基準、使用したデータベース、検索式、論文選択のプロセス(情報フ
ロー図を含む)等を記載する。
5.2.5 信頼できる既存のSRが存在する場合、それらを活用することは可能
であるが、RQに合致するか、最新の文献まで含まれているか等を検
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討した上で、そのまま使用するあるいは追加的なSRを実施して研究
を追加する等の検討を行う。
5.2.6 実施することが適切な場合は、対比較のメタアナリシスを用いて各
試験を統合した結果を提示する。その場合、用いた統計手法、異質性
の評価、フォレストプロット、統合した値とその信頼区間等を明らか
にする。
5.2.7 SRにおける文献検索終了時点は、分析枠組みが決定された後から製
造販売業者による分析提出までの一時点に決める。
5.2.8 「5.2.7」の文献検索期間終了後に費用対効果評価において重要と考
えられる臨床研究(症例数の多い主要な研究結果、現在の知見と異な
る結果が得られた信頼性の高い研究等)が公表等された場合、公的分
析においてはその影響等を考慮し、それらを含めることを検討する。
5.3 「5.2」のSRの結果、適切なものが存在しない場合、「5.2」のプロセスに基づき、
アウトカムを比較した非RCT(観察研究等)のSRを実施し、追加的有用性を評
価する。
5.3.1 非RCTはRCTと比べて種々のバイアスが入りやすいので、研究の質
(研究デザイン、群間での患者背景の差異、統計解析手法、患者数や施
設数等)について十分に説明しなければならない。
5.3.2 レセプトやレジストリーなど既存の大規模なデータベース(リアル
ワールドデータ)を用いた研究については、研究の質にばらつきがあ
ることから、データベースの性質、国内外における医療環境の差異、
変数やイベントの定義、その妥当性やバリデーションの有無、解析手
法、日本への結果の外挿可能性等について十分に説明しなければな
らない。
9
5.4 評価対象技術の有効性の評価において、一定の質を有するRCTが存在する場
合、非RCTによる結果はRCTの結果を補完するものであることが基本的な考
え方である。
5.5 「4.」で選定した比較対照技術とのRCTは存在しないが、その他のRCTが存在
する場合、SRの結果を用いて、間接比較により追加的有用性の評価をしても
よい。
5.6 単群試験しか存在しない場合は、評価対象技術と比較対照技術それぞれにつ
いてのSRに基づき、間接比較を実施する。
5.7 間接比較を行う場合、以下を原則的な考え方とする。
5.7.1 個人レベルのデータを用いることができる場合、MAIC(Matcing-
adjusted indirect comparison:マッチング調整された間接比較)
等を用いて患者背景の違いなど適切な補正を行う。
5.7.2 個人レベルのデータを用いることができない場合、あるいは手法と
してより望ましいと考えられる場合は、複数のRCTを用いたネット
ワークメタアナリシスなどを実施する。
5.7.3 「5.7.1」および「5.7.2」においては、アンカーのある分析手法に基づ
くことが望ましい。
5.7.4 間接比較を行う場合は、間接比較を可能とする仮定や前提条件(疾
患、重症度、患者背景等の異質性や試験の同質性など)についても十
分に説明しなければならない。
5.7.5 個人レベルデータも比較試験結果も利用できない場合、その他の代
替手段が存在しなければnaïve indirect comparison(単純な間接
比較)を用いて評価をすることもできる。この場合、群間の比較可能
性について、より詳細な説明が必要である。
10 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
5.7.6 複数の分析手法が実施可能な場合、実施した方法を選択した理由(仮
定のあてはまりなど)について十分に説明し、必要に応じて異なる手
法による感度分析を実施する。
5.7.7 ネットワークメタアナリシスを実施する場合、以下の点についても
留意し、設定した理由を十分に説明する。必要に応じて、下記の設定
について感度分析を実施することを推奨する。
(A) ネットワークの広さ(治療群の数)
(B) 各群の設定(薬効群等でまとめるか個別製品ごとに設定するか)
(C) 投与量や投与方法の違う介入の取り扱い
(D) 日本における未承認薬等の取り扱い
5.7.8 ネットワークメタアナリシスを実施した場合、第三者が再現可能な
データと解析プログラムを可能な限り提出することとする。
5.8 追加的有用性の評価に用いた各研究(SRで特定したものやネットワークメタ
アナリシスに組み込んだものなど)については、文献情報を報告書中に提示
する。
5.9 「5.3」から「5.7」までの手法において得られた結果が、研究の質に課題がある
と判断されるものの治療効果が劣っているとは考えられない場合には、評価
対象技術のアウトカムが比較対照技術と同等であるという前提で、「6.」の分
析を実施する。
5.10 ヒトを対象とした適切な臨床研究が存在しない場合、適切ならば、医薬品医療
機器総合機構からの薬事承認をもって、比較対照技術と同等であるという前
提で、「6.」の分析を実施する。
5.11 「5.2」から「5.7」までの結果、アウトカムが比較対照技術と比べて劣ると判断
される場合は、費用対効果の分析は実施しない。
11
6 分析手法
6.1 効果を金銭換算せず、費用と効果を別々に推計する費用効果分析を分析手法
として用いることを原則とする。
6.2 「5.」の分析に基づき、追加的有用性が示されていると判断される場合に
は、各群の期待費用と期待効果から増分費用効果比(Incremental cost-
effectiveness ratio:ICER)を算出する。
6.3 ただし、以下の場合については、各群の期待費用と期待効果のみを提示をし
て、ICERは算出しないこととする。
6.3.1 比較対照技術と比べて効果が高く、かつ費用が安い場合。このとき、
ICERを算出せずに優位(dominant)であるとする。
6.3.2 「5.」の分析により、追加的有用性が示されていない場合には、比
較対照技術と費用を比較する(いわゆる「費用最小化分析(Cost-
minimization analysis:CMA)」)。このとき、結果は費用削減(同
等含む)あるいは費用増加とする。
6.3.3 「5.」の分析により、追加的有用性が示された場合でも、増分効果がわ
ずかに正で、増分費用も点推定値としては正負あるものの、ほぼゼロ
とみなせるときに、結果の不確実性が大きく、パラメータの軽微な変
更等によっても見かけ上ICERが大きく変動することがある。この
とき、結果は費用及び効果同等とする。
6.4 「3.2」あるいは「3.2.1」により、分析対象となる複数の疾患や、同一疾患内で
の複数の分析集団がある場合、ICERは疾患や集団ごとに算出する。
6.5 評価対象技術に関する既存の費用効果分析や主要な諸外国の医療技術評価
機関において公表された評価結果が既に存在する場合は、それらもあわせて
示す。
12 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
7 分析期間
7.1 評価対象技術の費用や効果におよぼす影響を評価するのに十分に長い分析期
間を用いる。
7.2 費用と効果は、原則として同じ分析期間を用いる。
7.3 分析期間については、そのように設定した理由を説明すること。
13
8 効果指標の選択
8.1 効果指標は質調整生存年(Quality-adjusted life year:QALY)を用いること
を原則とする。
8.1.1 QALYを算出することが困難であり、かつCMAを実施する場合、適
切であれば、QALY以外の評価尺度を使用することもできる。
8.2 QALYを算出する際のQOL値は、選好に基づく尺度(preference-based
measure:PBM)により測定したものを用いることを原則とする。
8.2.1 QOL値は日本における一般集団の選好が反映されたものを用いる。
8.2.2 使用するPBMとしては、日本語版のEQ-5D-5Lを第一選択として推
奨する。
8.3 PBMによりQOL値を測定する場合には、対象者本人が回答することが原則
である。
8.3.1 PBMを用いる場合、対象者本人から回答が得られない場合に限り、
家族や介護者等による代理の回答を用いてもよい。
8.3.2 PBMを用いる場合、医療関係者による代理回答は、対象者本人の回
答と乖離する可能性があるので、推奨しない。
8.4 QOL値は、「8.2」を満たすものがある限り、国内での調査結果を優先的に使用
することを推奨する。
8.4.1 ただし、国内における研究がないあるいは不十分で、海外で質の高
い研究がなされている場合は、海外で測定されたものを使用しても
よい。
14 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
8.4.2 海外で得られたPBMの回答については、日本における換算表を用い
てQOL値を集計するなど「8.2.1」の原則と一致するよう対応する。
8.4.3 個人レベルのデータが利用できず、「8.4.2」が困難でかつ結果に大き
な影響を与える場合は、日本におけるQOL値に対応しているか十分
な説明を行い、必要に応じて日本におけるQOL値に補正するなどを
検討する。
8.5 「8.2」に該当するデータが存在しない場合、その他の適切な健康関連QOL
(Health-related quality of life:HRQOL)データからQOL値へマッピング
したものを使用してもよい。
8.5.1 マッピングを実施する場合は、マッピング関数により得られるQOL
値が「8.2.1」の観点から妥当なものであるかを検討する。
8.5.2 QOL尺度間に概念上の重なりが乏しいあるいは存在しない場合は、
マッピングを実施することの適切性について検討する。
8.5.3 使用するマッピング式の開発過程や性質については、MAPS
(MApping onto Preference-based measures reporting
Standards)声明のチェックリスト等を利用して詳細な報告が必要
である。
8.5.4 詳細な報告ができないマッピング関数を使用することは推奨しない。
8.6 対象者本人から回答を得ることが困難な場合などには、仮想的な健康状態
のシナリオを用いて、一般の人々を対象にSG(Standard gamble:基準
的(cid:7756)け)法やTTO(Time trade-off:時間得失)法、DCE(Discrete choice
experiment:離散選択実験)法などの手法を用いて測定してもよい(ビニ
エット法)。
15
8.6.1 ビニエット法で測定されたQOL値は、提示する健康状態のシナリオ
により結果が大きな影響を受けることに留意が必要である。
8.6.2 評価に用いる仮想的な健康状態のシナリオについては、患者から直
接得られたものではないことから、作成方法やその妥当性を十分に
説明する。また、患者や臨床専門家のインプットを受けることが望
ましい。
8.6.3 結果を活用する場合は、評価に使用した実際のシナリオを提示する
こと。
8.6.4 「8.6.1」から費用対効果のデータソースとして過剰な推計とならな
いよう同一の健康状態においては同一のQOL値を用いるなどの留
意が必要である。
8.6.5 WEBを用いたSG法とTTO法の調査については、得られる結果にバ
イアスが入ることが知られていることから、対面での調査を行うこ
とが望ましい。
8.6.6 ビニエット法については、国内外の差異について検討が困難である
一方で、調査実施が比較的容易であることから、国内データを用いる
ことを推奨する。
8.7 「公的医療・介護の立場」からの分析の場合、実際のデータがあれば家族等の
介護者や看護者に与えるQOL値への影響について考慮に入れてもよい。
8.8 QOL値については、測定研究の質が同等である場合、「8.2」の原則に基づき、
以下の順序で使用を検討していくことを推奨する。下記があてはまらない場
合は、理由を十分に説明すること。
(A) 日本語版EQ-5D-5Lを用いて収集したもの(「8.2」)
16 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
(B) 日本での換算表が存在するEQ-5D-5L以外の日本語版の汎用的(generic)
PBMを用いて収集されたもの
(C) 日本での換算表が存在する日本語版の疾患・病態特異的(condition
specific)PBMを用いて収集されたもの
(D) 海外でPBMを用いて収集され、個票データが利用可能なもの。尺度の
優先順位は(A)(- C)の考え方による。(「8.4」)
(E) 海外でPBMを用いて収集され、個票データが利用できないもの。
(「8.4」)
(F) マッピングを用いてQOL値へと変換したもの。変換先の尺度やマッピ
ング式の国内外差の取り扱いについては(A)(- E)に準じる。(「8.5」)
(G) 日本での換算表が存在しないPBMにより収集されたもの
(H) ビニエット法を用いて収集したもの(「8.6」)
(I) その他の手法についてはやむを得ない事情や、学術的な妥当性が示され
ていない限り、使用を推奨しない。
なお、日本において開発された性質のよいマッピング式などは(F)よりも優
先的に使用しうる可能性がある。
8.9 小児におけるQOL値測定については、「8.2」「8.3」「8.8」の原則を現時点で
は適用しない。特に選好に基づく尺度を用いた場合の「8.3」についての対応
は、個別の状況による。
8.9.1 小児におけるQOL値測定については、使用した測定方法とその理由
を十分に説明する。
17
9 データソース(費用を除く)
9.1 費用対効果におけるアウトカムや費用の推計を行う際には、想定する当該疾
患の治療プロセスについてその根拠とともに示す。
9.1.1 上記の治療プロセスは、日本における標準的なあり方を反映してい
ること。
9.2 費用対効果を推計するにあたって使用する有効性・安全性・QOL値等のデー
タ(モデル分析を実施するにあたって使用する推移確率等のパラメータも含
める)については原則として、研究の質やエビデンスレベルが高く、かつ日本
における現実の臨床成績を反映しているものを優先的に使用する。
9.2.1 有効性・安全性・QOL値等のデータ選定においては、国内外の臨床研
究のSRに基づくことを推奨する。適切なものであれば公開されて
いない臨床研究や治験の結果等を含めてよい。
9.2.2 原則としてエビデンスレベルの高いデータの使用を優先すべきであ
るが、研究の質や分析における対象集団、結果の外的妥当性等を勘案
して適切なものを使用することを推奨する。(例:RCTの結果が、実
際の臨床成績と大きく乖離している可能性があるなど)
9.2.3 適切な場合は、既存の臨床研究やデータベース等を再解析した未公
表の結果を活用してもよい。その場合は、患者背景や解析手法等に
ついて詳細を明らかにする。
9.3 国内外でデータに明確な異質性が存在する際には、国内データを優先して使
用する。
18 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
9.4 評価対象技術と比較対照技術における値の差の有無が結果に大きな影響を与
えるパラメータについて、統計学的に有意な差が認められていない場合は、両
群で同じ値を用いることを原則とする。
9.4.1 上記について統計学的な検出力が不足している状況下で、両群で同
じ値を用いない場合は、支持するその他のデータや理由、治療効果の
大きさ(臨床的に意味のあるものか)などについてあわせて検討を行
い、妥当性を説明すること。
9.5 医療機器等の評価において、科学的に信頼できる定量的なデータがある場合
は、協議における両者の合意のもとで、上記のデータに基づく分析とは別に、
いわゆる習熟効果(経験の蓄積による治療効果等の改善)や製品改良による効
果を反映した分析を基本分析とあわせて提出してもよい。
19
10 費用の算出
10.1 「公的医療の立場」においては公的医療費のみを費用に含める。
10.2 各健康状態の費用は、評価対象技術によって直接影響を受ける関連医療費の
みを含め、非関連医療費は含めないことを原則とする。
10.3 各健康状態の費用の推計においては、日本における平均的な使用量や標準的
な診療過程等が反映されている必要がある。
10.4 各健康状態の費用の推計において、適切な場合には、「10.3」の観点から実臨床
を反映した国内におけるレセプトのデータベースを用いることを推奨する。
ただし、レセプト上で健康状態の定義が困難である、評価時点においてデータ
の十分な蓄積がないなど、推計の実施が困難な場合はその限りではない。
10.4.1 レセプトデータを用いて推計する場合、各健康状態の定義とその根
拠を示さなければならない。
10.4.2 費用を推計するために用いた手法(外れ値処理や非関連医療費の除
外などを含む)については、用いたものとその根拠を示さなければな
らない。
10.5 各健康状態の費用の推計において、レセプトデータベースを用いることが困
難と判断される場合、あるいはより適切であると判断される場合は、標準的な
診療プロセス等に基づき積み上げで算定してもよい。
10.5.1 積み上げで算定する場合は、「10.3」の観点から、その算定根拠につ
いて示すこと。関連する資源消費項目と消費量について、レセプト
等のデータベースを用いて同定するなどしてもよい。
10.5.2 費用を積み上げで推計する場合は、医療資源消費量と単価を区分し
て集計、報告することを原則とする。
20 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
10.5.3 「10.5.2」の資源消費量の集計において、注射剤のバイアルについて
は、残量廃棄を原則とする。
10.6 評価対象技術や比較対照技術の費用のみでなく、有害事象や将来の関連する
合併症等の費用も含めて推計する。
10.7 公的医療費については、保険者負担分のみならず公費や患者負担分も含めて
費用として取り扱う(公的医療費の全額)。
10.7.1 「2.2.2」の原則に応じて、検診やワクチン等の公的医療費に準じる費
用も費用として含める。
10.8 単価は可能な限り最新時点の診療報酬点数表や薬価基準等を使用する。特に
評価対象技術あるいは比較対照技術については必ず最新時点の価格を用いな
ければならない。
10.8.1 既存の疾病費用分析やレセプトデータを用いた分析などの場合、単
価は医療資源が消費された時点ではなく、分析実施時点にそろえた
ものを用いる。その際に、診療報酬改定率を乗じる等により調整し
てもよい。
10.8.2 結果に与える影響が無視できる程度である場合には、分析実施時点
に調整しないことも許容する。
10.9 比較対照技術に後発医薬品(バイオシミラーを含む)が存在する場合は、それ
らの価格を用いた分析もあわせて提出する。
10.10 評価対象技術あるいは比較対照技術の費用が包括支払いの対象となっている
場合は、出来高で費用を算出する。
21
10.11 将来時点に発生する費用も、現時点における医療資源消費や単価に基づき推
計したものを用いる。
10.12 海外データを用いる際には、医療資源消費量について、国内外における医療技
術の使用実態等の違いに配慮する必要がある。単価は国内のものを反映させ
なければならない。
22 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
11 公的介護費・生産性損失の取り扱い
11.1 「公的医療・介護の立場」では、基本分析に加えて、公的介護費を含める追加的
分析を実施することができる。なお、公的介護費は国内の知見に基づき推計
されたものを用いる。
11.2 公的介護保険の費用を分析に含める場合は、要介護度・要支援度別に費用を集
計することを推奨する。
11.3 要介護度ごとの公的介護保険の利用額は、対象疾患等における実際の資源消
費量に基づくことが原則であるが、測定することが困難な場合は平均的な受
給者1人当たり費用額等を用いてもよい。
11.4 生産性損失を含めた分析を行う場合、基本分析に加えて、追加的分析を実施す
ることができる。ただし、生産性損失を含めることができるかどうかは、疾患
の特性等による就業可能性を考慮しなければならない。また、生産性損失は
国内の知見に基づき推計されたものを用いる。
11.5 生産性損失の減少は、
(A)医療技術に直接起因するもの(治療にともなう入院期間の短縮等)
(B)アウトカムの改善(病態の改善や生存期間の延長等)を通じて間接的に生
じるもの
に分けて考えることができる。
生産性損失を分析に含める場合には、原則として(A)のみを費用に含めるこ
ととする。
11.6 生産性損失は、人的資本法を用いて推計することを基本とする。これは、当該
疾患に罹患していなければ、本来得られたであろう賃金に基づき推計する方
法である。
11.6.1 生産性損失を推計する際に単価として用いる賃金は、公平性等を考
慮して、最新の「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)に基づき、
23
全産業・全年齢・全性別の平均あるいは全産業・全性別の年齢階級別
の平均を用いることとする。
11.6.2 生産性損失を推計するにあたっては、対象となる集団において就業
状況を調査し、実際に仕事等に従事できなかった日数や時間を測定
する。これに全産業・全年齢・全性別の平均賃金を乗じて生産性損失
を推計することが原則である。
11.6.3 「11.6.2」の実施が困難な場合、対象集団において仕事等に従事でき
ないと推計される日数(休日は除く)や時間に全産業・全年齢・全性
別の平均賃金を乗じて生産性損失とする。ただし、この方法は18歳
以上の就業率を100%と仮定するものであり、生産性損失を過大推
計する可能性のあることに留意が必要である。
11.7 家族等による看護や介護のために本人以外の生産性が失われることが明らか
な場合は、本人の生産性損失と同じ条件・取り扱いのもとで費用として含めて
もよい。
11.8 仕事等の減少とは無関係な時間費用等については含めないこととする。
24 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
12 割引
12.1 将来に発生する費用と効果は割引を行って、現在価値に換算しなければなら
ない。
12.1.1 ただし、分析期間が1年以下、あるいは短期間でその影響が無視でき
る程度であるときは、割引を行わなくてもよい。
12.2 費用・効果ともに年率2%で割引を行うこととする。
12.3 割引率は、感度分析の対象とし、費用・効果を同率で年率0%から4%の範囲で
変化させる。
25
13 モデル分析
13.1 「7.」の原則に基づき、予後や将来費用を予測するために決定樹モデル、マルコ
フモデル等を用いたモデル分析を行ってもよい。
13.2 モデル分析を行う際には、そのモデルの妥当性について示さなければならな
い。例えば、
(A) 内的妥当性:なぜそのような構造のモデルを構築したのか、病態の自然
経過を十分にとらえられているか、使用しているパラメータは適切なも
のか等
(B) 外的妥当性:既存の臨床データ等と比較して、モデルから得られた推計
が適切なものであるか等
13.3 モデルを構築する際に使用した仮定については明確に記述する。
13.4 モデルを構築する際に使用したパラメータとそのデータソースについてはす
べて提示する。
13.5 使用したモデルや計算過程については電子ファイルの形式で、第三者の専門
家が理解でき、かつ原則としてすべての主要なパラメータ(推移確率、QOL
値、費用)を変更できる形で作成し、提出する。
13.5.1 費用については、その全体額のみでなく、それらの詳細(積み上げの
場合は各資源消費量と単価など)を変更できるようにしておくこと
が望ましい。特に評価対象技術や比較対照技術の単価については、
第三者が変更できるようにしなければならない。
13.6 マルコフモデルを用いて解析する場合、1サイクルあたりの期間が長く、結果
に影響を与える場合は、半サイクル補正を実施する。
26 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
13.7 マイクロシミュレーションなど確率的にICERの値が変動し、一意に定まらな
いモデルを用いる場合は、以下の点について留意する。
(A) 結果の再現性が担保できるように乱数のシード値などを設定する。
(B) 乱数のシード値によって分析結果が大きく変わらないことを説明する。
意思決定に使用することが困難であるほどに、試行によって結果のばら
つきが大きいモデルは、受け入れられないことがある。
(C) 確率的な変動によりICERの値が変わっても、乱数の生成によってのみ
生じるICERの誤差については、極端な外れ値を用いるなど恣意的に結
果が採用されていない限り、論点としない。
(D) 結果のばらつきが大きい場合は、単回の試行結果ではなく、複数回の試
行結果の平均値等を用いることを推奨する。
(E) 通常の事務用機器において、1回の試行に長時間を要するモデルは、レ
ビュー等の実施が困難となるため使用しない。
27
14 不確実性の取り扱い
14.1 分析の設定等が一意に定まらず、それらの違いが結果に影響を与える可能性
がある場合は、複数のシナリオに基づいた分析を行う。
14.2 分析期間が長期にわたり不確実性の大きい状況では、臨床研究のデータが存
在する期間を分析期間とするなど、より短期の分析もあわせて行う。
14.3 「5.」において比較対照技術との比較試験が存在しない場合、特に単群試験の
結果同士を比較した場合は、不確実性が大きいので十分に広い範囲での感度
分析を実施する。
14.4 推定値のばらつきの大きなパラメータ、実際のデータではなく仮定に基づき
設定したパラメータ、諸外国のデータで国内のデータと異質性を有する可能
性があるパラメータ等については、感度分析の対象とする。
14.5 推定値のばらつきのみが問題となる場合(パラメータの不確実性を取り扱う
場合)、感度分析で動かす幅としては、95%信頼区間などを参考に設定する。
14.6 結果に大きな影響を与えるにもかかわらず、不確実性の大きなパラメータに
ついては、基本分析において用いた値の妥当性について十分な説明が必要で
ある。また、その不確実性の結果として、意思決定へ与える影響について検討
する。
14.6.1 不確実性の大きなパラメータが意思決定に与える影響について検討
する上で、閾値分析が有用な可能性がある。
14.7 確率的感度分析(Probabilistic sensitivity analysis:PSA)もあわせて実施
することが望ましい。その場合、使用したパラメータの分布についても明
らかにするとともに、費用効果平面上の散布図と費用効果受容曲線(Cost-
effectiveness acceptability curve:CEAC)を提示する。
28 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
QOL値
用語集
人々の健康状態(から得られる価値)を0(死亡)から1(完全な健
康状態)に基準化して、一次元で数値化したもの。ただし、「死ぬよ
り悪い」健康状態として負のスコアも取りうる。
QOL値の測定方法には大別して、仮想的な(あるいは本人の)
健康状態に対して、その状態のQOL値を一般の人々を対象に質問
する「直接法」(基準的(cid:7756)け(SG)法、時間得失(TTO)法など)と、
QOL質問票により得られた回答からスコアリングアルゴリズム
を用いてQOL値を算出する「間接法」が存在する。なお、TTOと
SGで測定された値には,系統的な差が存在する可能性があるので
留意が必要である。
すべての患者報告アウトカム(Patient-reported outcome:
PRO)やQOL尺度での測定値から費用効果分析で使用されるQOL
値が算出できるわけではないことに注意が必要である。費用効果
分析で利用できるのは、下記のようにQALYを算出するために開発
された選好にもとづく(preference-based)尺度で測定したもの
のみである。
現在のところ、日本でスコアリングアルゴリズムが開発されて
いる尺度としてはEQ-5D(EuroQol 5 dimension)、HUI(Health
Utilities Index)等がある。
29
や、適切な統計手法(例えば、単純な(naïve)間接比較ではなく調整
された(adjusted)間接比較)を使用することが必要である。また、
エビデンスレベル
ネットワークメタアナリシス(あるいは多群間治療比較(multiple
エビデンスレベルには様々な分類法が存在するが、Minds treatment comparison:MTC)とも呼ばれる)のようなより高度な
(Medical Information Network Distribution Service)では以下のよ 手法を用いた分析についても検討しうる。
うに定めている。
I システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス
II 1つ以上のRCTによる
感度分析
III 非ランダム化比較試験による
IV a 分析疫学的研究( コホート研究) 不確実性が存在する場合等に、パラメータの値を変化させること
IV b 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究) により、結果への影響を見ることを感度分析という。1つのパラメー
V 記述研究( 症例報告やケース・シリーズ) タを変化させる一次元感度分析、2つのパラメータを同時に動かす
VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見 二次元感度分析、複数のパラメータの不確実性を同時に取り扱う
PSA(確率的感度分析の項を参照)などがある。また、閾値を超過す
ただし、RCTのような実験的研究が現実の臨床成績と乖離してい るパラメータの値を算出することを閾値分析(threshold analysis)
る可能性はしばしば指摘されている。エビデンスレベルの高いもの と呼ぶ。
の使用を原則としつつも、状況に応じた適切なデータによってを採
用する必要がある。
システマティックレビュー
システマティックレビュー(SR)とは特定の課題について文献等
確率的感度分析
を網羅的に探索し、可能な限りバイアスなくその結果や評価報告す
確率的感度分析(Probabilistic sensitivity analysis:PSA)は、モ る手法である。Mindsによれば『実際の作業面から定義すると、SR
デルのパラメータに分布を当てはめること等により、増分費用や とは「クリニカルクエスチョンに対して、研究を網羅的に調査し、研
増分効果、ICERの分布を得るための手法である。確率的感度分析 究デザインごとに同質の研究をまとめ、バイアスを評価しながら分
の結果は、費用効果平面上に散布図をプロットし、CEACとして 析・統合を行うこと」』とされる。
f(γ)=Pr(γ・IE - IC >0)を書くことが一般的である(IC:増分費用、IE: しばしばSRとメタアナリシスが混同して使用されることもある
増分効果、γ:支払意思額)。 が、SRにおいて得られた結果は必ずしも統計的に統合する必要は
なく、このようなものを「定性的システマティックレビュー」と呼ぶ
こともある。結果を統合することが適切な場合は、SRの結果に基づ
き、メタアナリシスを実施することとしている。
なお、SR(メタアナリシス)の報告様式としては、国際的に
間接比較
PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and
例えば臨床試験によって“A vs. B”と“A vs. C”の結果が得られて Meta-Analyses)声明が標準的に使用されている。
いるとき、これらの結果から直接比較のない“B vs. C”の結果を推測
することを間接比較(indirect comparison)と呼ぶ。適切な比較対照
を用いて分析しようにも直接の比較試験がない場合、間接比較を適
用することができる場合がある。
質調整生存年
間接比較が成り立つためには“A vs. B”の結果が“A vs. C”の集団
にも適応できること、逆に“A vs. C”の結果が“A vs. B”の集団にも適 質調整生存年(QALY)は、生存年にQOL値を乗じることによ
応できることが条件となる。このことを同質性(similarity)の仮定と り得られる。QOL値が1は完全な健康を、0は死亡を表す。QOL
呼ぶ。間接比較を行うにあたっては、このような仮定に関する検討 値0.6の健康状態で2年間生存した場合、生存年は2年だが、0.6 x
30 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
2=1.2QALY(完全に健康な状態で1.2年生存したのと同じ価値)と計 の改善や生存期間の延長などアウトカムの改善を通じた間接的な
算される。時間とともにQOL値が変化する場合、図のようにQOL 生産性損失は含めないこととし、入院期間の短縮など医療技術に直
値の経時変化をあらわす曲線下面積が獲得できるQALYとなる。 接起因するもののみを含めてもよいこととしている。
増分費用効果比
増分費用を増分効果で割ったものを増分費用効果比(ICER)とい
う。以下の式により、治療Bと比較した場合の治療AのICERが算
出される。
IC C - C
A B
ICER = =
IE E - E
A B
図QALYの概念図
IC: 増分費用 C : 治療Bの期待費用
B
IE: 増分効果 E: 治療Aの期待効果
A
C: 治療Aの期待費用 E : 治療Bの期待効果
人的資本法 A B
生産性損失を、本来得られたであろう賃金に基づき推計する方法 効果指標1単位獲得するあたり、いくらかかるかを表す指標であ
を人的資本法(human capital method)と呼ぶ。しかし、完全雇 り、値が小さいほど費用対効果はよい。
用が実現されていない状況下では、その人が働けなくてもかわりの
誰かが働くはずであり、長期的には必ずしも生産性が失われるわけ
ではない。そのため、社会における生産性がもとの水準に回復する
までにかかる摩擦費用(friction cost)のみを含めるべきという意
追加的有用性
見もある。賃金は、疾病により実際に労働できなかった期間を調査
することにより推計すべきであるが、そのような作業が困難な場合 費用効果分析を実施するにあたっては、増分費用効果比を算出す
は、家事労働を含めたデータが存在しないため就業率を100%とし る前に、比較対照技術と比して追加的有用性等を有することを示す
て取り扱ってもよい。また、賃金の単価については、公平性の観点 必要がある。追加的有用性を示す際の効果指標については、必ずし
から、実際の単価にかかわらず全産業・全年齢・全性別の平均賃金 も費用効果分析における効果指標と同一である必要はないが、臨床
を用いる。 的に意味のあるものを選択する必要がある。追加的有用性を有す
ると判断される場合は、費用効果分析によりICERを算出する。一
方で、追加的有用性を有すると判断できない場合は、いわゆるCMA
により費用の比較を実施する。
生産性損失
病気が原因で仕事や家事ができなくなることによる社会的な損
失(あるいは早期に回復できることによる社会的な便益)は生産性
非関連医療費
損失(productivity loss)として、分析の立場によっては費用に含め
ることができるが、基本分析では含めないこととしている。また、 医療費は、評価対象技術によって直接影響を受ける関連医療費
生産性損失の範囲としては、本人のみならず家族等による看護や介 (related medical cost)と生命予後の延長等により間接的に影響
護(インフォーマルケア)について検討してもよい。ただし、本ガイ されるもの、あるいは当該疾患と関連しないもの等の非関連医療費
ドラインでは、効果との二重計上になる恐れがあること等から病態 (unrelated medical cost)とに分類できる。例えば、高血圧治療に
31
よって心血管疾患や脳卒中が減少すると、期待余命が延長して、非 狭義の不確実性は、大きく(a)モデルの不確実性と(b)パラメー
関連医療費(例えば認知症や糖尿病、腎透析など)が増大する可能性 タの不確実性に分けることができる。前者のモデルの不確実性は、
がある。このような非関連医療費は原則として費用に含めないこ さらに(a)-1方法論上の不確実性や(a)-2モデルの構造・仮定等に
ととしている。 起因するものがある。
(a)-1方法論上の不確実性は、割引率や生産性損失の推計方法、
QOL値の測定方法等が理論的には一意に定められないために生じ
る。これらを避けるためには、標準的な共通の手法に従って分析を
行うことが重要であるが、割引率など結果に大きな影響を与える場
ビニエット法
合には、一次元感度分析によってその不確実性の大きさを評価する。
仮想的な健康状態の記述(ビニエット, vignette)を回答者に読ま (a)-2モデルの構造・仮定に起因する不確実性は、健康状態や治
せて、その健康状態を想起させることにより、QOL値の評価を行う 療プロセスのモデル化法、モデルに組み込むパラメータの選択、観
方法。評価にはいわゆる直説法とも呼ばれるSG法、TTO法、DCE 察期間を超えて長期的な予後を予測するための仮定等によって生
法などが用いられる。記述された健康状態は患者から直接得られた じる。感度分析等によって評価する。
ものではない一方で、得られるQOL値に大きな影響を与えること (b)パラメータの不確実性は、パラメータの推定値が持つ不確実
から、恣意的なシナリオとならないよう慎重な配慮が必要である。 性によって生じる。例えば、ある臨床試験の中で100人中10人に
イベントが起こったとしても、真のイベント発生率(母イベント発
生率)は10/100=0.1ではないかもしれない。このような統計的
推測に起因する不確実性に対処するには、通常の感度分析に加えて
費用効果分析 PSAを行うことも有用である。
医療技術の経済評価は下記の4パターンに分類されることが多
い。(a)アウトカムを同等とおいて費用のみを検討する「費用最小
化分析(Cost-minimization analysis:CMA)」、(b)QALY以外の
マッピング
種々のアウトカム指標(生存年、イベント回避など)を用いる「費用
効果分析(Cost-effectiveness analysis:CEA)」、(c)QALYを用 選好にもとづく尺度による測定値が存在しない場合、患者報告ア
いる「費用効用分析(Cost-utility analysis:CUA)」、(d)アウトカ ウトカム(PRO)での測定結果から、費用効果分析で使用するQOL
ムを金銭化して評価する「費用便益分析(Cost-benefit analysis: 値を算出することが有用な場面もある。このような尺度間のスコ
CBA)」。 ア変換をマッピング(mapping)と呼ぶ。他のデータが存在しない
しかし、CMA、CEA、CUAは費用とアウトカムを別々に推計する ときなどにマッピングは次善の手法として許容されうるものの、統
という点では、同種の分析であるとも考えられるので、本ガイドラ 計学的な妥当性などを十分に検討した上で実施すべきである。
インではこれらの手法をまとめて費用効果分析と呼んでいる。
メタアナリシス
不確実性
システマティックレビューで得られた結果を統計的手法によっ
費用効果分析を行う上では、様々な分析の不確実性(uncertainty) て統合し、統合した値やその信頼区間を求める手法である。異質性
がともなう。 が小さい場合は、固定効果モデル、異質性が大きい場合は変量効果
異質性(heterogeneity)は、広義の不確実性の一種であり、比較 モデルやベイズモデルを用いるのが一般的である。結果はフォレ
対照技術や診療パターン、対象患者等が一意に定まらない状況を指 ストプロットを用いて表記する場合が多い。治療間の対比較では
す。これは、次に説明する狭義の不確実性とは異なり、統計学や医 なく、複数の治療の比較を同時に行う場合は、ネットワークメタア
療経済学上の技術的な問題ではなく、現実が多様であることに起因 ナリシスと呼ばれる手法が用いられる(→間接比較)。
する。このような異質性が存在する場合は、複数のシナリオ設定に
基づいた感度分析を行うことを推奨している。
32 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
優位・劣位
評価対象技術が比較対照技術と比して費用が安く効果も同等以
上である場合、その医療技術は「優位(dominant)」であるという。
一方、評価技術が対照技術と比較して費用が高いが効果は同等以下
である場合、その医療技術は「劣位(dominated)」と呼ばれる。
割引
費用効果分析においては、将来に発生する(あるいは得られる)費
用とアウトカムを現在価値に換算するため、一定の率で割引くこと
が一般的である。年単位で割引を行ったあとの現在価値に換算さ
れた費用Cpは、i年後の費用Ciと割引率dを用いて
C
i
C =
P (1+d) i-1
によって計算することができる。効果についても同様である。
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略語一覧 CBA: MTC:
Cost-benefit analysis Multiple treatment comparison
費用便益分析 多群間治療比較
CEA: PBM:
Cost-effectiveness analysis Preference-based measure
費用効果分析 選好に基づく尺度
CEAC: PRO:
Cost-effectiveness acceptability curve Patient-reported outcome
費用効果受容曲線 患者報告アウトカム
CMA: PRISMA:
Cost-minimization analysis Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and
費用最小化分析 Meta-Analyses
CSPBM: PSA:
Condition specific preference-based measure Probabilistic sensitivity analysis
疾患・病態特異的尺度 確率的感度分析
CUA: QALY:
Cost-utility analysis Quality-adjusted life year
費用効用分析 質調整生存年
DCE: RCT:
Discrete choice experiment Randomized controlled trial
離散選択実験 ランダム化比較試験
EQ-5D: RQ:
EuroQol 5 dimension Research question
リサーチクエスチョン
HRQOL:
Health-related quality of life SG:
健康関連QOL Standard gamble
基準的賭け法
ICER:
Incremental cost-effectiveness ratio SR:
増分費用効果比 Systematic review
システマティックレビュー
MAIC:
Matching-adjusted indirect comparison TTO:
マッチング調整された間接比較 Time trade-off
時間得失法
34 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター(C2H)
政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)
「医薬品・医療機器の費用対効果評価における分析ガイドラインの改定に資する研究」班
(研究代表者: 福田 敬)
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この資料について
出典:厚生労働省ホームページ (https://www.mhlw.go.jp/)
当サイトが保存しているのは、PDFから取り出した文字だけです。 これは言葉で探せるようにするためのもので、 厚生労働省が公表した資料そのものではありません。 図表・画像・レイアウトは失われています。
正確な内容は、必ず厚生労働省のPDFをご確認ください。