何が決まったか
塩野義製薬は2026年10月5日に開催した取締役会において、米国グループ会社のShionogi Inc.(本社:米国ニュー・ジャージー州)が、IntraBio Inc.(本社:米国テキサス州)と買収契約を締結することを決議した。合意内容に基づき、IntraBio社はShionogi Inc.の完全子会社となる予定である。契約締結日は決議と同じ2026年10月5日。
取得するのはIntraBio社の発行済株式のすべてで、議決権所有割合は異動前の0.0%から100.0%となる。取得価額は2,000百万米ドル(315,560百万円、1米ドル=157.78円で換算)。株式は既存株主(個人および信託、法人等)から取得するもので、相手先は個人情報保護の観点および先方の要請により非開示とされている。
取引実行日は2026年11月~2026年12月の予定。各国競争法に関する適用される待機期間の満了、該当する規制当局の承認およびクリアランスの取得を含む前提条件が満たされることが条件となる。2027年3月期の連結業績への影響は「現在精査中」としている。
本件で塩野義製薬の法務アドバイザーはCleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP、財務アドバイスはGoldman Sachs & Co. LLCが担当した。IntraBio社側の財務アドバイザーはCenterview Partners LLCおよびMorgan Stanley & Co. LLC、法務アドバイザーはKirkland & Ellis LLPおよびDLA Piper LLPが務めた。
獲得する資産とIntraBio社の姿
本取引により、塩野義製薬はAQNEURSA®(一般名:レバセチルロイシン)およびその関連化合物の知的財産および販売権を含むグローバルでの全権利を取得する。
AQNEURSAは、ニーマン・ピック病C型(NPC)に伴う神経学的症状の治療薬として欧米で承認され、米国で販売が開始されている。米国では成人および体重15kg以上の小児患者が対象。欧州では成人および体重20kg以上の6歳以上の小児患者を対象に、ミグルスタットとの併用療法、またはミグルスタットが使用できない患者における単剤療法として承認されている。NPCは遺伝性の進行性神経変性を伴うライソゾーム病で、約10万人に1人の割合で発症するとされる。
さらに2026年9月18日、AQNEURSAは毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia-Telangiectasia:A-T)に対する治療薬として米国FDAの承認を取得した。A-Tに対してFDAの承認を受けた初めての治療薬であり、現在のところAQNEURSA以外にA-Tに対して承認された治療薬は存在しない。A-Tは通常幼児期に発症する遺伝性の進行性神経変性疾患で、およそ4万人~10万人に1人の割合で発症するとされる。欧州でも、A-Tに対する適応追加の申請が実施されている。
IntraBio社は2015年設立。希少な神経変性疾患および遺伝性神経疾患を対象とした医薬品の研究・開発・販売に特化したバイオ医薬品企業で、代表者はMallory Factor President and CEO。リソソーム機能や細胞内カルシウムシグナリングの調節に着目した低分子医薬品の開発を強みとする。資本金は316米ドル、株主構成は同社の意向により非公表。
業績(米国会計基準)は、連結売上高が2023年12月期0、2024年12月期3,535千米ドル、2025年12月期67,867千米ドル。連結営業利益は同順に△22,434千米ドル、△56,215千米ドル、△35,292千米ドル。連結当期純利益は△26,827千米ドル、78,283千米ドル、△35,371千米ドル。連結総資産は42,787千米ドル、168,507千米ドル、173,701千米ドルと推移している。塩野義製薬との間に資本関係・人的関係・取引関係はいずれも該当事項はない。
背景——希少疾患を「感染症以外の重点領域」に
塩野義製薬は「常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬(ヘルスケアソリューション)を提供する」を基本方針に掲げ、感染症領域を中心に事業を展開してきた。その一方で、マテリアリティの一つに「健やかで豊かな人生への貢献」を特定し、感染症以外の重点領域として希少疾患の強化・確立に取り組んでいる。
直近の動きとしては、2026年4月より筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬エダラボン(米国での製品名「RADICAVA®」、日本での製品名「ラジカット」)のグローバル販売を開始し、事業基盤の構築を進めてきた。同社は本取引を、希少疾患における新たな製品と専門性の獲得を通じて将来の事業拡大を実現するための「戦略的な事業投資」と位置づけている。
何が変わるか
ポイントは二つある。
第一に、販売基盤の重なりである。AQNEURSAは希少神経疾患を対象とする治療薬であり、塩野義製薬は米国でRADICAVA®の事業展開を通じて希少疾患における知見および事業基盤を有している。同社は取引完了後、RADICAVAで築いた基盤を活用してAQNEURSAを患者に早期かつ確実に提供するとしている。承認済み・販売開始済みの製品を、既存の希少疾患販売網に乗せる構図だ。
第二に、人材とノウハウの取り込みである。同社はIntraBio社から希少疾患に精通した人材とノウハウを獲得することで専門性を強化し、開発を進めている脆弱X症候群やJordan症候群、ポンペ病などの開発品、ならびに研究初期段階の開発候補品を含む多くのアセットの研究開発を加速するとしている。つまり、本取引は単一製品の取得にとどまらず、自社パイプライン全体の推進力として設計されている。
A-T適応がFDA承認を受けた唯一の治療薬であること、欧州でも同適応の追加申請が進んでいることを踏まえれば、獲得する権利の射程はNPC一疾患にとどまらない。塩野義製薬は本取引を通じて、希少疾患を「将来にわたる当社の注力事業として確立する」としている。実行は2026年11月~12月の予定で、各国競争法および規制当局の手続きが残されている。