何が示されたか
中央社会保険医療協議会の薬価専門部会は、10月7日に開かれた第249回会合で「令和9年度薬価改定について」を議題とし、資料「薬-1 令和9年度薬価改定について②(新薬)」が提出された。資料には、令和9年度薬価改定の検討にあたっての前提となる政府・中医協の既決定文書が抜粋の形で並べられている。具体的には、令和7年12月26日に中医協が了解した「令和8年度薬価制度改革の骨子」、令和8年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太方針2026)」、同じく令和8年7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」の三つである。
「令和8年度薬価制度改革の骨子」の該当部分は「4.診療報酬改定がない年の薬価改定」で、「大臣折衝事項」(令和7年12月24日厚生労働省)に基づき令和9年度薬価改定を着実に実施するとしたうえで、その際の対象品目の範囲や適用される各種ルールの在り方については、創薬イノベーションの推進、医薬品の安定供給の確保、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減という要請にバランス良く対応するとの基本的な考え方を踏まえて検討する、と明記している。
骨太方針2026と日本成長戦略
骨太方針2026は、第3章「責任ある積極財政に基づく『中長期経済財政計画』」の中の全世代型社会保障の構築の項で、創薬・先端医療イノベーションを取り上げている。経済・物価動向等の影響を受ける市場実勢価格を薬価調査等により的確に把握した上で、創薬イノベーション、医薬品の安定供給と国民負担の軽減の観点から、2027年度薬価改定を実施するとしている。あわせて、費用対効果評価制度について客観的な検証を進め、これも踏まえて制度の発展に向けた更なる見直しを具体的に検討し、一定の結論を出すとする。さらに、我が国の医薬品市場の魅力を高める観点から、医薬品の画期性に対する初収載時における適切な評価や特許期間中の薬価の在り方を含め、革新的新薬のイノベーションの更なる評価について検討を進めるとしており、「特許期間中の薬価の在り方」には脚注で「市場拡大再算定及び持続可能性特例価格調整等」と注記されている。
同方針は前段で、米国の医薬品に係る最恵国待遇(MFN)価格政策など諸外国の医薬品をめぐる政策の動きがある中でも必要な医薬品等が確実に上市される環境整備に触れ、特定重要物資を含む供給確保の必要性が高い医薬品等の国産化等による安定供給、バイオ後続品の国内生産体制の整備、後発医薬品等の安定供給、国際水準の治験・臨床試験体制の整備と国際共同治験の倍増などを掲げている。
日本成長戦略は、17の戦略分野のうち62の「主要な製品・技術等」を特定し、官民投資ロードマップを策定したとする。創薬・先端医療分野では、医薬品産業を成長・基幹産業と位置付けるとし、「ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品(医薬品、再生医療等製品)」について、世界の医薬品市場は2022年に約200兆円の規模であり、特許品の世界市場は年平均9.6%で拡大しているとの認識を示している。主な目標として、我が国の特許品の市場規模について特許品の世界の成長に比肩する成長を目指すこと、我が国企業の特許品市場規模について世界市場と同水準の成長の実現を目指すことを挙げる。施策としては、人材の育成・流動化支援、カーブアウトシーズの活用やM&A支援を含むスタートアップ支援の強化、国際水準の治験実施体制整備、AMEDによる研究開発資金の使途改善、難病・希少疾患領域の支援、データ利活用やAIによる研究開発プロセスの高度化・効率化、新薬の国際展開などが並ぶ。
新薬ルール議論にとっての意味
今回の資料は、新薬の薬価ルールを論じる土台が、中医協内部の合意である薬価制度改革の骨子だけでなく、同じ日に閣議決定された骨太方針2026と日本成長戦略にも置かれていることを明示するものだ。骨子が示した三つの要請——創薬イノベーションの推進、安定供給の確保、国民負担の軽減——のバランスという枠組みは維持されつつ、骨太方針が「初収載時における適切な評価」と「特許期間中の薬価の在り方」を名指しし、さらに脚注で市場拡大再算定と持続可能性特例価格調整を挙げたことで、新薬をめぐる具体的な検討対象の輪郭は従来より絞り込まれている。
また、日本成長戦略が特許品市場の成長率という数値目標を掲げている点は、薬価制度の議論が医療保険財政の枠内にとどまらず、産業政策の目標と接続されていることを意味する。費用対効果評価制度についても「一定の結論を出す」と期限感のある書きぶりがなされており、令和9年度薬価改定に向けた部会の議論は、対象品目の範囲という各論と、革新的新薬の評価という総論の双方を抱えて進むことになる。