アムジェン株式会社(本社:東京、代表取締役社長:スザナ・ムルテイラ)と一般社団法人日本肥満学会(理事長:下村伊一郎)は、2026年10月15日、「肥満症の研究と対策を通じた国民の健康増進のための産学連携に関する覚書」を締結した。発表は2026年10月16日。

何が決まったか

本覚書は、日本における肥満症対策の推進と、関連する社会・医療環境の改善および充実に向けて、両者が継続的に協議・連携するための枠組みを構築するものである。発表によれば、日本肥満学会が掲げる「日本人肥満症の予防・治療に取り組み、“健康な日本”をつくる」という理念と、アムジェンのミッション「To serve patients ― 患者さんのために、今できるすべてを」が目指す方向性を踏まえたものだという。

覚書に基づく主な連携領域として挙げられたのは、次の4点である。

  • ライフコースを通じた予防の推進
  • 医療提供体制の整備に向けた連携強化
  • 肥満・肥満症に対する理解不足の解消
  • その他、本覚書の方針に沿った連携施策

ただし、この段階で具体的な事業内容は確定していない。個別の活動については、今後、両者が内容、実施体制および役割を協議し、必要な手続きを経た上で決定するとしている。

注目されるのは、発表文に明記された一線である。アムジェンは、日本肥満学会および研究者の専門性と研究の独立性を尊重し、研究結果に影響を与えることはないとした。さらに、本連携の成果を、特定の製品の使用、販売または推奨を目的として利用することはない、とも記している。製薬企業と学会の連携において問題になりやすい点を、覚書の発表時点であらかじめ文章として示した形だ。

下村理事長はコメントで、「肥満症の予防と治療をさらに前進させるためには、医療従事者による取り組みに加え、行政、自治体、企業をはじめとする幅広い関係者が、それぞれの専門性と役割を生かして連携することが重要です」と述べ、支援を必要とする人が適切な相談や医療につながる環境の充実への寄与に期待を示した。ムルテイラ社長は「日本の肥満症研究と診療を牽引する日本肥満学会との、公式かつ透明性のある連携を大変意義深く受け止めています」とし、学会の専門性と研究の独立性を尊重し、責任ある立場で参画するとコメントしている。

背景にある「肥満症=疾患」という位置づけ

発表資料は、肥満症を「単に体重が重いという状態ではない」と説明する。日本では、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積し、体格指数(BMI)が25以上の状態を「肥満」と判定する。そのうえで「肥満症」は、肥満に起因または関連する健康障害を合併している、あるいはその合併が予測される状態であり、一人ひとりの健康状態や生活背景に応じた医学的評価、継続的な支援および長期的な健康管理が重要となる疾患と位置づけられている。

関連する健康障害として挙げられているのは、2型糖尿病、心不全、腎疾患、睡眠時無呼吸症候群、アテローム性動脈硬化性心血管疾患、代謝機能障害関連脂肪肝炎など。また、肥満症の発症や体重の調節には、食生活や身体活動だけでなく、遺伝的、生物学的、環境的要因などが複雑に関係するとしている。

一方で資料は、肥満症が本人の意思や自己管理だけの問題と捉えられることがあり、こうした誤解や偏見が、肥満症と向き合う人が必要な支援や医療につながるうえでの障壁となる可能性を指摘する。今回の連携領域に「肥満・肥満症に対する理解不足の解消」が明示されているのは、この認識を反映したものと読める。

日本肥満学会は1980年に発足し、2012年に一般社団法人へ移行した。現在の会員数は2,600名を超え、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師など多職種で構成される。「学問・予防・治療」を理念に掲げ、肥満症を医学的治療を要する慢性疾患として位置づけたうえで、「肥満症診断基準」「肥満症診療ガイドライン」の策定、「肥満症専門医」「肥満症生活習慣改善指導士」の認定制度を通じて、診療の質向上とチーム医療による予防・治療体制の整備を進めてきた。

アムジェン株式会社は、米国アムジェン社の日本法人で、本社は東京都港区赤坂。設立は2020年04月。循環器疾患、がん、骨疾患、炎症・免疫性疾患、神経疾患、希少疾患などアンメット・メディカル・ニーズの高い領域に焦点を絞り、臨床開発から販売までの活動を行っているとしている。

業界にとっての意味

今回の覚書は、特定の製品や個別の共同研究についての合意ではなく、協議・連携の「枠組み」をつくる段階のものだ。連携領域の4点はいずれも抽象度が高く、実際に何が動くかは今後の協議次第である。その意味で、現時点で評価できるのは中身よりも形式のほうだろう。

その形式面で特徴的なのが、独立性と非プロモーションの明示である。研究結果に影響を与えない、成果を特定製品の使用・販売・推奨の目的に用いない——この2点を覚書の公表文に書き込み、学会側・企業側双方のコメントでも「専門性と研究の独立性の尊重」「公式かつ透明性のある連携」という表現を重ねている。製薬企業が疾患領域の学会と包括的に組む際、連携の正当性をどう担保するかを文書上で先に示しておく、という進め方である。

もう一つは、連携の対象範囲だ。資料が想定する関係者には、医療従事者だけでなく行政、自治体、関係機関、企業が含まれ、予防、相談、受療、継続的な健康管理までを一続きの環境として整えることの重要性が記されている。覚書が掲げる「健診から受療・専門的な治療につながる環境の整備」も、診療の場の外側まで視野に入れた課題設定といえる。疾患啓発や医療提供体制という、製品単位では完結しない領域に企業がどう関与するか。その実践例として、今後決まる個別施策の内容が問われることになる。