何が刊行されたか
アレクシオンファーマ合同会社(本社:東京都港区、社長:濱村美砂子)は、希少疾患患者が直面する「診断ラグ」の課題に焦点を当てたストーリーブック『Stories of Silent Days』を刊行した。発表は2026年10月23日。
仕様はハードカバー、全47ページ。企画・発行はアレクシオンファーマ。発刊の目的は、希少疾患における「診断ラグ」への理解促進を通じて、患者やその支援者の声を社会に届け、早期診断の重要性について啓発することとされている。電子版も公開されている。
本書は、希少疾患の患者とその家族、患者会の代表者、ジャーナリスト、遺伝カウンセラー、研究者、政策・アドボカシー団体やメディカルテック分野のリーダーなど、多様な立場の10人へのインタビューと写真で構成される。語り手は五十音順に、安藤奈々さん(読売新聞記者)、大河原和泉さん(レックリングハウゼン病 患者・家族会 To Smile 代表)、小野澤侑さん(特定非営利活動法人HPP HOPE 代表理事)、坂井田真実子さん(ソプラノ歌手/NPO法人日本視神経脊髄炎患者会理事長)、所奈々さん(発作性夜間ヘモグロビン尿症患者)、西村由希子さん(特定非営利活動法人ASrid 理事長)、乗竹亮治さん(日本医療政策機構代表理事・事務局長)、武藤香織さん(医療社会学・生命倫理学研究者)、武藤真祐さん(医師/インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長)、森川真紀さん(認定遺伝カウンセラー)の10名。
刊行にあたっては、一般社団法人日本難病・疾病団体協議会の大黒宏司代表理事と、AMED難病プラットフォーム事業研究代表の松田文彦・京都大学名誉教授から推薦コメントが寄せられた。制作背景や出演者が想いを語ったメイキング動画も、同社公式YouTubeチャンネルで公開されている。
配布については、「まずは医療に関わる多くの皆さんに届けるために、医学部・医科大学・看護学校の図書館などへの寄贈を目指します」としており、寄贈の申し込み・問い合わせを受け付ける事務局のメール窓口を設けている。
前段にあった「白書」とデータ
今回の書籍は、同社が2025年に刊行した「希少疾患白書 『診断ラグ』の実態と解消に向けての提言」に続く取り組みとして位置づけられている。白書では、診断ラグに関する以下のようなデータが紹介されている。
- 希少疾患患者の診断までに要した期間が平均3.4年間(株式会社JMDCとアレクシオンファーマの共同調査)
- 診断に5年以上かかるケースは全体の35%(おおよそ3人に1人、同共同調査)
- 希少疾患患者の59%が誤診を経験している(Charles River Associates(CRA)による日本の希少疾患・難病患者を対象としたアンケート調査、2024年12月〜2025年2月実施)
- 希少疾患患者の医療費は一般対照群と比較して約3.4倍、通院日数は約2.2倍(同共同調査)
濱村社長は刊行にあたり、「私たちは希少疾患の治療に取り組む製薬企業として、疾患そのものに加え、患者さんが日々の生活で直面する課題を理解することが重要だと考えています」としたうえで、「昨年、当社が刊行した希少疾患白書では、患者さんが経験する長い診断ラグの実態をデータで示しました。『Stories of Silent Days』では、データだけでは伝えきれない患者さんやご家族、支える一人ひとりの視点や経験を、写真とインタビューを通してより詳細に描いています」とコメントしている。さらに「希少であるがゆえに知られにくい診断ラグの現実を、一人でも多くの読者に届け、ともに考える起点となればと考えます」「多くの人々がつながり、その経験や知見を分かち合うことが、診断ラグの解消に向けた力になると信じています」と述べた。
アレクシオンファーマは、アストラゼネカの希少疾病部門アレクシオン・アストラゼネカ・レアディジーズ(本社:米国ボストン)の日本法人。2008年6月設立で、本社は東京都港区芝浦。
「データ」から「語り」へ——何が変わるか
今回の動きで注目されるのは、企業の情報発信の形式そのものだ。前年の白書が平均3.4年、5年以上が35%、誤診経験59%といった数値で診断ラグを可視化したのに対し、今回は同じテーマを10人の語りと写真という形式に置き換えている。社長コメントが「データだけでは伝えきれない」視点と経験を描いたと明言している通り、両者は代替ではなく補完の関係に置かれている。
もう一つの特徴は、配布先として医学部・医科大学・看護学校の図書館などを最初の対象に掲げている点である。一般向けの広い啓発よりも先に、これから臨床に出る学生を含む医療従事者層に届けることを優先する設計になっている。診断ラグは、患者が複数の医療機関を経由する過程で生じる課題であり、最初に患者に接する側の認知が起点になる——書籍の届け先の選び方には、そうした想定が表れていると読める。
また、語り手の顔ぶれが患者・家族だけでなく、ジャーナリスト、遺伝カウンセラー、研究者、政策・アドボカシー団体、メディカルテック分野のリーダーにまで及んでいることも、診断ラグを単一の職種や立場で解決できる問題として扱っていないことを示している。推薦コメントを患者団体の代表と、国の難病研究プラットフォーム事業の研究代表者の双方から得ている点も、同じ構図に沿うものだ。希少疾患領域で治療薬を手がける企業が、薬剤そのものの手前にある「診断に至るまでの時間」を自社の発信テーマとして継続的に扱っている——その二年目の形が、今回の47ページである。