2026年9月、英国の製薬業界の自主規制機関PMCPAが、GSKを公に叱責する処分(public reprimand)を科したことを公表した。帯状疱疹ワクチンの英国での広告をめぐる審査で、GSKが自社の主張と矛盾する公的機関のメールを審査側に出さなかったことが問題とされた。

https://www.fiercepharma.com/marketing/gsk-slammed-grossly-misleading-and-totally-unacceptable-behavior

PMCPA(Prescription Medicines Code of Practice Authority)は、英国製薬工業協会(ABPI)が定める行動規範の運用を担う自主規制機関で、企業への苦情を審査するパネルとその控訴を扱う控訴委員会がある。
発端は2024年8月の苦情で、GSKがNHSの帯状疱疹ワクチン接種プログラムについてテレビ広告として流した動画が処方薬の一般向け広告を禁じる規範に反しているのではないかというものだった。NHSで使える承認ワクチンはGSKの製品だけだったため実質自社製品の広告とみなされるリスクが指摘されていたが、ルールには保健大臣が承認したワクチン接種キャンペーンなどを例外とする規定があったためGSKは英国健康安全保障庁(UKHSA)との協議を通じて承認を得ていたと主張した。
2025年9月にPMCPAは保健大臣の承認を示す証拠がないとしてGSKの違反を認定したが、GSKは控訴し、控訴委員会は違反の認定を覆している。GSKがUKHSAとの協議と議事録によって政府の承認を得たと信じており、UKHSAもそれを否定していなかった、という判断だった。
しかし、その後PMCPAが報告書の公表前に、UKHSAへ報告書の写しを送ったところ、UKHSAはGSKが控訴で使った議事録の抜粋がやり取りを正確に反映していないと回答し、関連する文書をPMCPAに送ったことで事態は一転した。PMCPAは報告書の公表を止め、2026年2月に最高責任者の名で新たな案件として検証を始めた。
正確に反映されていなかったとして問題になったのは、GSKが審査の場に出さなかったUKHSAからのメールで、そこには “これはUKHSAが依頼した、あるいは支持したキャンペーンではないため、正式な承認を与えることは私たちの権限外であり、その機能は提供していない。”と書かれていた。
一方でGSKはその約6週間前にパネルへの回答で動画はUKHSAとNHSイングランドとの協議のうえ「その承認を得て」作成されたと述べていた。そのため両者は矛盾しており、さらにGSKはこのメールをパネルにも控訴委員会にも出さなかった。
GSKは、意図的に誤解させるつもりはまったくなかったと主張し、メールについてはUKHSAの見解がそれまでの理解と食い違っていたため、確認を進めていたと説明している。

審査の場に出されなかったUKHSAからのメール(PMCPA公表資料をもとに筆者作成)
審査の場に出されなかったUKHSAからのメール(PMCPA公表資料をもとに筆者作成)

しかし、パネルはこのメールを控訴委員会に出さなかったことを「著しく誤解を招く(grossly misleading)」と判断した。GSKの回答によれば、このメールは社内の上級幹部に上げられ、控訴委員会に出さないという判断が行われていた。
結果、控訴委員会はGSKの主張の大半を退け、メールをパネルに出さなかった判断をまったく不合理とし、混乱によるものだという説明を不誠実とした。
そのうえで、“控訴委員会は、一連の経緯から、控訴委員会を意図的に誤解させる意図があったと推認した。(中略)控訴委員会は、この点に関するGSK社内の文化に疑問を呈した。”と述べている。
控訴委員会は、今回の行為が組織のより広い文化的な問題を示している可能性があるとしてGSKへの監査やABPI理事会への報告も検討したが、最終的には、判断は英国法人のごく少数の個人によるものだったとするGSK側の説明も考慮し、GSKを公に叱責し、その事実を公表する処分としている。

そもそもGSKは「コンプライアンスに厳しい会社」というイメージが強かった。
2012年、米国で未承認プロモーションの罪で30億ドルを支払い、2014年には中国の裁判所が医師への贈賄でGSKに4億9,200万ドルの罰金を科した過去がある。
中国での捜査が続いていた2013年12月にはMRの個人売上目標とそれに連動する賞与を廃止し、医師に講演料を払って自社製品を宣伝してもらう慣行もやめると発表し、MRの報酬は、専門知識、サービスの質、会社全体の業績に基づくものに改められて大きな話題となった。

https://money.cnn.com/2013/12/17/news/companies/gsk-sales-targets/index.html

https://www.aol.com/finance/2013-12-17-glaxosmithkline-stop-paying-doctors-promote-drugs.html

https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=50713

GSKとコンプライアンス:改革、揺り戻し、2つの事案(各社報道をもとに筆者作成)
GSKとコンプライアンス:改革、揺り戻し、2つの事案(各社報道をもとに筆者作成)

しかしその後、2018年にGSKは医師への講演料の支払いを一部再開すると発表した。新製品の承認から2年間と、重要な新データが出てから12か月間に限り、医師が自社製品について講演する場合の報酬を認めるというもの。PMLiVEは、この方針転換を、新製品の販売で振るわなかったGSKの業績改善への決意の表れと報じている。さらに2019年には、米国のスペシャリティ領域のMRについて、処方数が増えるほど報酬が増える仕組みを復活させた。理由についてGSKは、特にがんとHIVの領域で競争力を保ち、人材を採用・維持するためだと説明している。米国スペシャリティ事業の責任者は、FiercePharmaに対して「我々が先導し、他社が続くと思っていた。しかし分かったのは、我々だけだったということだ (We had thought that we would be the leader and other companies would follow. What we’ve learned is that we were the only one, and we were very conservative in that regard)」と述べている。
日本法人も2020年から、MRの評価制度を見直し、年間報酬のうち賞与の査定の一部に、個人単位や営業所単位の販売実績を反映させていると報じられている。

https://www.fiercepharma.com/pharma/gsk-may-be-tweaking-its-rep-pay-rules-but-it-s-not-going-back-to-its-old-ways-exec
https://www.fiercepharma.com/marketing/gsk-new-rules-for-reps-specialty-compensation-tweaked-to-recruit-and-retain-talent

しかし、その後GSK日本法人は2026年8月28日に同社が主催する講演会の情報提供活動に関し、薬機法と医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインへの対応について、8月27日付で厚生労働省から指導を受けたと公表している。詳細は公にはされていないが、2025年の全国研究会での帯状疱疹ワクチンであるシングリックスの講演内容に関連するものであったとされている。

こうして時系列を見ると、コンプライアンス違反による規制の強化、それによる販売力の競合優位性の消失、そして規制を緩めたが、今回はその結果日本やUKで問題が起きる結果となった。製薬会社におけるプロモーションとコンプライアンスの両立をいかにガバナンスとして担保するかを考えさせられる事例となっている。