何が決まったか
アステラス製薬は2026年10月28日、オーストラリア・メルボルンに本社を置くバイオテクノロジー企業Audax Biosciences Pty Ltd(Co-founder & CEO:Jai Rautela)との間で、Audaxの主要ながん免疫プログラムであるDAX-044について、独占的オプション契約およびライセンス契約を締結したと発表した。
契約により、アステラス製薬はDAX-044を全世界で開発、製造および商業化する独占的ライセンスを取得できる独占的オプション権を得る。一方でAudaxは、オーストラリアおよびニュージーランドにおいてDAX-044の開発費を共同負担し、共同販促を行うオプションを保持する。
金銭条件は、Audaxが契約一時金およびオプション権行使時の支払いとして総額最大2億8,500万米ドルを受領する可能性がある、という内容だ。これに加え、DAX-044が承認された場合には、開発および販売マイルストーンとして最大10億5,000万米ドルを受領する権利と、全世界における売上に応じた段階的なロイヤルティを受領する権利を有する。オプション権の行使は、適用される競争法および対内投資規制に基づく必要な承認の取得を含む、慣例的なクロージング条件の充足が前提となる。
アステラス製薬は、本契約による通期(2027年3月期)連結業績への影響は軽微としている。
DAX-044とは何か
DAX-044は、開発中の免疫標的型インターロイキン12(IL-12)抗体-サイトカイン融合タンパク質である。Audax独自のAVIKINE®技術を用いて設計されており、IL-12の免疫活性化作用をがん微小環境へ集中させる設計を取る。狙いは、これまでIL-12を用いた治療法の開発上の課題となっていた全身性毒性の抑制だ。
前臨床試験では、IL-12製剤としてベストインクラスとなる可能性を示す治療域(有効性と安全性のバランス)を示したとされる。現在は米国ならびにオーストラリアでの治験開始申請に向けた開発段階にあり、第I相試験は2027年に開始予定。その第I相試験まではAudaxが開発費用を負担し、開発を継続する。アステラス製薬がオプション権を行使した場合には、以後の全世界における開発、製造および商業化についてアステラス製薬が単独で責任を負う。
Audaxは、がんおよびその他の免疫関連疾患を対象とした次世代の免疫療法の開発に取り組む企業で、前臨床パイプラインにはAVIKINE®プラットフォームを活用した複数の開発プログラムのほか、対象疾患ごとに最適化された非開示の新規モダリティが含まれる。
両社の説明と、契約の位置づけ
アステラス製薬の経営戦略担当CStO(Chief Strategy Officer)の岩屋孝彦は、DAX-044を「抗腫瘍免疫応答を選択的に活性化するよう設計された、差別化された作用機序を有する有望ながん免疫療法プログラム」と位置づけ、Audaxのサイエンスと自社の開発・製造・商業化の知見を組み合わせることで、免疫刺激が依然として重要な治療課題であるがんを含む固形がん患者に新たな治療選択肢を届けることを目指す、とコメントしている。
AudaxのJai Rautela CEOは、本提携によりさまざまな固形がん患者に向けたDAX-044の第I相臨床試験を加速できると期待を示したうえで、本契約が自社の新規治療法開発アプローチへの評価であり、主要市場においてDAX-044を共同開発する機会にもつながると述べた。
アステラス製薬は本契約を、研究開発戦略Focus AreaアプローチにおけるPrimary Focus「がん免疫」のパイプライン強化、および標的型免疫療法ポートフォリオの拡充と説明している。
業界にとっての意味
今回の形は、全額取得型の導入ではなく「オプション付き」である点が特徴だ。第I相試験までの開発費はAudaxが負担し、アステラス製薬はその後にライセンス取得の是非を判断できる。開発初期の不確実性をパートナー側に残したまま、将来の全世界権利を押さえる構造になっている。契約一時金・オプション行使時の最大2億8,500万米ドルと、承認後のマイルストーン最大10億5,000万米ドルという金額配分も、価値の大半を後ろ倒しにした設計といえる。
また、Audaxが自国市場であるオーストラリアおよびニュージーランドでの共同開発費負担と共同販促のオプションを残した点は、導出側のバイオテック企業が本国市場での関与を確保する形として注目される。IL-12は全身性毒性が開発上の課題とされてきた領域であり、腫瘍微小環境への集中送達という設計が臨床でどう再現されるかは、2027年開始予定の第I相試験以降に委ねられる。