何が決まったか

株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC、愛知県蒲郡市、社長:山田一登)とマルホ株式会社(大阪府大阪市、社長:杉田淳)は2026年10月28日、J-TECが製造販売を行うメラノサイト含有自家培養表皮「ジャスミン」の国内販売に関する独占パートナーシップ契約を締結したと発表した。

「ジャスミン」は、非外科的治療が無効又は適応とならない白斑を適応とする再生医療等製品である。今回の契約により、マルホが独占的販売パートナーとして全国の皮膚科施設への情報提供を担い、J-TECは製造販売元として製造と安定供給、および外科的治療を行う専門施設への手術手技の技術支援や安全管理サポートを担当する。

役割分担は明確だ。マルホは皮膚科領域のスペシャリティーファーマとして、情報提供を行う皮膚科医師数が約10,000人に上るネットワークを持つ。この営業基盤を「ジャスミン」の情報提供に充てる。一方のJ-TECは、これまで培った技術やノウハウを生かし、手術を実施する専門施設側を支える。両社は各地域の医師を対象とした研究会などを通じて医療機関の連携を深め、白斑治療の啓発活動にも取り組むとしている。

今後の展開について、J-TECは数年以内に年間100例以上の定常的な達成に向け、全国の専門施設における治療体制の構築を加速させる。マルホは必要な準備を進め、2027年4月から営業活動を本格的に開始する。

「病診連携」という課題

両社が今回の提携の背景として挙げたのは、患者が治療にたどり着くまでの経路の問題である。

リリースによれば、皮膚の色が白く抜ける「白斑」のうち、後天的に発症する白斑の中で最も患者数が多いとされる「尋常性白斑」は、国内における潜在患者数が約15万人と推測されている。多くの患者はまず地域の皮膚科クリニックを受診し、外用薬や光線療法などの治療に取り組む。しかし、こうした治療では十分な効果が得られず、さらなる治療選択肢を必要とする患者は少なくないという。

そうした患者が自家培養表皮移植などの外科的治療を受ける場合、治療の場は手術設備や入院体制を備えた大学病院などの専門施設に限られる。つまり、日常的に通うクリニックと、実際に「ジャスミン」を用いた治療が行われる施設が分かれている。

両社は、患者が日常的に通う各地域の皮膚科クリニックにおいて再生医療を含む外科的治療の情報が適切に提供され、専門施設へと治療の場を円滑に移行するためには、両者による病診連携が一層重要になると指摘する。全国の皮膚科施設と強固なネットワークを持つマルホと、「ジャスミン」の製造および安定供給を担うJ-TECが協業することで、患者が必要とする治療に円滑にアクセスできる環境を整備する、というのが今回の提携の骨格である。

マルホの杉田社長はコメントで、白斑について「患者さんのQOLを著しく低下させる疾患である一方、有効な治療薬が十分に存在しておらず、患者さんご自身が治療を諦めることも多い"見過ごされたアンメットニーズ"」と位置づけ、長期ビジョン2036で掲げる『「あなた」を見過ごさない。皮膚科学で、その先へ。』のもとで取り組む姿勢を示した。J-TECの山田社長は「全国の皮膚科の医師と強固なネットワークを有するマルホが、私共にとって最良のパートナー」とし、「ジャスミン」が白斑治療において当たり前の医療として広く普及することを目指すとしている。

再生医療の「販路」をどう設計するか

この提携が示しているのは、再生医療等製品の普及が、承認や製造能力だけでは完結しないという事実である。

J-TECは「再生医療をあたりまえの医療に」をビジョンに掲げ、2007年10月に日本で初めて国の承認を得た自家培養表皮「ジェイス」をはじめ、表皮や膝の軟骨、角膜上皮など計5品目の再生医療等製品を上市してきた。2021年3月からは帝人グループの一員である。製造技術とレギュラトリーの実績という点では、日本の再生医療のトップランナーと位置づけられる。

それでもなお、「ジャスミン」が必要な患者に届くには、地域のクリニックの医師が治療選択肢としてこれを認識し、専門施設に紹介するという流れが成立しなければならない。約10,000人の皮膚科医師に情報提供できるマルホの販売網を組み合わせる意味はそこにある。マルホは創業1915年、従業員数1,632人(2025年9月末)、2025年9月期の売上高は789億24百万円の製薬企業である。

J-TECが掲げる「数年以内に年間100例以上の定常的な達成」という目標は、潜在患者数約15万人という数字と並べると、まだ入口にあたる水準といえる。裏を返せば、この領域の課題が製品の有無ではなく、治療にたどり着く経路の設計にあることを、両社の役割分担そのものが物語っている。マルホの営業活動が本格化する2027年4月以降、この座組みがどこまで症例数に結びつくかが、再生医療等製品の普及モデルとして一つの参照点になる。