何が決まったか

ネクセラファーマ株式会社(東証プライム、コード番号4565)は2026年10月28日、スイスのIdorsia Pharmaceuticals Ltd.(イドルシア社)が持つファブリー病治療薬候補 lucerastat について、ライセンス取得のオプション権を行使し、共同開発・商業化契約を締結したと発表した。

契約により、ネクセラは日本、韓国、台湾およびその他のアジア太平洋の一部地域(中国を除く)における lucerastat の独占的な開発・商業化の権利を保有する。対価として、あらかじめ合意されたオプション権の条件に基づき、イドルシア社に契約一時金7百万スイスフラン(約1,334百万円、1スイスフラン=190.57円)を支払う。あわせてイドルシア社は、対象地域の純売上高に応じたロイヤリティを受領する権利を持つ。

ネクセラはグローバルフェーズ3試験の推進にも協力する。イドルシア社のフェーズ3プログラムは、成人男性患者16例を対象とする腎生検試験「FAB-KLEAR」(同日開始)と、患者74例を対象に lucerastat と標準治療である酵素補充療法の腎機能への影響を比較する試験で構成される。ネクセラはこのうち腎機能比較試験に参加し、日本における臨床開発の管理を担う。プログラムは承認取得に向けた効率的な開発戦略について米国食品医薬品局(FDA)との協議・調整を経て策定され、欧州医薬品庁(EMA)の助言にも沿っているとしており、早ければ2029年の承認申請を見据える。

契約一時金は、2026年2月13日に公表した2026年12月期の連結業績予想に織り込み済みである。

これまでの経緯と薬剤の位置づけ

ネクセラがこのオプション権を得たのは、2023年7月にイドルシア社のアジア太平洋事業(中国を除く)を取得した時点にさかのぼる。今回はその権利を行使した形となる。

lucerastat は経口の基質合成抑制療法薬で、グルコシルセラミド合成酵素を阻害し、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)を含むスフィンゴ糖脂質の合成を抑える。α-ガラクトシダーゼAの活性やGLA遺伝子変異の種類、過去の酵素補充療法の有無にかかわらず作用することを目指して開発されている。

患者118例を対象としたフェーズ3試験(MODIFY)では、プラセボと比較して血漿中および尿中のGb3を有意に低下させた。非盲検継続試験の中間解析では、登録前2年間と比較して腎機能の低下速度が緩やかになることが示唆された(eGFRの変化率:投与中−1.64、投与前−3.50)。長期投与での忍容性は良好とされ、6年以上投与を受けている患者もいる。臨床での投与経験は累計400人年を超える。米国およびEUで希少疾病用医薬品指定を受けている。

一方、イドルシア社の最高医学責任者兼グローバル臨床開発責任者であるAmer Joseph医師は、MODIFY試験について「主要評価項目である神経障害性疼痛の軽減は達成されませんでした」と明言したうえで、これは主観的な評価項目でありファブリー病では達成が難しいことが明らかになりつつあると説明。バイオマーカー値の明確かつ持続的な低下と腎機能低下を遅らせる可能性を示す兆候が認められたとし、次の段階は治療前のベースラインと比較したデータを得ることだと述べている。

業界にとっての意味

今回の契約は、2023年のイドルシアAPAC事業取得が単なる販売網の獲得にとどまらず、後期開発品を自社に取り込む選択肢として設計されていたことを示す。ネクセラは日本およびアジア太平洋地域のポートフォリオに、後期開発段階の希少疾患治療薬候補を加えることになる。

注目したいのは、主要評価項目未達の試験を経た化合物に対して、腎生検と腎機能という客観的指標に絞った検証的プログラムが組み直され、FDAとの協議・調整を経ている点である。ネクセラがその腎機能比較試験に参加し、日本の臨床開発管理を担うことで、国内の承認申請に必要なデータを同一プログラムの中で確保する構図になる。

市場環境について同社は、DelveInsightの予測として、主要7市場(米国、EU4、英国および日本)のファブリー病診断患者数が2020年の約16,000人から2034年には約21,000人に増加し、市場規模は2034年までに約40億米ドルに達すると紹介している。酵素補充療法が標準治療である領域に、遺伝子変異の種類や治療歴を問わない経口薬が加わりうるかが、今後の焦点となる。

カーギルCEOは「イドルシア社と緊密に連携して開発を進め、対象地域の患者さまに新たな治療選択肢となり得る本剤をお届けできることを期待しています」とコメントした。同社は、lucerastatの開発の進展が中長期的にグループの事業収益および企業価値の向上に寄与するとしている。