何が示されたか
2026年10月28日、中央社会保険医療協議会の薬価専門部会(第250回)に、「令和9年度薬価改定について③(安定供給)」と題する資料(薬-1)が提出された。議題は「令和9年度薬価改定について」である。
資料は大きく三つの部分で構成されている。第一に、令和8年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太方針2026)」の関係箇所の抜粋。第二に、これまでの診療報酬改定がない年の薬価改定における「改定の対象範囲」の整理。第三に、同じく改定がない年の薬価改定で適用された「既収載品目の算定ルール」の一覧である。いずれも新たな決定ではなく、令和9年度薬価改定の検討に向けた論点整理の材料として示されたものだ。
骨太方針2026に書かれていること
資料が引用するのは、骨太方針2026の第3章「責任ある積極財政に基づく『中長期経済財政計画』」のうち、2.全世代型社会保障の構築(2)成長型経済に合わせた持続可能な社会保障制度の「創薬・先端医療イノベーション」の項である。
そこでは、創薬・先端医療への官民投資を拡大し、健康医療安全保障を実現するとした上で、「米国の医薬品に係る最恵国待遇(MFN)価格政策など、足元、諸外国の医薬品をめぐる政策の動きがある中でも必要な医薬品等が確実に上市される環境整備」、特定重要物資を含む供給確保の必要性が高い医薬品等の国産化等による安定供給、先端技術の実用化を目指すと記されている。バイオ後続品の国内生産体制の整備、産業構造改革の推進による後発医薬品等の安定供給にも言及がある。
薬価改定に直接かかわる記述は次のとおりだ。「経済・物価動向等の影響を受ける市場実勢価格を薬価調査等により的確に把握した上で、創薬イノベーション、医薬品の安定供給と国民負担の軽減の観点から、2027年度薬価改定を実施する。」あわせて、費用対効果評価制度について客観的な検証を進め、制度の発展に向けた更なる見直しを具体的に検討して一定の結論を出すこと、医薬品の画期性に対する初収載時における適切な評価や特許期間中の薬価の在り方(脚注で市場拡大再算定及び持続可能性特例価格調整等とされている)を含め、革新的新薬のイノベーションの更なる評価について検討を進めることが記されている。
過去3回の「改定がない年」の対象範囲
資料は、診療報酬改定がない年の薬価改定について、過去の骨子に示された対象範囲を並べている。
2021(令和3)年度薬価改定の骨子(令和2年12月18日 中医協了解)では、平均乖離率(8.0%)の0.5倍~0.75倍の中間である0.625倍(乖離率5.0%)を超える、価格乖離の大きな品目を対象とした。あわせて、令和2年薬価調査の平均乖離率が平成30年薬価調査の平均乖離率を0.8%上回ったことを「新型コロナウイルス感染症による影響」と見なし、「新型コロナウイルス感染症特例」として薬価の削減幅を0.8%分緩和している。
令和5年度薬価改定の骨子(令和4年12月21日了解)では、平均乖離率(7.0%)の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目が対象とされた。
令和7年度薬価改定の骨子(令和6年12月25日了解)では、国民負担軽減の観点に加え、創薬イノベーションの推進や医薬品の安定供給の確保の要請にきめ細かく対応する観点から、品目ごとの性格に応じて対象範囲が設定された。具体的には、①新薬のうち新薬創出等加算の対象品目は平均乖離率(5.2%)の1.0倍(5.2%)超、②新薬のうち同加算の対象外品目は0.75倍(3.9%)超、③長期収載品は0.5倍(2.6%)超、④後発品は1.0倍(5.2%)超、⑤その他は1.0倍(5.2%)超、である。
算定ルールの整理と、議論の焦点
資料はさらに、既収載品目の算定ルールを「実勢価改定と連動する」ものと「連動しない」ものに分けて整理している。
前者は実勢価をもとに価格が補正されるもので、影響は実勢価によって変わる。最低薬価の維持(あらかじめ設定している最低薬価を下回る場合は最低薬価で下げ止め)、基礎的医薬品の薬価維持(医療上の位置づけが確立しているなど一定の要件を満たす医薬品について改定前薬価を維持)、革新的新薬薬価維持制度(品目要件に該当する革新的な新薬について改定前薬価を維持)、後発品の価格帯集約(一定の区分ごとに加重平均し価格帯を集約)が挙げられ、いずれも令和3年・令和5年・令和7年の各改定で適用されている(最低薬価の維持の令和7年改定には※が付されている)。
後者は実勢価にかかわらず該当すれば価格が引下げ/引上げとなるもので、影響は実勢価と関係しない。資料では追加承認品目等の加算(小児や希少疾病に関するもの)が挙げられている。
今回示されたのは、骨太方針2026が求める「創薬イノベーション、医薬品の安定供給と国民負担の軽減」という三つの観点を、過去の改定実務に照らして具体化するための材料である。対象範囲については、令和7年度改定で品目の性格ごとに乖離率の倍率を変える方式が採られており、令和9年度改定でこの考え方をどう扱うかが論点となる。また、最低薬価の維持や基礎的医薬品の薬価維持といった、安定供給に直結する下支えのルールが過去3回連続で適用されてきた事実の提示は、安定供給をテーマとする今回の資料の位置づけを示している。