結論:SG&Aを「削る対象」から「配る対象」へ

ZSは、製薬企業のSG&A(販売費および一般管理費)を、periodicに削減するコストベースではなく、継続的に管理する投資ポートフォリオとして扱うべきだとする見解を公表した。ブランド、チャネル、市場、時間軸をまたいで「次の1ドルが最も大きな増分価値を生む場所」に資本を振り向ける、全社レベルの資本配分への転換を促す内容である。

事実:20件超のコスト施策、約280億ドルの削減目標

ZSが公開情報を分析したところ、上位15社の製薬企業は2020年から2025年にかけて20件を超えるコスト施策を公表し、開示された削減目標の合計はおよそ280億ドル(approximately $28 billion)にのぼる。一方、アナリストのコンセンサス予想をZSが分析した結果では、これら企業の売上高は2026年から2031年までに累計で25%増加しうるとされる。ZSは、この期待に応えるにはコスト削減だけでは不十分であり、periodicなコストカットから全社的な資本配分への移行が必要だと指摘する。

ZSはSG&Aを二つに分ける。ひとつは商業化を支える「間接支出」で、インサイト・アナリティクス、市場調査、コンテンツ制作、財務、IT、人事などの能力・インフラ・ガバナンスが含まれる。もうひとつは顧客や市場に働きかける「直接支出」で、MR活動、医療従事者(HCP)エンゲージメント、患者アクティベーション、DTC、デジタルプロモーションが該当する。間接支出についてはオペレーティングモデルの再設計、ベンダー統合、自動化による簡素化と規模化を、直接支出については増分リターンの最大化を優先課題として挙げている。

数字で示された効果は二つある。第一に、ZSが手がけたポートフォリオ配分の少数の案件では、観測値とモデル推計から、全社レベルの配分見直しにより同じ投資額のまま12〜20%の増収余地が示唆された。ただしZSは、実際の機会の大きさは対象となるブランドとチャネルの範囲、配分の成熟度、市場環境、組織の意思決定権限に依存するとしている。第二に、米国内の一つの治療領域で30を超えるローンチを抱える上位10社の製薬企業では、ポートフォリオ単位の配分機能を用いて初年度にA&P(広告・プロモーション)予算のおよそ5%を再配分の対象として特定し、3年累計でおよそ2億5,000万ドルのインパクトを、当初の予測を達成したまま実現したという。目的はコスト削減そのものではなく、商業投資のより良い配分であり、売上計画を維持しながら余力を高リターンの機会へ振り向けた形だ。ZSのPrincipalであるCody Powers氏は「Capacity was redeployed toward higher-return opportunities while the revenue plan was maintained」と述べている。

背景:ブランド単位・単年度という配分の限界

ZSによれば、現在の再配分の多くはブランド単位、単年度の枠内で行われている。ブランドチームが自らの固定予算をMR、HCPマーケティング、DTC、デジタルといったチャネル間で最適化する形である。これはブランド内の単純なトレードオフは捉えられるが、最大の非効率はブランド間、市場間、年度間に存在するため、個別ブランドの作業では手つかずのまま残る。配分の意思決定が組織の上位に置かれるほど機会は大きくなる、というのがZSの整理だ。

時間軸を単年度から延ばすと最適解も変わる。ライフサイクル初期の資産やパイプライン資産は当年度の数字では魅力的に見えなくても、早期の市場開発を通じて大きな価値を生みうる一方、独占期間満了が近い成熟資産は現在の支出水準を下回る配分が妥当になりうるという。

もうひとつの手段が、投資額を増やさずにチャネルの性能を高めるアプローチである。社内比較だけでは、あるチャネルが潜在能力に近い水準で機能しているかは判定できない。ZSは、ライフサイクル段階、治療領域、HCPの集中度、競争の激しさ、アクセス条件といった要因を考慮し、数百製品のプロモーション反応データで学習したモデルによる合成AIベンチマークを挙げ、実績と期待値のギャップの大きい箇所から診断と介入を優先する流れを示す。Powers氏は「External benchmarks can reveal performance gaps that internal comparisons alone may obscure, provided they account for the factors that shape expected response」と述べている。

意味:分析能力より、意思決定の「運用リズム」

ZSが強調するのは、一度きりの分析では価値が複利で積み上がらないという点だ。常時稼働(always-on)の能力として、共通の数値定義に基づく単一の事実基盤、支出とリターンのライブな可視化、期待値を下回った際に検知する早期警戒、資本投下前に選択肢を比較するシナリオ機能、そして意思決定の場・権限・閾値・エスカレーション経路を定めた定例の資本配分サイクルを挙げる。

業界にとっての含意は明快である。予算は年次計画の一度きりではなく年度内に見直され、ブランドは比較可能な限界リターンの指標で増分投資を奪い合う。前年度予算の横置きではなく、ギャップの大きさが診断の引き金になる。本社と現地法人、コマーシャル・財務・アナリティクス・技術が同じ事実基盤と明示的な権限で意思決定に参加する必要があり、大組織にとっては運用リズムそのものの変更を意味する。ZSは、優れた分析を速い意思決定と資本規律に変えるのはこの変更だとし、支出を増やさずに成長の原資を生む道筋だと位置づけている。