2026年8月28日、FDAがイーライリリーのマンジャロについて、2型糖尿病のリスクの高い成人における主要心血管イベント(MACE)のリスク低減の適応拡大を承認した。ノボノルディスクのオゼンピックがすでに2020年に取得した適応ではあるが、今回の第3相試験では自社の前世代薬トルリシティ(デュラグルチド)を対照薬として非劣性を証明している。
効能の内容は2型糖尿病を有しリスクの高い成人において、心血管死、心筋梗塞、脳卒中を含む主要心血管イベントのリスク低減で、マンジャロにとって初の適応拡大となる(同じ成分で肥満症効能のゼップバウンドは閉塞性睡眠時無呼吸の適応を取得している)。
第3相SURPASS-CVOT試験の対象は2型糖尿病かつアテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有する成人で、30カ国640施設で16,979例をスクリーニングし、チルゼパチド群6,586例、デュラグルチド群6,579例に無作為に割り付けている二重盲検の非劣性試験となる。
主要評価項目であるMACE-3(心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)の発生率は、チルゼパチド群12%、デュラグルチド群13%。ハザード比0.92(95.3%信頼区間0.83–1.01)で、事前に設定した非劣性マージンである上限1.05を下回り非劣性が証明された(p=0.003)が、優越性はp=0.09で達成していない。
なお対照薬のデュラグルチドは、REWIND試験でプラセボに対しハザード比0.88を示し、2020年に心血管疾患リスク低減の適応を取得しているので、既に有効性が確立した薬を対照に置いたことになる。
試験結果は2025年7月31日にトップラインが公表され、同年9月の欧州糖尿病学会(EASD)年次学術集会で詳細が発表され、2025年12月17日にNew England Journal of Medicineに掲載されている。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2505928
https://www.hcplive.com/view/surpass-cvot-tirzepatide-bests-dulaglutide-cardiovascular-protection

現在競合環境が続くセマグルチド(ノボノルディスク)とチルゼパチド(イーライリリー)の2成分4製品の適応を整理すると、米国では、オゼンピックが2型糖尿病、心血管イベントリスク低減(2020年)、2型糖尿病と慢性腎臓病を併せ持つ患者の腎疾患・心血管死リスク低減(2025年)の3適応となる。ウゴービが慢性体重管理(2021年)、心血管リスク低減(2024年)、MASH(2025年)の3適応。マンジャロは2型糖尿病(2022年5月)に今回の心血管イベントリスク低減(2026年8月)が加わり2適応、ゼップバウンドが肥満症(2023年11月)と閉塞性睡眠時無呼吸(2024年12月)の2適応となっている。
日本では異なっており、オゼンピックは2型糖尿病のみで、ウゴービは2023年3月に肥満症で承認され、2026年6月19日には代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の適応が追加されている。これは日本で初のMASH治療薬となる。
チルゼパチド側はマンジャロが2型糖尿病のみで、ゼップバウンドは2026年4月11日に肥満症を効能・効果として発売され、5月18日には中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の適応追加と、肥満症の効能・効果に耐糖能異常等を加える一部変更が承認されている。
https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00007732.pdf
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=80205
https://passmed.co.jp/di/archives/19243

今現在開発をしている領域を俯瞰するとこの両剤はさらに適応が広がる可能性があル。心不全については、セマグルチドがSTEP-HFpEF試験で結果を公表しており、チルゼパチドは第3相SUMMIT試験で肥満を伴うHFpEF患者において心不全アウトカムを38%低減し、両主要評価項目を達成している。ただしFDAは適応追加にあたり追加試験を求めており、承認には至っていない。
MASHは、セマグルチドは承認済みだが、チルゼパチドは第2相SYNERGY-NASH試験で、15mg用量においてMASH消失73.3%(プラセボ12.6%)という結果を示しており規制当局と次の段階について協議中となっている。
慢性腎臓病 (CKD)は、オゼンピックが2025年に適応を取得済みで、チルゼパチドはTREASURE-CKD試験が2026年10月まで実施される予定で、承認申請にはその後さらに第3相試験が必要となる見通し。
糖尿病を有さない肥満患者における心血管ベネフィットはウゴービが2024年に適応を取得しており、チルゼパチドはSURMOUNT-MMO試験が進行中で、ここで結果が出れば、今回の心血管適応が糖尿病のない層へ広がることになる。
変形性膝関節症でもセマグルチドがSTEP 9試験の結果を公表している。
https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lillys-tirzepatide-successful-phase-3-study-showing-benefit
https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lillys-tirzepatide-was-superior-placebo-mash-resolution-and-more
https://www.goodrx.com/classes/gip-receptor-glp-1-receptor-agonists/what-is-tirzepatide-used-for
https://diabetesonthenet.com/diabetes-primary-care/distilled-surpass-cvot/

ただし失敗している領域もあり、経口セマグルチドを早期アルツハイマー病患者に投与した第3相EVOKEおよびEVOKE+試験については主要評価項目を達成しなかったと2025年11月に発表されている。
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(26)00459-9/fulltext