何が起きたか
アッヴィ(AbbVie、NYSE: ABBV)は2026年10月7日、米イリノイ州ノースシカゴ発で、開発中のc-Met標的抗体薬物複合体(ADC)テリソツズマブ アジズテカン(telisotuzumab adizutecan、開発コードTemab-A/ABBV-400)について、米食品医薬品局(FDA)から大腸がん(CRC)と非小細胞肺がん(NSCLC)の2件のブレークスルー治療指定(BTD)を受けたと発表した。
2件の指定内容は、それぞれ対象患者が明確に区切られている。1件目は、ベバシズマブとの併用で、フルオロピリミジン、イリノテカン、オキサリプラチン、抗VEGFモノクローナル抗体(mAb)、および適応がある場合は抗EGFR mAbによる治療歴がある、難治性・転移性CRCの成人が対象。2件目は単剤療法としてで、プラチナ製剤ベースの化学療法と抗PD-(L)1抗体療法による治療歴がある、EGFR野生型でc-Metタンパク発現の局所進行または転移性の非扁平上皮NSCLCの成人が対象となる。
これらの指定は、主としてファーストインヒューマン試験であるM21-404試験(NCT05029882)の結果に基づくものだとしている。
Temab-Aにとって、BTDの取得は今回が初めてとなる。これによりアッヴィのADCポートフォリオが持つBTDは計4件になったと、同社は説明している。なお、Temab-Aは開発段階の資産であり、各国・地域の規制当局からの承認は受けていない。
技術と開発の背景
Temab-Aは、c-Metタンパクを標的とする次世代ADCで、ペイロードにトポイソメラーゼ1阻害剤(Top1i)を用いる。資料によれば、c-Met(MET)タンパクは多くの固形がんで発現が亢進しており、疾患進行や治療抵抗性に寄与しうることから、治療標的としての可能性が高いと位置づけられている。
構造面では、アッヴィの「adizutecan(アジズテカン)」プラットフォームを用いて開発された。c-Metタンパクに高い親和性で結合する、検証済みのヒト化二価IgG1モノクローナル抗体に対し、切断可能なバリン-アラニンリンカーと安定したブロモアセトアミド結合を介してTop1iペイロードを連結している。この設計は、標的への送達を支えつつ、全身へのペイロード放出を最小限に抑えることを意図したものだと説明されている。
開発対象はCRCとNSCLCにとどまらない。頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)、胃食道腺がん(GEA)、膵管腺がん(PDAC)、卵巣がん(OC)を含む複数の進行固形がんでも評価が進む。臨床開発プログラムには、単剤および他剤との併用の双方について、複数の第3相試験および第2/3相試験が含まれる。
疾患負担についても資料は触れている。大腸がんと肺がんは合わせて年間400万人超が罹患し、がん関連死の主因の一つであり続けている(出典はIARCおよびWHO)。治療の進歩にもかかわらず、CRCおよび進行NSCLCの多くの患者が病勢進行を経験しており、新たな治療アプローチが必要とされている、としている。
FDAのBTD制度は、既存治療に対して1つ以上の臨床的に意義のあるエンドポイントで実質的な改善を示しうる臨床エビデンスを持つ開発中の医薬品について、開発と審査を迅速化することを目的とする制度だと、資料は説明している。
業界にとっての意味
今回の2件の指定は、いずれも「後治療ライン」に明確に位置づけられている点が特徴だ。CRCでは主要な既存レジメンを一通り経た難治例、NSCLCではプラチナ製剤と免疫チェックポイント阻害剤の後、という設定であり、既存治療の選択肢が乏しくなった患者層を狙っている。BTDが「既存治療に対する実質的な改善」を示しうるエビデンスを要件とする制度であることを踏まえると、FDAがこの2領域でその可能性を認めたことになる。
また、NSCLCの指定対象が「EGFR野生型、c-Metタンパク発現、非扁平上皮」と絞り込まれている点は、アッヴィ側のコメントとも符合する。同社オンコロジー早期開発担当バイスプレジデントのEleni Lagkadinou氏は、今回の指定が「複数の固形がんにわたってc-Metが意義ある治療標的であることを支持する臨床エビデンスの蓄積を反映している」と述べ、「バイオマーカー主導の治療法を前進させるという当社の戦略をさらに後押しする」とコメントしている。標的の発現状況で患者を選ぶ開発手法が、次世代ADCの領域でも軸になっていることを示す発言といえる。
さらに、ファーストインヒューマン試験の結果が2つの異なるがん種でのBTDにつながった点、そして単剤と併用の両方で指定が得られた点は、この資産の適用範囲の広さを示す材料になる。アッヴィはTemab-Aを「次世代ADCポートフォリオで最も先行している資産の一つ」と位置づけており、HNSCC、GEA、PDAC、卵巣がんへの展開や複数の第3相・第2/3相試験の進行と合わせて、今後の開発の行方が注目される。ただし現時点では、Temab-Aはあくまで治験薬であり、承認を得たものではない。