何が承認されたか
第一三共は2026年10月8日、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるエンハーツ®(中国語表記:优赫得®、一般名:トラスツズマブ デルクステカン)について、中国の国家薬品監督管理局(NMPA)から新たな承認を取得したと発表した。
対象は、タキサン製剤とトラスツズマブによる術前薬物療法を受けた後に浸潤性残存病変を有する、HER2陽性(IHC3+またはISH+)早期乳がん患者の術後薬物療法である。
承認の根拠となったのは、術前薬物療法後のHER2陽性乳がん患者を対象に、本剤とT-DM1(トラスツズマブ エムタンシン)を比較したグローバル第3相臨床試験「DESTINY-Breast05」の結果で、同試験は2025年10月に開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2025)で発表されている。
あわせて、すでに取得していた術前薬物療法の適応についても取り扱いが変わった。本剤は2026年3月、グローバル第3相臨床試験「DESTINY-Breast11」の結果に基づき、再発リスクの高いステージ2またはステージ3のHER2陽性(IHC3+またはISH+)乳がんにおいて、本剤投与後にパクリタキセル、トラスツズマブ、ペルツズマブの併用療法(THP療法)を行う術前薬物療法を対象として、中国で条件付き承認を取得していた。この条件付き承認が、DESTINY-Breast05の結果に基づき、今回正式承認へと変更された。
中国で9つ目の適応症
今回の承認により、中国における本剤の適応症は9つとなった。内訳は、HER2陽性の手術不能または転移性乳がんの一次治療、二次治療、化学療法既治療のHER2低発現乳がん、化学療法未治療のHER2低発現または超低発現乳がん、HER2陽性早期乳がんの術前薬物療法、HER2陽性胃がんの二次治療、三次治療、HER2遺伝子変異を有する非小細胞肺がんの二次治療、そして今回の術後薬物療法である。
背景にある疾患負荷は小さくない。資料によれば、乳がんはがんによる死亡の主な原因の1つで、2024年には全世界で約240万人が診断され、69万人以上が亡くなった。中国では2024年に約37.6万人が乳がんと診断され、約7.3万人が亡くなっているとの報告がある。乳がんの5人に1人がHER2陽性とされる。
さらに、早期乳がん患者のおよそ3人に1人は「高リスク」とみなされ、再発の可能性が高く予後不良とされる。現在の標準治療を術後薬物療法として受けた場合でも、一部の患者は浸潤性疾患の再発を経験、または亡くなっている。転移性疾患と診断された場合、5年生存率は約34%に低下する。術前薬物療法後に残存病変を有する患者にとって、術後薬物療法は再発リスクを低減し、転移性疾患への進行を防ぐ重要な機会と位置づけられている。
「転移後」から「再発前」への軸足移動
今回の承認が持つ意味は、投与対象のステージが前に動いたことにある。これまで中国での適応の中心は手術不能・転移性乳がんや既治療例だったが、術前・術後という根治を目指す局面に正式承認の形で入り込んだ。術前薬物療法の条件付き承認が同じDESTINY-Breast05の結果で正式承認に切り替わった点も、早期乳がん領域でのエビデンスが一段固まったことを示している。
製品ポートフォリオの観点では、エンハーツ1剤で乳がん・胃がん・非小細胞肺がんにまたがる9適応という構成になった。エンハーツは、第一三共独自のDXd ADC技術を用いて創製されたADCの1つであり、全世界(同社が独占的権利を有する日本は除く)においてアストラゼネカと共同で開発および商業化が進められている。同社のADCパイプラインは、商業化・臨床開発段階にある9つのADCで構成され、うち7つがDXd ADC技術を用いたものだ。
第一三共は、本剤を通じてHER2陽性乳がんの術後薬物療法に新たな選択肢を提供することで、中国のより多くの乳がん患者に貢献していくとしている。