何が承認されたか
第一三共は2026年10月8日、抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)であるダトロウェイ®(中国語表記:达卓优®、一般名:ダトポタマブ デルクステカン)について、中国の国家薬品監督管理局(NMPA)から新たな適応の承認を取得したと発表した。対象は、PD-1/PD-L1阻害剤による治療の対象とならない、切除不能または転移性のトリプルネガティブ乳がん患者である。
今回の承認は、2025年10月に開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2025)で発表されたグローバル第3相臨床試験「TROPION-Breast02」の結果に基づく。同試験は、免疫療法による治療の対象とならない未治療の転移性または局所再発性の手術不能なトリプルネガティブ乳がんを対象に、化学療法投与群と比較して、統計学的に有意な全生存期間(原因を問わず死亡するまでの期間)の延長が初めて認められた試験だと、第一三共は説明している。
本剤が中国で承認を受けた適応は、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の乳がんに続いて2つ目となる。また第一三共によれば、本剤は中国において、転移性トリプルネガティブ乳がんを対象に承認された初めての抗TROP2 ADCである。
背景にある疾患の状況
トリプルネガティブ乳がんは、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の3つがいずれも陰性であるタイプの乳がんを指す。世界では年間約36.5万人が診断され、乳がん全体の約15%を占めるとされる。中国では、毎年推定5.6万人がトリプルネガティブ乳がんと診断されている。
転移性のトリプルネガティブ乳がんは、他の乳がんと比べて予後が悪く、若年層および閉経前の女性でより多く診断される。5年生存率は約15%との報告がある。
治療選択肢については、PD-L1発現腫瘍を有する転移性患者では、化学療法に免疫療法を追加することで一次治療における治療効果が改善された。しかし、転移性トリプルネガティブ乳がん患者の約70%は免疫療法による治療の対象外とされる。今回の承認が「PD-1/PD-L1阻害剤による治療の対象とならない」患者を明示的に対象としているのは、この取り残された層に正面から向き合うものだといえる。
標的となるTROP2は、トリプルネガティブ乳がんを含む複数の固形がんに高発現するタンパク質の一種で、乳がんの進行や生存率の低下に関係しているとされる。
技術基盤とパイプライン上の位置づけ
ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd/DS-1062)は、がん細胞の細胞膜上に高発現する抗原TROP2と特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体(札幌医科大学との共同研究)に、第一三共独自のリンカーを介してトポイソメラーゼⅠ阻害剤(DXd)を結合させた薬剤である。1つの抗体につき約4個のDXdが結合しており、薬物をがん細胞内に直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えるよう設計されている。
ADCは、抗体と低分子化合物を適切なリンカーで結合させた薬剤で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届け、全身曝露を抑えつつ攻撃力を高める仕組みを持つ。
第一三共のADCパイプラインは、同社独自のADC技術プラットフォームから創製された、商業化・臨床開発段階にある9つのADCで構成される。うち7つは、トポイソメラーゼⅠ阻害剤(DXd)をがん細胞内部へ届けるDXd ADC技術を用いて創製されたものだ。トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ®、抗HER2 ADC)とダトポタマブ デルクステカンは、同社が独占的権利を有する日本を除く全世界でアストラゼネカと共同で開発・商業化を進めている。
業界にとっての意味
今回の承認は、抗TROP2 ADCというモダリティが、中国において転移性トリプルネガティブ乳がんという予後不良の領域で初めて選択肢として認められたことを意味する。毎年推定5.6万人が診断され、そのうち相当数が免疫療法の対象外となる市場で、化学療法に対する全生存期間の延長を示したデータを携えた薬剤が登場した形だ。
また、中国でのホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんに続く2つ目の適応取得は、同一分子が乳がんという大きな疾患領域の中で適応を広げていく過程を示すものでもある。第一三共は、トリプルネガティブ乳がんの治療に新たな選択肢を提供することで、中国のより多くの乳がん患者に貢献していくとしている。