何が発表されたか

ライフサイエンス業界向けSaaSを手がけるVeeva Systems(NYSE: VEEV)は2026年9月24日、臨床試験実施計画書(治験プロトコル)から直接Veeva EDCおよびVeeva DQS(Data Quality System)を設定する新たなAIソリューション「Veeva Study Builder Agent」を発表した。日本法人のVeeva Japanは2026年10月8日に、本社発表の抄訳としてこの内容を公表している。

このAIエージェントが設定するのは、EDCにおけるフォーム、ビジット、エディットチェックルール、そしてDQSにおけるCQL(Clinical Query Language:臨床データ抽出言語)ベースのリストである。加えて、テストデータの作成を含むテストプロセスの自動化も担う。発表では、臨床試験の設定を「わずか1日」で実現しうるとされている。

提供時期は2026年12月で、まずアーリーアダプター向けに開始される予定。Veeva Study Builder AgentはVeeva EDCの一部として位置づけられ、追加ライセンスは不要とされる。提供形態はClaude Coworkのプラグインで、Veevaが管理するGitHubリポジトリからインストールする。

標準の再利用とUSDMの活用

今回のエージェントの設計で特徴的なのは、「標準準拠を最優先する」という位置づけである。資料によれば、Study Builder Agentは組織の既存の標準を再利用し、CDISC Unified Study Definitions Model(USDM:統合試験定義モデル)を活用することで、より迅速で確実性の高い試験構築を実現するとされる。

また、エージェントは組織の既存基準に基づいて構築され、調整されたプロセスに従って動作する。これにより基準からの逸脱を最小限に抑え、設計段階から当局監査に対応可能なものになる、と説明されている。つまり、生成物のスピードだけでなく、出来上がった試験設定が社内標準と業界標準の双方に沿っていること、そして監査に耐えることを前提に置いた作りになっている。

Veeva Clinical Dataのチーフテクノロジーオフィサーを務めるDrew Garty氏は、「Veeva Study Builder Agentは、高品質な試験構築のスピードを大幅に向上させます。当社は臨床試験の簡素化、標準化、そして連携を推進するイノベーションに取り組んでおり、Study Builder Agentはそのビジョン達成に向けた重要な一歩となります」とコメントしている。この「簡素化、標準化、連携」という3つの言葉が、同社が臨床データ領域で掲げる方向性を示している。

なお、EDC、DQS、eCOAをはじめとするVeeva Clinical Dataソリューションの詳細は、10月20日〜21日にボストンで開催される「Veeva R&D and Quality Summit」で紹介される。同イベントはライフサイエンス業界の関係者限定の開催とされている。

業界にとっての意味

臨床試験のEDC構築は、プロトコルの内容を電子的なデータ収集の仕組みに翻訳していく作業であり、フォームの定義、訪問スケジュールの設定、入力値の整合性を確認するエディットチェックの実装、さらにそれらが正しく動くかを確かめるテストという工程を積み重ねる必要がある。今回のエージェントは、この一連の工程、すなわちフォーム・ビジット・エディットチェックルール・CQLベースのリスト、そしてテストデータ作成を含むテストまでを対象にしている。設定作業の一部ではなく、構築からテストまでを連続した対象として扱っている点が、この発表の輪郭である。

もう一つの論点は、AIの出力をどう統制するかという問題への回答の出し方だ。Veevaは、エージェントを組織の既存標準の上に構築し、CDISC USDMという業界標準のモデルを活用するという方法を選んでいる。自由な生成ではなく、既存の標準をどれだけ忠実に再利用できるかに軸足を置いた設計である。規制当局の監査を前提とする臨床データの領域で、AIを実務に組み込む際の一つのアプローチといえる。

商用面では、Veeva EDCの一部として追加ライセンス不要で提供される点が目を引く。既存のVeeva EDCユーザーにとっては、別契約を結ばずに利用できる機能追加という形になる。一方で、提供形態がClaude Coworkのプラグインであり、Veeva管理下のGitHubリポジトリからインストールする方式である点は、導入側に従来のSaaS機能とは異なる運用の検討を求める可能性がある。

Veevaは、アプリケーション、エージェント、データ、コンサルティングを通じてライフサイエンス業界に特化したクラウドサービスを提供し、世界最大のバイオ医薬品企業から新興バイオテクノロジー企業まで1,500社以上にサービスを提供しているとしている。2026年12月のアーリーアダプター提供開始後、実際の試験構築でどのような使われ方をするかが次の焦点となる。