何が行われたか

令和8年10月1日に開かれた第217回社会保障審議会医療保険部会で、「医療保険制度改革について」「高齢者医療制度について」が取り上げられた。厚生労働省保険局は資料2-1「高齢者医療制度について」で、これまでの閣議決定等を整理。あわせて日本退職者連合(資料2-2)、日本退職公務員連盟(資料2-3)、認知症の人と家族の会(資料2-4)がそれぞれ意見書を提出した。

議論の土台となっているのは、令和8年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」である。医療保険制度について「70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合について、低所得者等の必要な受診が確保されるよう適切に配慮することを前提として、原則3割となっている現役世代との間で年齢によらない真に公平な応能負担を実現する観点から見直しを行う」とし、そのための改革工程表を2026年末までに策定するとしている。脚注では、外来特例の在り方、負担割合の区切りとなる所得の見直し、年齢の引き上げなど窓口負担の抜本的な見直しを、現役世代の負担軽減の観点からの公費負担のあり方とともに総合的に検討し、令和8年末までに一定の結論を得るとされる。マイナンバー制度を活用した所得・資産情報の把握基盤の整備も進めるとしている。

基本方針2026には、介護保険の2割負担の判断基準見直しについて2026年度中に結論を得ること、医療・介護保険における金融所得・資産の扱い、OTC類似薬の保険給付の見直しの施行とその状況等を踏まえた2027年度以降の対象範囲の拡大に向けた検討を進めることも記されている。

背景と、団体が示した数字

この検討の出典として、資料2-1は「社会保障改革項目に関する具体的な骨子」(令和8年7月7日、自由民主党・日本維新の会社会保障制度改革協議体)を挙げる。骨子には高齢者の定義見直しも含まれ、社会保障及び労働分野の制度ごとの年齢区分等を制度横断的に総点検し、必要に応じて引き上げ等を行う方向で検討、その改革工程表を令和8年度末までに策定するとされている。また「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」(令和5年12月22日閣議決定)では、医療の「現役並み所得」の判断基準の見直し等を2028年度までに検討するとされ、その際は2022年10月に施行された後期高齢者医療制度の窓口負担割合見直し(一定以上所得のある者への2割負担導入)の施行状況等に留意するとしている。

日本退職者連合(1991年結成、会員62万人)は、窓口負担の変遷として1973~82年は負担なし、1983年からは定額(入院300円/日、外来400円/月)、2002年から1割(現役並み2割)、2006年から1割(現役並み3割)、2008年から後期高齢者医療制度(75歳~)、2022年から一定以上所得は2割、と整理。その上で「生活を脅かす拙速な制度の変更・窓口負担増は認められない」とし、負担割合増で自己負担が2倍もしくは1.5倍になる(物価上昇率の10倍以上)と指摘した。検討の方向性として、入院日数の適正化や一部の高額薬価の抑制など診療種目別国民医療費の見直しと、公費負担と保険料の按分など財源別国民医療費の見直しの両面からの検討を挙げている。

日本退職公務員連盟は、現役並み所得の判断に金融資産を含めることは「方向性としては、やむを得ない」としつつ、令和8年度の年金改定が基礎年金1.9%、厚生年金2.0%のアップであり、年金額の上昇が各種所得換算制度のランクに影響して手取り減となる場合があるとして、負担割合の細分化も検討するよう求めた。現役並み所得を有する後期高齢者の医療給付に公費負担が入っていない点についても、公費の投入が必要だとしている。

認知症の人と家族の会(昭和55年設立)は、介護保険制度改正に関する署名が最終5万6,333筆(書面31,980筆、オンライン24,353筆)に達したことや、回答者2,010名の調査で老老介護が47%(うち後期高齢者どうし20.5%)だったことを示した。家計調査報告(2025年平均)に基づき、65歳以上の夫婦のみ無職世帯で月17,941円、65歳以上の単身無職世帯で8,388円の赤字であることを挙げ、介護保険制度改正と時期が重なることによる家計への影響、受診控え・利用控えを懸念点とした。

医薬品側から見た論点

資料1には、2026年9月11日の部会で出た主な意見が事務局の整理として載っている。そこでは「高度化する医療の中で、高額な薬剤が使われている情勢もある。それらが公定価格の中で運営されている」として医療提供体制の存続を不可欠とする意見、対GDP比などによる定量的・機械的な医療費の目標設定・抑制は「必要な医療技術や医療機器・医薬品の導入、地域医療提供体制の維持に影響を及ぼすことが懸念」とする意見があった。医療には年金のマクロ経済スライドのような調整弁が少なく、これまで薬価や保険外併用療養費で対応してきたという指摘も記録されている。「医薬品の使い方や保険給付の範囲について、さらなる見直しに向けて議論すべき」という意見も出ている。

窓口負担の議論は患者の自己負担の問題であると同時に、給付範囲と財源配分の議論でもある。基本方針2026が示すOTC類似薬の保険給付見直しの施行と2027年度以降の対象範囲拡大の検討、9月11日の部会で出た高額薬剤や薬価をめぐる言及は、年末までに策定される改革工程表の周辺で、医薬品の給付範囲と価格が繰り返し取り上げられる論点であることを示している。10月1日のヒアリングでは、負担増そのものへの慎重論と、公費投入や財源構成の見直しを求める主張が並んだ。令和8年末という期限が明示されている以上、工程表に何がどの順序で書き込まれるかが、次の焦点となる。