アーサー・ディ・リトル・ジャパン(ADL)は2026年10月20日、再生医療等製品の政策提言をまとめたホワイトペーパー「革新的な再生医療への患者アクセス向上を支えるエコシステムの確立 ― 戦略産業化に向けた官民投資と制度基盤の在り方」を公表した。著者はADLのコンサルタント、プリンシパル、パートナーの5人で、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)が協賛している。

【ここまで無料】
レポートによれば日本の再生医療等製品の人口当たり投与患者数はフランスやドイツの40%程度で、開発・製造・商業化の政策をすべて実施すれば、2035年に欧州主要国と同水準の患者アクセスと、約1兆円規模の産業が実現するという内容。医療費は従来治療より約900億円増えるが、税収と社会保険料収入が約1,000億円となり、医療保険財政等の収支はプラスになるとしている。

https://www.adlittle.com/sites/default/files/press-release/20261020_innovative%20regenerative%20medicine_JP.pdf
https://webtan.impress.co.jp/r/prtimes/items/000000106.000091738

ADLの推計では2024年の日本の人口100万人当たり再生医療等製品投与患者数は8.6人で、ドイツの24.0人、フランスの22.2人の40%程度、米国の30.8人の30%未満となっている。日本全体では年1,069件となる。推計は、日本造血細胞移植データセンター、欧州骨髄移植学会(EBMT)、米国のCIBMTRなどが集計したCAR-T投与実績をもとにしている。

図

レポートはこの原因として、ドラッグラグ・ロスと、製薬企業や医療機関による販売・投与の制限の2つを挙げている。ADLの集計によれば2026年9月時点で欧米のいずれかで承認された47製品のうち36製品、欧米の両方で承認された16製品のうち6製品は日本で未承認となっている。また、欧米で第3相試験または申請段階にある製品の約84%は日本で臨床試験が行われていない。

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001514787.pdf

製薬企業による販売制限の例としてヤンセンのCAR-T細胞療法カービクティを挙げており、これは2022年9月に承認されたが2026年9月時点で薬価収載されていない。

臨床開発の支援規模についても米カリフォルニア州の再生医療機構(CIRM)と比べており、CIRMの臨床試験助成(CLIN2)は2026〜27会計年度に9〜16件を採択する計画で、1件当たり800万〜1,500万ドルの助成を上限とし、企業は試験の段階に応じて30〜50%を自己負担する形となっている。一方、日本の再生医療に特化した臨床試験支援は年3件程度で、1件当たり最大2.7億円と大きな開きがある。

レポートでは2035年に向けた5つのシナリオが設定されており、過去数年の動向が続くベースライン、臨床試験への補助金などを行う臨床開発政策推進、製造体制への補助金などを行う製造政策推進、薬価・診療報酬を見直す商業化政策推進、これらをすべて行う全政策推進となっている。

全政策推進シナリオでは、2035年に年約13,000人が再生医療等製品による治療を受け、人口当たりの投与患者数はフランス・ドイツと同水準になるとしている。このうち約8,200人が長期寛解などの持続的な臨床効果を得るとしているが、臨床開発政策や製造政策だけでは効果が限られ、商業化政策の効果が大きいとしている。

産業規模では、製薬企業、CDMO(製造受託)、CRO(開発受託)などのエコシステム企業の売上合計が、2024年の約1,100億円から2035年に約9,400億円 (年率約22%の成長)になるとしている。これをもって1兆円規模の産業と表現しており、うち再生医療等製品そのものの国内市場規模は約3,000億円となっている。

図

費用負担の試算では、日本で発売済みの8疾患の再生医療等製品をモデルに、従来治療との医療費の差を計算している。全政策推進シナリオでは、2035年の再生医療の医療費は約3,700億円で、従来治療より約900億円多くなる。一方で、エコシステム企業・雇用者と、治療によって再び働けるようになった患者からの税収と社会保険料収入が約1,000億円増える見込みで、差し引きで医療保険財政等の収支はプラス約90億円としている。

図

レポートでは2つの提言も示されており、1つ目は既存の薬価制度の見直しで、新規収載時に単価に応じて補正加算を減らす傾斜配分のルールの改善または撤廃、また発売後に販売額が予想を上回ったとき薬価を下げる市場拡大再算定について、再生医療等製品への適用の緩和または除外を求めている。

2つ目の提言は新たな財源を確保して商業化政策を強めること。レポートでは原価計算方式や補正加算の枠組みにとらわれずに再生医療等製品の価値を反映した薬価算定方式を検討すること、発売後に長期の使用実態をもとに価値を評価し直し、値上げも含めて対応すること、医療機関の実際の負担を反映した診療報酬と設備投資・人材育成への補助を行うことを掲げている。