何を発表するのか

エーザイは2026年10月16日、2026年10月23日から27日までスペイン・マドリードで開催される欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会2026において、がん領域の製品・開発品に関する最新の臨床研究成果を発表すると発表した。

中心となるのは腎細胞がん(RCC)領域の2つの臨床第Ⅲ相試験である。LITESPARK-011試験(NCT04586231)の最終解析は、2026年10月25日8:30-10:00(マドリード現地時間)のProffered Paper Sessionで口頭発表される(発表番号:3587O)。抗PD-(L)1療法後の進行腎細胞がんを対象に、ベルズチファン(「ウェリレグ」、低酸素誘導因子2α阻害剤)とレンバチニブ(「レンビマ」)の併用療法をカボザンチニブと比較した内容で、同試験のデータは米国食品医薬品局(FDA)が同併用療法を承認する根拠となったものだという。

同じLITESPARK-011試験からは、健康関連QOL(HRQoL)と有効性の関係を検討した解析も、10月25日14:45-16:15のRapid Oral Sessionで発表される(発表番号:3595RO)。

もう一方のLITESPARK-012試験(NCT04736706)は、進行淡明細胞型RCC(ccRCC)の一次治療を対象に、ペムブロリズマブ(「キイトルーダ」)+レンバチニブ+ベルズチファンの3剤併用療法、またはMK-1308A+レンバチニブの併用療法を、「キイトルーダ」+「レンビマ」併用療法と比較評価した無作為化非盲検試験。こちらも10月25日8:30-10:00のProffered Paper Sessionで口頭発表される(発表番号:3586O)。

子宮内膜がんでは、進行または再発子宮内膜がんの一次治療として「キイトルーダ」+「レンビマ」併用療法と化学療法を比較した臨床第Ⅲ相LEAP-001試験(NCT03884101)の探索的バイオマーカー解析が、10月23日にポスター発表される(発表番号:4360P)。

このほか、切除不能非転移性肝細胞がんを対象としたLEAP-012試験の長期全生存期間(OS)解析(発表番号:1678RO、10月26日)、再発/転移性頭頸部扁平上皮がんを対象とした臨床第Ⅱ相LEAP-009試験の試験終了時安全性結果(発表番号:1555P、10月26日)、免疫チェックポイント阻害剤治療後の進行RCC患者におけるドイツの研究プラットフォームCARATのリアルワールドデータ(抄録番号:3692eP、オンライン発表)も予定されている。

採択された抄録は、日本時間2026年10月19日07:05 AM(10月19日00:05 CEST)にESMOのウェブサイトで公開される予定。ポスターは、マドリード現地時間の各ポスターセッション当日9:00~17:00に掲示される。

患者の声と、ライセンス導入品の発表

今回の発表で特徴的なのは、臨床データ以外の調査結果が含まれる点だ。米国の子宮内膜がん患者を対象に、診療の過程での経験や意見を調査した「Patients Raise Their Voices」の結果が、10月26日にポスター発表される(発表番号:1256P)。同調査は主要な患者支援団体と連携して実施されたもので、治療が日常生活に与える影響、治療に対する希望、患者と医師による共同意思決定の役割などを検討している。

Eisai Inc.のシニアバイスプレジデントでオンコロジーグローバル臨床開発リードのCorina Dutcus M.D.は、今回の発表が「進行がんの一次治療から病勢進行に至るまで、患者様の治療のさまざまな段階を対象として」いるとし、子宮内膜がんについてはバイオマーカー解析に加え、ペイシェント・アドボカシー部門主導の調査結果を発表することに言及。これらがヒューマンヘルスケア(hhc)理念を体現するものだと述べている。

また、エーザイが導入した品目に関する試験の発表も案内されている。Nuvation Bio Inc.がスポンサーのタレトレクチニブについては、エヌトレクチニブ前治療歴を有する進行ROS1陽性非小細胞肺がんを対象とした国際共同TRUST-II試験の最新結果がポスター発表される(発表番号:2643P、10月26日)。Shanghai Henlius Biotech, Inc.がスポンサーのserplulimabについては、米国の進展型小細胞肺がん患者を対象とした無作為化試験ASTRIDEの結果が、10月26日14:55-15:05にProffered Paperとして発表される(発表番号:3809O)。

背景にある提携と導入の経緯

「レンビマ」については、2018年3月にエーザイとMSDがグローバルな共同開発および共同販促を行う戦略的提携に合意している。この合意に基づき、両社は「レンビマ」の単剤療法と、MSDの抗PD-1抗体「キイトルーダ」またはHIF-2α阻害剤「ウェリレグ」との併用療法について、共同開発・共同製造・共同販促を行っている。今回のESMOでの発表が、ベルズチファン併用とペムブロリズマブ併用の両方にまたがるのは、この提携の構造を反映したものといえる。

「キイトルーダ」+「レンビマ」併用療法は、NCCNの「腫瘍学臨床診療ガイドライン 腎臓がん」において、進行ccRCCに対する一次全身療法として推奨されるカテゴリー1の優先レジメン、進行非淡明細胞型RCCに対する全身療法として推奨されるカテゴリー2Aの優先レジメンの一つに位置付けられている。

導入品についても経緯が示されている。タレトレクチニブは、2026年1月にNuvation Bioから、欧州、中東、北アフリカ、ロシア、トルコ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、インドにおける開発・薬事・商業化の独占的権利を取得。2026年3月に欧州医薬品庁(EMA)へ販売承認申請(MAA)を提出し標準的な審査スケジュールで受理され、2026年6月には英国MHRAへ国際承認審査手続き(IRP)を活用して申請し受理されている。カナダをはじめとする他のライセンス地域でも順次申請を行う予定だという。

serplulimabは、2026年2月にHenliusから日本における商業化の独占的権利を取得。日本では現在、Henliusが進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)に対する臨床第Ⅱ相試験をブリッジング試験として実施中で、中国および欧州における同適応の承認取得の根拠となった第Ⅲ相試験の結果と併せ、2026年度中の申請が予定されている。

業界にとっての意味

今回の発表ラインナップを並べると、エーザイのがん領域が二つの軸で構成されていることが見えてくる。一つは「レンビマ」を基盤とする併用療法の深掘りだ。RCCでは一次治療(LITESPARK-012)と抗PD-(L)1療法後(LITESPARK-011)の両方をカバーし、子宮内膜がん、肝細胞がん、頭頸部扁平上皮がんでも併用データが並ぶ。既承認レジメンのバイオマーカー解析やHRQoL解析、リアルワールドデータまで含まれており、既存資産から追加のエビデンスを積み上げる姿勢が明確である。

もう一つの軸が、タレトレクチニブとserplulimabという導入品だ。いずれも2026年に権利を取得し、タレトレクチニブは既にEMAとMHRAへの申請が受理され、serplulimabは日本で2026年度中の申請が予定されている。学会での発表は、こうした申請中・申請予定の品目に関する臨床データを医療従事者に示す場でもある。

また、患者調査「Patients Raise Their Voices」を臨床試験データと同じ学会で発表することは、治療成績だけでなく、治療が日常生活に与える影響や共同意思決定のあり方といった論点を、エビデンスとして扱う試みと読める。LITESPARK-011試験のHRQoL解析が口頭セッションに採択されている点と併せて考えると、有効性・安全性以外の評価軸への関心の高まりを示すものといえるだろう。