何が起きたか

富士フイルムシステムサービス(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:高村勲)は、株式会社EPファーマライン(本社:東京都豊島区、代表取締役社長:伊勢由多可)と共同で、医療用医薬品関連文書の作成・審査業務を支援するAIプラットフォームの検証を進めている。2026年10月19日、富士フイルムビジネスイノベーションが発表した。

検証期間は2026年7月7日から2026年12月31日までの約6か月間。富士フイルムシステムサービスが製薬企業向けに提供してきた臨床開発、新薬承認申請、市販後調査などのBPOサービスで培った業務ノウハウと、医療用医薬品関連文書の作成・審査業務で実績を持つEPファーマラインの医薬・医学領域の専門人材の知見を組み合わせ、作業負荷の軽減と品質の均一化に対するAIプラットフォームの有効性を評価している。発表時点で、文書の作成・審査業務での検証が進んでおり、業務効率化や品質向上への効果を確認しているという。

なお富士フイルムシステムサービスは、富士フイルムビジネスイノベーションの100%子会社。自治体・公共機関向けの戸籍総合システムやコンビニエンスストア証明発行システムなどを手がけ、業界・業務特化型のBPOサービスを提供している。EPファーマラインはEPSグループの一員で、DIサービス(コンタクトセンター)、BPOサービス、医療機器サポートサービス、マルチチャネルプロモーションサービス、ヘルスケアサポートサービスの5つを基軸としている。

なぜ文書業務なのか

発表が課題として挙げるのは、医療用医薬品関連文書に求められる専門性の高さだ。

製薬企業は医療従事者向けに、医薬品の詳細な学術情報をまとめたインタビューフォームなどを作成し、また医薬品の適正使用推進のための講演会用資料の審査を行っている。これらの作成・審査では、CTD(承認申請時に規制当局へ提出する共通技術文書)、添付文書、学術論文など複数の情報源を参照しながら、記載内容の正確性や整合性を確認する必要がある。

さらに、これらの文書は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)や、厚生労働省が策定した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」への適合も求められる。同ガイドラインは、医療従事者への情報提供における適正性・透明性の確保を目的とし、科学的根拠に基づく適切な情報提供や、誤認を招く表現の防止等を求めるものだ。

つまり、記載内容の正確性に加えて、表現方法の適切性を判断するための医薬・医学領域の専門知識と経験が要る。その結果、こうした業務が一部の経験豊富な担当者に集中しやすく、担当者ごとの業務負荷や作業品質のばらつきが課題となる場合がある──というのが、両社が共同検証に踏み切った背景として説明されている。

AIは何をするのか

作成業務では、AIプラットフォーム上でCTD、添付文書、学術論文などの関連資料を参照しながら、インタビューフォームをはじめとする文書案を生成する。従来は担当者が複数の関連資料を参照しながら文書案を作成していたが、担当者は生成された文書案を起点に内容の確認や修正を行う形になる。生成結果やその修正履歴を蓄積・活用することで、文書生成条件を継続的に改善し、精度向上を図るとしている。

審査業務では、AIプラットフォームが薬機法や販売情報提供活動ガイドライン、社内基準などとの整合性を確認し、確認が必要な箇所や修正候補を提示する。担当者は、各種基準とガイドラインの記載内容をひとつずつ照らし合わせる作業から、指摘箇所を起点とした確認・修正へと進め方を変えられる。

ただし発表では、本AIプラットフォームは作成・審査業務を「支援」することを目的としており、作成内容や審査結果に関する最終的な確認および判断は専門人材が実施する、と明記されている。

EPファーマラインの担当者コメントも、支援ツールとしての評価にとどまる。作成支援については「これまで関連資料を参照しながら多くの時間を要していたドラフト作成を効率化できる可能性を感じている」とし、ドラフト案をもとに確認・修正を行うことで文書作成プロセス全体の効率化も期待できるとする。審査支援については「ルールにもとづく確認作業において、人では見落としやすい箇所のチェック漏れ防止に有効であると感じている」とし、審査結果を分類・整理して表示できることから、指摘傾向の分析や業務報告への活用も期待できるとしている。

業界にとっての意味

この取り組みが向き合っているのは、生成AIの精度そのものというより、専門知識が特定の人に集中する構造のほうだ。発表は「経験豊富な担当者の知見を活用した業務の標準化が求められている」と述べ、今後の取り組みとして「経験豊富な担当者の知見を組織全体で共有・活用できる環境づくり」を掲げている。属人化の解消を、人の育成ではなくプラットフォームの設計で扱おうとしている点が特徴といえる。

もう一つ注目したいのは、検証の場がEPファーマラインの実務環境である点だ。富士フイルムシステムサービスがBPOサービスで培った業務設計ノウハウをもとにAIプラットフォームを開発し、文書作成・審査の実績を持つ事業者の現場で評価する構図になっている。ツール単体ではなく、BPOという業務の受け皿とセットで検証されていることになる。

今後は、AIプラットフォームの活用による作業時間への影響や、品質の均一化への有効性を評価し、実用性の検証を進めるという。富士フイルムシステムサービスは、本検証で得られた知見をもとに製薬企業向けBPO業務を支援するAIプラットフォームの事業化を検討し、EPファーマラインとの協業でサービス提供の具体化を進めるとしている。検証期間は2026年12月31日まで。事業化の可否や時期については、発表では「検討していく」とされるにとどまっている。