何が発表されたか
アッヴィ(NYSE: ABBV)は2026年10月18日、米イリノイ州ノースシカゴ発のリリースで、2026年10月23日から27日までスペイン・マドリードで開催される欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会において、固形がんポートフォリオの新規および更新データを発表すると明らかにした。対象はTemab-A(telisotuzumab adizutecan)、ABBV-706、ABBV-969、ABBV-1480(RC148)、alveltamig、Emrelis™(telisotuzumab vedotin-tllv)、Elahere®(mirvetuximab soravtansine-gynx)の7資産で、肺がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、胃がんにまたがる。同社はこれを「これまでで最も広範なESMOプログラム」と位置づけている。
同社のオンコロジー(固形腫瘍・血液腫瘍)領域ヘッドであるDaejin Abidoye氏は、「複数の腫瘍種と開発段階にわたり、より長期の臨床的ベネフィット、バイオマーカーで規定された患者集団での有望な結果、新規併用療法と次世代プラットフォームの可能性を示す結果が得られている」とコメントしている。
主要データの中身
Temab-A(c-Met標的、トポイソメラーゼ1阻害薬ペイロードの次世代ADC)では、既治療の進行大腸がんを対象とした第1相試験の安全性導入・用量最適化コホートの統合データで、2.4 mg/kgとベバシズマブ併用が奏効率(ORR)30%を示した。追跡期間中央値18.2か月時点で全生存期間(OS)中央値は併用群14.7か月(n=30)、標準治療群10.2か月(n=20)で、c-Met発現レベルを問わなかった。新たな安全性シグナルはない。本併用はグローバル第3相AndroMETa-CRC-560試験(NCT07525206)で評価中。
非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)の第1相更新解析では、EGFR野生型の非選択患者(n=48)でORR 50%、OS中央値13.8か月。EGFR変異陽性(n=41)ではORR 63%、OS中央値16.2か月。EGFR野生型のうちc-Met 3+かつ25%以上の発現閾値を満たす集団ではOS中央値が約19.2か月だった。単剤は第3相AndroMETa-Lung-167試験(NCT07821684)で標準治療と比較されている。さらに、ベースラインで脳転移を有するEGFR変異NSCLC 19例の事後統合解析では頭蓋内ORR 37%、頭蓋内奏効期間中央値19.8か月が示された。Temab-Aは、これらのデータも根拠の一部として、大腸がんとNSCLCで米FDAのブレークスルーセラピー指定を2件取得している。
ABBV-706(SEZ6標的ADC)は、第3相用量である1.8 mg/kg(n=41)で、再発・難治性小細胞肺がんの2次治療以降の集団にORR 56%、OS中央値12.4か月。2次治療のみの部分集団(n=17)ではORR 82%、OS中央値14.4か月だった。第3相試験(NCT07365241)が進行中。
ABBV-969(PSMAとSTEAP1を同時に標的とするADC)は、転移性去勢抵抗性前立腺がんの第1相用量漸増試験(NCT06318273、n=49、前治療歴中央値5ライン)で、サイクル3までに90%の患者がctDNAの50%以上減少を達成し、78%で循環腫瘍細胞が不良から良好(5個以上から5個未満)へ転換した。3 mg/kg以上を投与されPSMA PET評価のある27例のうち、VISION基準でPSMA PET陰性の2例はいずれもPSA50奏効を示した。
ABBV-1480(PD-1×VEGF二重特異性抗体)は、1次治療のPD-L1陽性NSCLCで単剤(n=22)ORR 61.9%、無増悪生存期間(PFS)中央値15.2か月。既治療NSCLCでのドセタキセル併用(20 mg/kg、n=21)はORR 66.7%、PFS中央値8.5か月。グレード3以上の治療関連有害事象は、単剤で高血圧と蛋白尿、併用で好中球数・白血球数・リンパ球数の減少が多かった。第3相AMUR-Lung-01試験(NCT07756645)に加え、Temab-Aとの併用試験(NCT07874282)も新たに開始されている。
このほか演題一覧には、ElahereのMIRASOL(GOG 3045/ENGOT-ov55)に関する奏効例の特性、1次治療としての評価、倦怠感の患者報告アウトカム、カルボプラチン併用時の血液学的安全性、Emrelisの米国請求データベースを用いた実臨床での使用実態などが含まれる。
業界にとっての意味
今回のプログラムで目を引くのは、発表される資産の構成である。Temab-A、ABBV-706、ABBV-969はいずれもトポイソメラーゼ1阻害薬をペイロードとするADCであり、標的はc-Met、SEZ6、PSMA/STEAP1と異なる。同じペイロード基盤を複数の標的に展開する形になっており、ABBV-969は2標的を同時に狙うことで腫瘍の不均一性に対応する設計だと説明されている。ADC開発の競争軸が、ペイロードそのものから「どの標的に、どう当てるか」へ移りつつあることを示す構成といえる。
もう一つは、第1相データから第3相への移行の速さである。Temab-Aは大腸がんとNSCLCで、ABBV-706は再発・難治性小細胞肺がんで、ABBV-1480は肺がんで、それぞれ第3相が走っている。第1相の段階で標準治療との比較データやOSを提示し、ブレークスルーセラピー指定につなげる進め方は、後期開発の設計に影響する。
加えて、c-Met 3+かつ25%以上という発現閾値でOS中央値が約19.2か月に伸びた点や、PSMA PET陰性例でもPSA50奏効が得られた点は、バイオマーカーによる患者選択の線引きが今後の適応設計や診断薬の要否に直結することを示している。承認済みのElahereとEmrelisについて、実臨床での使用実態や患者報告アウトカムが並んで発表されることも含め、承認後のデータ蓄積を開発中資産の議論と同じ場に置く構成になっている。