何が発表されるのか

ロシュ(SIX: RO, ROP/OTCQX: RHHBY)は2026年10月19日、バーゼル発のリリースで、2026年10月23〜27日にマドリードで開かれる欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会において、肺がん・乳がんをはじめとする複数のがん腫で新データを発表すると明らかにした。発表には2件の late-breaking abstract が含まれる。

中心は3つだ。第III相Krascendo 1(divarasib)、第III相lidERA Breast Cancerの患者報告アウトカム(giredestrant)、そしてB7-H3標的の次世代抗体薬物複合体(ADC)Tam-Peli(tambotatug pelitecan、YL201)の第III相中間解析である。

最高医学責任者兼グローバル製品開発責任者のLevi Garraway氏は、「KRAS G12C変異肺がんにおけるdivarasibの直接比較での優越性の確立から、giredestrantのような経口SERD、Tam-Peliのような次世代ADCの開発まで」と述べ、延命だけでなく治療経験・忍容性・生活の質の改善も目標に掲げるとコメントしている。

divarasib:第一世代阻害薬との直接比較

Krascendo 1は、既治療の局所進行・転移性KRAS G12C変異非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、divarasibをsotorasibまたはadagrasibと比較した試験である。リリースによれば、次世代KRAS G12C阻害薬を既承認の第一世代阻害薬と直接比較した唯一のグローバル試験で、結果はdivarasibの優越性を示したとされる。演題番号は#LBA5で、10月25日(日)16:30〜16:42 CET、Presidential Symposium IIのProffered Paper Sessionで発表される。

同じくdivarasibでは、切除後のステージII〜IIIB、KRAS G12C陽性NSCLCを対象に免疫療法または経過観察と比較する第III相Krascendo 3のtrial in progress演題(#2551)も予定されている。

giredestrantとTam-Peli

giredestrantは経口の次世代選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)でフルアンタゴニスト。対象となるER陽性・HER2陰性乳がんは、90%超が早期(I〜III期)で診断されるサブタイプとされる。ESMOでは、第III相lidERAの患者報告アウトカム(#538)が、内分泌療法に対する有効性の改善が忍容性や健康関連QOLを犠牲にせずに達成されていることを示唆するものとして報告される。ほかに、CDK4/6阻害薬後の進行乳がんでeverolimusとの併用を検討した第III相evERAの探索的バイオマーカー解析(#2)、inavolisibとの併用を評価するMORPHEUS Breast Cancerの更新された中間解析(#23)が並ぶ。

Tam-Peliは、高い抗腫瘍活性とオフターゲット毒性の抑制を両立させる設計の次世代B7-H3標的ADC。ESMOでは、多数の前治療歴がある再発・転移性上咽頭がんを対象とした中国での第III相TAISHAN-301の中間解析(#LBA43)、第I/II相からの間質性肺疾患の解析(#1057)、局所進行・転移性NSCLCでの第I相データ(#2577)が示される。これらは、9月の世界肺癌学会で発表された二次治療小細胞肺がんの第III相TAISHAN-302(初回中間解析で全生存期間、無増悪生存期間、奏効率の3つの評価項目すべてを達成)に続くものだ。ロシュは中国本土・香港・マカオ以外でTam-Peliを開発・商業化し、複数のがん腫でグローバル試験を速やかに開始する計画としている。

このほか、c-Met標的ADC YL211の初のヒト第I相(#1017)、HER2陽性乳がんのZN-A-1041(BREnnA試験、#1796)、ペルツズマブ、Tecentriq(アテゾリズマブ)関連の演題も予定されている。

業界にとっての意味

KRAS G12C阻害薬は、これまで実薬同士の直接比較データが乏しい領域だった。Krascendo 1がPresidential Symposiumの枠で、既承認の2剤を比較対照に置いた結果を示すことは、同クラス内の位置づけを標準治療の議論に直接持ち込むことを意味する。既治療NSCLCでの選択肢の序列づけに影響しうる。

乳がんでは、経口SERDの評価軸が有効性だけでなく忍容性・QOLに広がっている点が読み取れる。早期乳がんは治療期間が長く、患者報告アウトカムが処方判断に与える重みは大きい。

Tam-Peliについては、中国で実施された第III相の結果を起点に、ロシュが中国本土・香港・マカオ以外でグローバル展開を担う構図が明示された。中国発のADCを導入し、グローバル試験で広げるという開発モデルが、肺がん・頭頸部がんという大きな領域で具体的な第III相データを伴って提示される形になる。なお、ロシュは日本の中外製薬の筆頭株主である。