何が発表されたか

武田薬品工業は2026年10月19日(米国東部時間)、潰瘍性大腸炎(UC)を対象としたENTYVIO®(ベドリズマブ)の第4相Treat-to-Target試験「VERDICT試験」(NCT04259138)の新たなデータを発表した。副腎皮質ステロイド非使用(CSF)での「疾患クリアランス」を治療目標とした群は、CSFでの症候的寛解のみを目標とした群と比べ、UC関連合併症が初めて発現するまでの期間が有意に延長した(ハザード比0.33[95%信頼区間0.17~0.67]、P=0.0014)。UC関連合併症のリスクは約70%低下した。

本結果は2026年のUnited European Gastroenterology(UEG) Weekのレイトブレーキングセッションおよびポスターセッションで発表され、United European Gastroenterology Journalに掲載された。VERDICT試験は、Alimentiv社が武田薬品と共同で実施した第4相無作為化Treat-to-Target試験である。

試験の設計と数字

対象は、主に生物学的製剤による治療歴がない、またはMayo内視鏡スコア(MES)評価で重症、もしくはその両方に該当する中等症から重症の活動期UCの成人患者672例(Mayo血便サブスコア[RBS]≥1、MES≥2)。患者は段階的に厳格化した3つのCSF治療目標に無作為に割り付けられた。グループ1は症候的寛解、グループ2は症候的寛解+内視鏡的寛解、グループ3は症候的寛解・内視鏡的寛解・組織学的寛解からなる疾患クリアランスである。割り付けられた目標に応じ、ENTYVIOを用いた治療アルゴリズムに従って治療を強化し、必要に応じて投与頻度を増やした。目標の達成状況は16週、32週、48週に評価した。

主要評価項目は、治療目標達成後80週までの初回UC関連合併症(入院、結腸切除術、救済療法の使用、治療関連合併症およびその他のUC関連合併症)の発現までの期間を、グループ3とグループ1で比較することだった。

治療目標を達成した患者集団における主な結果は次のとおり。無作為化された患者の約60%(400/672例)が48週までに割り付けられたCSF目標を達成した(グループ1:137例[74.1%]、グループ2:125例[56.3%]、グループ3:138例[52.1%])。グループ3はグループ1に対し主要評価項目を達成し、80週までのUC関連合併症リスクが約70%低下した。CSFで臨床的寛解および内視鏡的寛解を達成したグループ2の患者の80%以上は、48週時点で組織学的寛解も達成していた。一方、グループ2とグループ3では合併症発現までの期間は同程度だった(1.10[0.45~2.69]、P=0.8023)。発現した51件のUC関連合併症のうち、最も多かったのは救済療法の使用だった。

有害事象の発現率は各群で同程度で、より厳格な目標に向けた治療強化やENTYVIOの投与頻度増加による影響は認められなかった。96週間を通じた安全性プロファイルは既報データと概ね一貫し、新たな安全性シグナルは認められていない。主な有害事象(≥5%)は、潰瘍性大腸炎、貧血、血便、新型コロナウイルスへの感染、インフルエンザ、鼻咽頭炎および関節痛だった。

また、治療目標を達成した患者のうち、ENTYVIO投与群の半数超(57%)が16週時点で疾患クリアランスを達成した。UEG Weekでは追加解析も発表され、プロテオーム解析・トランスクリプトーム解析により、生物学的製剤による治療歴がなく16週までに疾患クリアランスを達成した患者で、炎症、粘膜の恒常性および組織修復に関わる経路の変化を含む特徴的な分子パターンが確認された。武田薬品はこれを探索的な知見と位置づけている。

背景と意味

疾患クリアランスは、CSFの条件下で、症状がない「症候的寛解」、腸管粘膜の目に見える治癒を示す「内視鏡的寛解」、顕微鏡レベルの治癒を示す「組織学的寛解」の3つを組み合わせた治療目標で、International Organisation for the Study of Inflammatory Bowel Diseases(IOIBD)が提唱する、より厳格な基準である。VERDICT試験は、この厳格な目標を事前に設定した仮説に組み込んだ、UCで初めての無作為化試験だと説明されている。

資料によれば、UC患者の最大30%は時間の経過とともに再燃、入院、手術などの合併症を経験する可能性があり、生活への支障に加えて精神的・経済的な負担を伴うことがある。症状の緩和だけでなく腸管の治癒を促し、疾患の経過に変化を与えることが重要という問題意識が、今回の試験設計の背景にある。

業界にとっての含意は二点ある。第一に、「症状が取れればよい」という目標設定と、内視鏡・組織まで踏み込む目標設定とで、80週後までの合併症発現に差が出ることが前向き無作為化試験として示された点だ。治療目標そのものがアウトカムを左右し得るという命題が、Treat-to-Targetの枠組みで検証された形になる。第二に、グループ2とグループ3で合併症発現までの期間が同程度だったこと、グループ2の80%以上が48週時点で組織学的寛解も達成していたことは、どこまでの厳格さを実臨床の目標に置くかという議論の材料となる。

ベドリズマブは、UCおよびクローン病で利用可能な唯一の腸管選択的生物学的製剤で、α4β7インテグリンに特異的に結合し、主に腸管の内皮細胞に発現するMAdCAM-1との相互作用を阻害する。IV製剤は80を超える国、SC製剤は50を超える国で販売承認を取得し、世界全体で累計230万人・年を超える患者に投与されている。筆頭著者のVipul Jairath氏は「VERDICT試験の結果は、Treat-to-Targetの導入が疾患経過を変える可能性を示唆しています」と述べている。