何が発表されたか

塩野義製薬は2026年10月21日、英F2G Ltdと共同開発中の新規抗真菌薬オロロフィムについて、侵襲性アスペルギルス症患者を対象としたグローバル第3相臨床試験(OASIS試験)の結果を、F2G社が2026年10月22日のIDWeek 2026レイトブレーカー口頭発表で報告すると公表した。主要評価項目を達成し、AmBisome治療群に対する非劣性が示された。

主要評価項目である治療開始後42日時点の全死因死亡率は、オロロフィム投与群23.8%(36/151名)、AmBisome治療群24.3%(18/74名)。群間差は-0.5%(95%信頼区間:-13.1%~10.8%)だった。非劣性マージンはFDAおよび欧州CHMPと合意した20%が用いられ、評価対象はIntent-to-treat(ITT)集団である。

主要な副次評価項目であるMSG-EORTC基準による奏効率は、42日時点でオロロフィム投与群26.5%(40/151名)、AmBisome治療群31.1%(23/74名)、84日時点ではそれぞれ30.5%(46/151名)、28.4%(21/74名)。84日時点の全死因死亡率はオロロフィム投与群32.5%(49/151名)、AmBisome治療群29.7%(22/74名)で、群間差は2.7%(95%信頼区間:-10.6%~15.0%)だった。登録後の平均入院期間は、オロロフィム投与群17±15日、AmBisome治療群28±25日である。

安全性については、治験担当医師が薬剤と関連があると判断した有害事象の発現率がオロロフィム投与群35.8%、AmBisome治療群63.9%。薬剤関連性の腎関連有害事象はそれぞれ1.3%、22.2%、重篤な薬剤関連性有害事象は4.0%、18.1%だった。抗真菌薬で注意が必要な薬剤性肝障害(DILI)について、専門家の判定で薬剤との関連が否定できないとされた発現率は、オロロフィム投与群4.6%(7/151名)、AmBisome治療群4.2%(3/72名)だった。

試験の設計と、これまでの経緯

OASIS試験(NCT05101187)は、確定診断された侵襲性アスペルギルス症、または臨床的に診断された肺侵襲性アスペルギルス症の成人患者225名を対象とした、判定者盲検のグローバル無作為化比較試験である。登録されたのは、アゾール系抗真菌薬に抵抗性を示す、またはその使用が困難な患者で、登録理由はアゾール耐性(既知または疑い)、アゾール系薬剤との薬物相互作用、アゾール系予防投与中のブレイクスルー感染、アゾール系薬剤による前治療の無効のいずれかだった。

患者は2対1の比率で割り付けられた。オロロフィム経口投与群は151名で、1日目は150mgを1日2回、以降は90mgを1日2回投与(併用薬および臨床状況に応じた用量調整を許容)。AmBisome静注群は74名で、3mg/kgを1日1回、少なくとも10日間投与した後、AmBisomeの継続または他の標準治療へ移行する設計である。投与期間は最長84日間。

オロロフィムはF2G社が創出したオロトマイド系抗真菌薬のリード化合物で、真菌の生育に必須であるピリミジン合成経路を阻害する新規作用機序を持つ経口薬。既承認薬に耐性を示す株を含む幅広いアスペルギルス属に対して活性を示すとされる。FDAからは侵襲性アスペルギルス症、スケドスポリウム症、侵襲性スコプラリオプシス症、コクシジオイデス症を対象としたオーファンドラッグ指定を取得済み。加えてQualified Infectious Disease Product(QIDP)指定と、2件のブレークスルーセラピー指定を得ている。欧州でも、欧州委員会から同様の4疾患を対象としたオーファン指定を取得している。

なお、速報としての良好な結果は2026年6月18日のプレスリリースで既に公表されており、今回はそこに主要な副次評価項目と安全性データが加わった形となる。

業界にとっての意味

今回の結果が持つ意味は、第一に投与経路にある。試験に組み入れられたのはアゾール系が使えない患者であり、治験責任医師のベルギー・ルーベン大学病院のJohan Maertens博士は、こうした患者が現在は静脈内投与の非アゾール系薬剤に頼らざるを得ない状況にあると述べている。経口投与のオロロフィムが静注のAmBisomeに非劣性を示したことは、この患者層に経口の代替選択肢が生まれうることを意味する。登録後の平均入院期間がオロロフィム投与群17±15日、AmBisome治療群28±25日だった点も、治療の場をめぐる議論に関わるデータといえる。

第二に、安全性プロファイルの差である。薬剤関連の有害事象発現率、とりわけ腎関連有害事象(1.3%対22.2%)と重篤な薬剤関連有害事象(4.0%対18.1%)で両群に差がみられた。一方、DILIについては両群とも4%台で、大きな開きはなかった。

塩野義製薬の取締役上席執行役員でR&D管掌のJohn Keller氏は、侵襲性アスペルギルス症では20年以上にわたり治療に大きなイノベーションがみられていないとし、今回の結果をアンメットニーズに応える重要な一歩と位置づけている。F2G社のChief Medical Officer、John H. Rex博士も、オロロフィムを新規作用機序を有するファーストインクラスの薬剤と説明し、アゾール耐性株を含むアスペルギルス属への活性を示すエビデンスが蓄積されつつあるとコメントしている。

本試験結果に基づき、塩野義製薬は欧州およびアジアで、F2G社は米国で、それぞれ規制当局への承認申請を進める予定だ。地域ごとに申請主体が分かれる体制となる。ただしオロロフィムは現時点で開発中の化合物であり、安全性および有効性は確立されておらず、いずれの国・地域においても承認されていない。塩野義製薬は「感染症の脅威からの解放」をマテリアリティとして掲げており、今後もF2G社とともに開発を推進するとしている。