何が決まったか
サノフィ株式会社とEnable Injections社は2026年10月19日、Enable Injections社が多発性骨髄腫治療薬サークリサ®皮下注(一般名:イサツキシマブ(遺伝子組換え))の専用デバイスとして、サークリック®の製造販売承認を取得したと発表した。
この承認により、サークリサ®皮下注は、オンボディ・インジェクター(OBI)による皮下投与が可能な初のがん治療薬となる。また、OBIと手動のいずれの方法でも皮下投与が可能な、初の多発性骨髄腫治療薬にもなる。
サークリック®は、Enable Injections社のenFuse®テクノロジーを用いて開発されたデバイスで、ボタンを押すだけでサークリサ®の皮下投与が行えるよう設計されている。サークリサ®皮下注に用いるCirCLIQ Injectorの注射針は外から見えない格納式で、大容量の皮下投与に一般的に用いられる注射針より細い30G(外径約0.30mm)で、短いことが特徴とされる。
医療機器としての分類はクラス3(高度管理医療機器)、JMDNコードは12504003(加圧式医薬品注入器)。用途は、医療従事者がサークリサ®皮下注1400mgを成人患者の腹部への皮下投与を行う際に用いるもの、と規定されている。
承認の根拠となった試験データ
今回の承認は、国際共同第III相試験であるIRAKLIA試験を含む、OBIを用いたサークリサ®の皮下投与を検討した5つの試験結果に基づく。
IRAKLIA試験は、1レジメン以上の前治療歴がある再発または難治性の多発性骨髄腫の成人患者を対象に、ポマリドミド・デキサメタゾン併用療法(Pd)にサークリサ®皮下注のOBI投与を追加する治療法と、サークリサ®静脈内投与を追加する治療法を比較したもの。客観的奏効率(ORR)はOBI皮下投与群で71.1%、静脈内投与群で70.5%となり、OBI皮下投与の非劣性が示された(リスク比[RR] 1.008; 95%信頼区間[CI]: 0.903-1.126; p=0.0006)。
OBI皮下投与の所要時間は中央値で13分、注射部位反応の発現率は全注射回数のうち0.4%だった。これらの臨床評価のいずれの項目においても、サークリサ®皮下注のOBI投与の安全性プロファイルは、サークリサ®静脈内投与で確立された安全性プロファイルと同様であり、デバイスに関連する安全上の懸念は認められなかったとしている。
これまでの経緯
サークリサ®は、多発性骨髄腫の腫瘍細胞表面に高頻度かつ一様に発現しているCD38受容体の特異的エピトープを標的とするモノクローナル抗体製剤。現在、米国、EU、日本、中国をはじめとする約60ヵ国で多発性骨髄腫の治療薬として様々な治療レジメンで点滴静注製剤が承認されており、これまで世界で7万人を超える患者が投与を受けている。
日本では2026年6月18日に、サークリサ®皮下注が承認済みの標準的な治療レジメンと併用する多発性骨髄腫治療薬として厚生労働省から製造販売承認を取得している。効能又は効果は多発性骨髄腫で、ポマリドミド・デキサメタゾン併用療法(Pd)、カルフィルゾミブ・デキサメタゾン併用療法(Kd)、ボルテゾミブ・レナリドミド・デキサメタゾン併用療法(VRd)が適応となる。用法及び用量は、他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはイサツキシマブ(遺伝子組換え)として1回1400mgを、併用する抗悪性腫瘍剤の投与サイクルを考慮してA法(1週間間隔、2週間間隔の順)またはB法(1週間間隔、2週間間隔及び4週間間隔の順)で皮下投与する、とされている。
日本におけるサークリサ®の使用は5つの治療レジメンにわたる。未治療の多発性骨髄腫に対するVRdとの併用療法、および再発または難治性の多発性骨髄腫に対する4つの治療レジメン(Pdとの併用、Kdとの併用、デキサメタゾン単独との併用、単剤療法)である。このうちサークリサ®皮下注は、未治療の多発性骨髄腫ではVRdに追加投与する治療薬として、再発または難治性の多発性骨髄腫ではPdおよびKdに追加投与する治療薬として承認されている。
OBIを用いたサークリサ®皮下注は、EU、米国、英国を含む複数の国で既に承認済みだ。今回、日本でも専用デバイスの承認が揃った形になる。
業界にとっての意味
多発性骨髄腫は、血液腫瘍のなかでは日本で3番目に多い疾患とされる。発表では、近年、日本国内における新規診断者数は増加の一途にあり、特に一次治療における新たな治療アプローチの必要性が高まっているとしている。
抗体医薬の投与経路という観点で見ると、今回の承認は「薬剤の承認」と「デバイスの承認」が組み合わさって一つの投与形態が成立する事例にあたる。サークリサ®皮下注そのものは2026年6月18日に承認されていたが、OBIによる投与を実現するには、加圧式医薬品注入器としてのサークリック®が高度管理医療機器の承認を別途得る必要があった。医薬品と医療機器の両輪で製品を設計する開発の形が、がん領域でも具体化したことになる。
IRAKLIA試験で示された所要時間の中央値13分という数字は、静脈内投与と比較した投与時間の位置づけを考えるうえでの実測値だ。加えて、OBIと手動の双方で皮下投与を選べる初の多発性骨髄腫治療薬という点は、医療現場が投与方法を選択できる幅が広がることを意味する。
サノフィは、アンメットニーズが高く、まれで治療が難しいがんに対して、ファースト・イン・クラスおよびベスト・イン・クラスの免疫療法薬や分子標的療法薬の開発を進めているとしている。今回の承認は、薬剤そのものの新規性だけでなく、投与の仕組みを刷新する方向での製品開発が、オンコロジー領域で実を結んだ一例といえる。