何が起きたか
一般財団法人阪大微生物病研究会(BIKEN財団、本部:大阪府吹田市、理事長:米田悦啓)と田辺ファーマ株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役CEO:原田明久)は、共同開発中の6種混合ワクチンについて、10月21日より第Ⅲ相臨床試験の初回投与を開始した。両者が2026年10月22日に発表した。
対象となるのは、百日せき、ジフテリア、破傷風、急性灰白髄炎(ポリオ)、Hib感染症、B型肝炎の6疾患を予防するワクチンである。治験コードはBIKEN財団がBK1803、田辺ファーマがMT-1803。試験の登録番号は、jRCTがjRCT2031260370、ClinicalTrials.govがNCT07793513である。
本剤は、既存の5種混合ワクチン(百日せき・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオ・Hib混合ワクチン)の有効成分と、B型肝炎ワクチンの有効成分を混合したもの。今回の第Ⅲ相試験は国内で実施され、本剤の免疫原性について、既承認の5種混合ワクチンおよびB型肝炎ワクチンに対する非劣性を検証するとともに、安全性を確認することを目的としている。
背景にある「17回以上」という数字
発表によれば、現在、2歳までに接種が推奨される定期接種ワクチンの総接種回数は17回以上におよぶ。乳幼児期に短期間で多数の接種をこなす必要があり、混合ワクチンの実用化によって接種回数を削減できれば、乳幼児および保護者の負担軽減につながる、というのが両者の説明である。
日本では5種混合ワクチンがすでに実用化されており、今回の6種混合ワクチンはそこにB型肝炎ワクチンの成分を加える位置づけとなる。単純に言えば、これまで別々に接種していたものが1本にまとまる方向である。
この開発は、企業側の判断だけで進んでいるものではない。6種混合ワクチンは、厚生労働省が令和7年6月19日付で発出した「開発優先度の高いワクチンの研究開発について(開発要請)」において、開発優先度の高いワクチンに位置付けられ、開発が要請されている。つまり、行政側からの明示的な要請に応える形の開発である。
BIKEN財団は1934年の設立以来、数多くの日本初となるワクチンの開発、生産、供給を行い、先進的な臨床検査サービスも提供してきたと説明する。田辺ファーマは1678年の創業以来、340年以上にわたる知見と信頼を基盤に、R&D、事業開発および戦略的パートナーシップを通じて医薬品を創出することをめざす、日本を事業基盤とする製薬企業である。
業界にとっての意味
第Ⅲ相試験の初回投与開始は、開発がヒトでの検証の最終段階に入ったことを示す節目である。今回の試験の主要な目的が「既承認ワクチンに対する非劣性の検証」である点は、本剤の性格をよく表している。新しい疾患を予防するワクチンではなく、すでに予防できている疾患を、より少ない接種回数で同等にカバーすることを狙う製品だからだ。価値の源泉は新規の有効成分ではなく、接種スケジュールの簡素化そのものにある。
この種の「負担軽減型」の開発は、効果の新しさで評価されにくい一方、接種率や接種完了率といった公衆衛生上の実務に直結する。2歳までに17回以上という接種回数は、保護者が医療機関に足を運ぶ回数、医療機関側のスケジュール管理、接種間隔の調整といった実務負荷に跳ね返る。混合化はその負荷を構造的に減らす手段である。
また、厚生労働省の開発要請に基づく開発であるという点も見逃せない。どのワクチンを優先的に開発するかという判断が行政側から示され、それに国内の開発主体が応じる、という流れが具体的な臨床試験として動き出した事例にあたる。ワクチンの開発優先度が政策的に提示される枠組みが、実際の開発パイプラインにどう反映されるかを見るうえでの一例となる。
加えて、ワクチンの研究・開発と供給を担うBIKEN財団と、製薬企業である田辺ファーマという組み合わせでの共同開発である点も特徴だ。両者は今後も6種混合ワクチンの早期開発に尽力するとともに、ワクチンおよび治療用医薬品の製造と安定供給を通じて、感染症の予防に貢献していくとしている。発表では今後の開発スケジュールや申請時期には言及されていない。次に注目されるのは、この第Ⅲ相試験で非劣性が示されるかどうかである。