何が決まったか
キッセイ薬品工業は2026年10月22日、指定難病である顕微鏡的多発血管炎(MPA)・多発血管炎性肉芽腫症(GPA)の治療薬「タブネオス」(一般名:アバコパン)について、厚生労働省が新規患者への投与開始の差し控えと、投与中患者の中止または代替治療への切替えの検討を原則とする対応を医療機関等に要請する通知を、2026年10月21日付で発出したと発表した。
事実関係
発表によると、2026年10月21日に開催された厚生労働省の薬事審議会医薬品第二部会で、独立行政法人医薬品医療機器総合機構による確認結果が報告された。これは、キッセイ薬品が厚生労働大臣から受領した報告命令に基づいて提出した回答書について、厚生労働省が確認した結果である。
審議の結果、承認審査時の提出資料の信頼性に問題があり得ることが確認され、本剤による治療上の有益性がリスクを上回ると判断することが困難であるとされた。他方で、本剤の対象疾患は重篤な希少疾病であり、投与中の患者における治療変更は、病状や他の治療選択肢を踏まえて個別に判断する必要があるとされている。
これを受けて厚生労働省が同日付の通知で医療機関等に要請した対応は、次の3点である。
- 新規の患者については、本剤の投与開始を差し控えること。
- 本剤を投与中の患者については、中止又は代替治療への切替えを原則として、対応を検討すること。その際は、患者ごとの病状、治療効果、他の治療選択肢及び治療変更に伴う影響を踏まえて検討すること。
- 代替治療への切替えまでの間など、本剤の使用を継続する場合には、5月21日に発出した安全性速報(ブルーレター)を踏まえた適正使用を継続すること。
キッセイ薬品は、この厚生労働省の対応方針を速やかに医療機関等へ伝達するとしている。また、医療関係者・患者向けに「くすり相談センター」(フリーダイヤル0120-007-622、受付時間9時〜17時40分、土日祝日・同社休日を除く)を設置している。
業績への影響については「精査しており、今後業績に影響を与えることが明らかになった場合は、速やかに開示します」としている。
これまでの経緯
同社の発表によれば、本剤をめぐる動きは2026年春から続いていた。まず2026年5月15日、同社は医療従事者に慎重な投与を要請する情報提供活動を開始した。続く2026年5月21日には、重篤な肝機能障害について日本の添付文書を改訂し、あわせてこれを医療従事者に伝達・注意喚起する安全性速報(ブルーレター)を発出している。
さらに同社は、厚生労働大臣から、欧米で問題とされている国際共同第Ⅲ相臨床試験データの信頼性、および本剤の安全性に関する事実確認を行ってその報告を求める報告命令を受領し、これに回答していた。今回の医薬品第二部会での報告は、この回答書に対する確認結果という位置づけになる。
タブネオスは、米国のケモセントリクス社により創製された腎領域等における希少疾病治療薬である。経口投与可能な低分子化合物で、好中球をはじめとする白血球などに存在するC5a受容体に拮抗し、白血球の遊走および接着分子の発現誘導を妨げる作用を有する。国内ではMPAおよびGPAを効能又は効果として製造販売承認を受けているが、発表時点では、その承認根拠となった臨床試験資料の信頼性と、本剤の有益性・リスクについて行政当局による検討が行われている段階にある。米国では、重症かつ活動性のMPAおよびGPAの患者に対して本剤が提供されている。
何が変わるのか
今回の通知は、承認の取消しや販売中止ではなく、「当面の間」の投与に関する医療機関等への要請という形をとっている。それでも、新規投与の差し控えと投与中患者の切替え検討が原則として示された以上、実質的に臨床現場での本剤の使用は大きく絞り込まれることになる。
注目されるのは、判断の根拠が安全性の問題だけでなく、「承認審査時の提出資料の信頼性に問題があり得る」という点に及んでいることだ。有効性と安全性を比較する前提となるデータそのものの信頼性が問われたため、「有益性がリスクを上回ると判断することが困難」という結論に至っている。ブルーレターによる注意喚起という安全対策の枠内では収まらない論点が持ち込まれた形である。
その一方で、対象疾患が重篤な希少疾病であることから、投与中の患者については一律の中止ではなく、病状、治療効果、他の治療選択肢、治療変更に伴う影響を踏まえた個別判断が求められている。切替えまでの間の継続使用も、ブルーレターを踏まえた適正使用を条件に認められている。治療選択肢が限られる難病領域で、データの信頼性という行政上の問題と、目の前の患者の治療継続という臨床上の要請をどう両立させるか。今回の3点の要請は、その調整を現場の医師の判断に委ねる構成になっている。
MPA・GPAは厚生労働省特定疾患に指定されており、腎臓、肺、神経系など様々な臓器で発症し、重症化した場合は深刻な健康問題となる疾患である。企業側に求められるのは、通知内容の速やかな伝達と、相談窓口を通じた医療関係者・患者への対応ということになる。業績への影響については、同社が精査中としており、現時点で具体的な数値は示されていない。