何が決まったか

Genmab A/S(Nasdaq: GMAB)とIncyte(Nasdaq: INCY)は2026年10月24日、KRAS G12D変異を有する転移性大腸がん(mCRC)の一次治療を対象に、両社の開発品と標準化学療法を併用する臨床試験で提携することを発表した。発表はデンマーク・コペンハーゲンと米デラウェア州ウィルミントン発で行われた。

評価される組み合わせは、GenmabのpetosemtamabとIncyteのINCB161734、そして標準治療(standard-of-care)の化学療法である。試験の相はPhase 1/2。両社は、この領域を「substantial unmet medical need(相当に満たされない医療ニーズ)がある領域」と位置づけている。

役割分担も明示されている。試験の実施主体はGenmabで、同社がKRAS G12D変異mCRC患者を対象とする第1/2相試験を実施する。Incyteは試験費用を共同負担(co-fund)し、INCB161734の治験薬供給を担う。

二つの開発品と、それぞれの現在地

petosemtamab(開発コードGEN1158)は、GenmabのヒトIgG1骨格の二重特異性抗体で、EGFR(上皮成長因子受容体)とLGR5(ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5)を標的とする。資料によれば、受容体上の固有の部位に結合してリガンド結合を阻害することでEGFRシグナルを抑えるほか、EGFRとLGR5をともに発現するがん幹細胞様細胞でEGFRの分解を誘導する。さらに、マクロファージやナチュラルキラー細胞との相互作用を通じて自然免疫を介した活性を高めるよう設計されている。

現在、petosemtamabは頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)および大腸がん(CRC)を含む固形がんで開発中であり、大腸がんについては、RAS/BRAF野生型の転移性CRCの一次治療と二次治療を対象に、化学療法との併用で二つの第3相試験が進行している。今回の提携は、この野生型を対象とした開発とは別に、KRAS G12D変異という異なる患者集団へ踏み込む内容になる。

一方のINCB161734は、経口投与可能な低分子で、選択的なON/OFF型のKRAS G12D阻害剤と説明されている。すでに、未治療のKRAS G12D変異膵管腺がん(PDAC)を対象に、標準化学療法との併用で有効性と安全性を評価するグローバル第3相試験DAWN-303(NCT07522073)が患者登録中である。加えて、KRAS G12D変異の固形がん横断の非盲検第1相試験(NCT06179160)で、単剤および標準化学療法(ゲムシタビン/nab-パクリタキセル、または修正FOLFIRINOX)との併用が評価されている。

数字が示す対象患者の広がり

資料は対象患者の規模感を複数の数字で示している。KRAS変異は大腸がんの約40%に生じ、その中でG12Dが最も多いKRAS変異だとされる。また、KRAS G12D変異そのものの頻度としては、膵管腺がんの約40%、大腸がんの約15%に見られるとされている。これらのがんは予後不良と関連づけられており、新たな治療アプローチの必要性があると記されている。

GenmabのExecutive Vice President兼Chief Development OfficerであるJudith Klimovsky氏は、今回の提携が「petosemtamabのより広い開発戦略を支えるもの」であり、治療ラインや新しい併用の可能性を探る取り組みだと述べた。Incyteの社長兼グローバル研究開発責任者のPablo J. Cagnoni氏は、転移性大腸がんが依然として治療困難であるとしたうえで、KRAS G12D阻害とLGR5標的のEGFR阻害、標準化学療法を組み合わせ、一次治療の新たなアプローチを進めることを目的とすると説明している。

業界にとっての意味

今回の枠組みで注目されるのは、作用機序の異なる二つの開発品を、どちらも単独の承認を待たずに併用で評価する点である。petosemtamabは大腸がんでRAS/BRAF野生型を対象に第3相まで進んでおり、INCB161734はKRAS G12D変異を持つ膵がんで第3相に入っている。それぞれが自社の主戦場を持ったまま、両者が重ならない患者集団——すなわちKRAS G12D変異の大腸がん——に向けて第1/2相から合流する構図だ。

費用は共同負担、治験薬はIncyteが供給し、試験実施はGenmabが担う。資産の譲渡やライセンスではなく、試験単位での協業という形は、双方が自社プログラムの主導権を保ったまま、併用の科学的仮説だけを検証できる設計といえる。EGFR標的薬の適応が長くRAS野生型に限られてきた大腸がん領域において、KRAS G12D阻害剤を組み合わせることで変異型にも踏み込めるかどうかが、この試験の焦点になる。

ただし、petosemtamabもINCB161734も、いずれも治験段階の化合物である。両社の発表文にも記されている通り、前臨床や初期臨床の結果が後期・大規模試験で再現されるかは不確実であり、承認や市販の時期についても確定した見通しは示されていない。