何が起きたか

持田製薬株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:持田直幸)とDuchesnay Inc.(本社:カナダ・ケベック州、President:Éric Gervais)は2026年10月26日、日本において持田製薬が妊娠に伴う悪心・嘔吐に対するBON-001の第Ⅲ相臨床試験を開始したと発表した。

本試験は、妊娠に伴う悪心・嘔吐を有する妊婦を対象とし、BON-001を投与した際の有効性の検証と安全性の確認を目的とする。デザインは多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験である。

BON-001はDuchesnay社が開発した妊娠に伴う悪心・嘔吐治療剤で、ドキシラミンコハク酸塩とピリドキシン塩酸塩を有効成分とする経口の配合剤。海外では主に「Bonjesta」の製品名で販売され、世界45か国で承認されている。

背景──学会の要請と企業公募

妊娠初期における悪心・嘔吐、いわゆるつわり症状は、日本の妊婦の半数以上に見られる症状とされる(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会編『産婦人科診療ガイドライン 産科編2026』)。一方で、妊娠に伴う悪心・嘔吐に対する効能で承認された医薬品は、現在の日本国内には存在しない。

この空白を埋めるために動いたのは行政だった。BON-001は日本国内では未承認であったため、厚生労働省は日本産科婦人科学会からの要請を受け、本剤を開発する企業を公募していた。これに応じる形で、持田製薬は2025年12月にDuchesnay社と日本国内における開発・販売に関する契約を締結し、日本での製造販売承認取得に向けた開発に着手している。今回の第Ⅲ相試験開始は、その契約締結から続く開発プロセスの一段階にあたる。

両社は発表のなかで、本剤の日本への導入がドラッグロスの解消につながるものだと位置づけている。

持田製薬の常務執行役員 医薬開発担当・早野泰嗣氏は「当社は、これまで子宮内膜症等の治療剤であるジエノゲストをはじめとする産婦人科領域の製品開発に継続して取り組んでおり、この度、Duchesnay社との協働により、本剤の第Ⅲ相臨床試験を開始できることを大変嬉しく思います」とコメント。そのうえで「本試験は、日本における本剤開発の重要なマイルストーンであり、妊娠に伴う悪心・嘔吐に関するアンメットメディカルニーズへの対応に向けた一歩となります」と述べた。

Duchesnay Pharmaceutical Groupのバイスプレジデント、レギュラトリー&メディカルアフェアーズ担当のMichael Gallo氏は「Duchesnay社は、当社製品が世界各国で高い科学的・規制上の基準を満たすことに注力しています」とし、「持田製薬をはじめとするパートナーとの協働を通じ、各国の規制要件や臨床開発上の要件に適切に対応し、世界の女性に本剤を治療の選択肢として届けることを目指しています」とコメントしている。

意味──「公募」という回路が試験段階まで進んだ

今回の発表から読み取れることは、大きく二つある。

一つは、未承認薬の解消ルートとしての公募が、実際に臨床試験の開始まで到達した事例になったという点だ。学会が要請し、厚生労働省が開発企業を公募し、手を挙げた企業が海外のオリジネーターと契約を結び、国内第Ⅲ相試験に入る——この一連の流れが、発表文のなかに時系列として明示されている。2025年12月の契約締結から今回の試験開始まで、開発は段階を進めた。世界45か国で承認されている薬剤が日本だけ未承認という状態が、この回路を通じて動き出した形である。

もう一つは、領域の性格である。妊婦を対象とする臨床試験は、対象集団の特性上、一般的な疾患領域とは異なる配慮を要する。発表されたデザインは多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験であり、有効性の検証と安全性の確認の両方が目的に掲げられている。承認された医薬品が国内に一つも存在しない領域で、半数以上の妊婦が経験する症状に対し、プラセボ対照のデータが日本で取得されること自体が、これまでになかった知見の蓄積にあたる。

持田製薬は循環器、消化器、産婦人科、精神科を重点領域とし、「女性の様々なライフステージのサポート」を価値提供の柱に掲げている。ジエノゲストに続く産婦人科領域の開発として、BON-001がどのような結果を示すかが次の焦点となる。両社は、本剤の開発を着実に推進し、妊娠に伴う悪心・嘔吐に悩む女性への新たな治療選択肢の提供を目指すとしている。