1年で4,100人から12,000人超へ
NICE(英国国立医療技術評価機構)は2026年10月26日、同機関が推奨する子宮内膜症および子宮筋腫向けの経口薬について、イングランドにおける処方が1年で3倍以上に増加したと公表した。対象となるのはレルゴリクス配合療法(relugolix CT)とリンザゴリクス(linzagolix)の2剤である。
具体的な数字はこうだ。2025年4月から2026年3月までの間に、イングランドでGP(一般医)からこれらの薬剤を処方された人は12,000人超。前年度の4,100人のほぼ3倍にあたる。NICEは、治療は通常病院で開始され、プライマリケアの統計は主に継続処方を捉えるものであるため、実際に治療を受けている人数はこれより多いと説明している。
錠剤数ベースでも同様の傾向が確認されている。NHS全体での使用量は同期間に120万錠から370万錠へと、やはり3倍超に伸びた。この数字は一次医療・二次医療の双方を含む。データの出所は、NHSBSAおよびRXinfo Defineのデータに基づくNICEの分析である。
診断までの長い待ち時間という背景
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が体の他の部位で増殖する疾患で、生殖年齢の女性のおよそ10人に1人が罹患する。英国では診断までに平均9年を要するとされる。子宮筋腫は子宮の内外にできる良性の腫瘍で、黒人女性に多く、より若い年齢でより重い症状が出ることがある。いずれも強い痛み、過多月経、強度の疲労を引き起こしうる。
政府の「Renewed Women's Health Strategy(刷新された女性の健康戦略)」は、あまりに多くの女性が無視されたと感じ、あるいは痛みを軽く扱われてきたと指摘している。資料に登場する3人の患者の証言も、この指摘に沿うものだ。13歳の初潮時から子宮内膜症を抱えるLucy Fordさんは「医師から異常はないと言われ、子宮内膜症と診断された事実すら否定されようとした」と語る。46歳のClare Gallagherさんは、専門センターに到達した時点で病状が進行しており、子宮・卵巣・虫垂の摘出に至ったという。筋腫症状を10代から抱える45歳のRuth Ajayiさんは、自身が受けた扱いに人種差別と、より広く女性全般に及ぶ医療上のミソジニーが影響した可能性があると述べている。
なお資料によれば、Ajayiさんは NICE の優先順位付け委員会、診断諮問委員会、PaCNリーダーズグループの一般委員であり、ここでは個人の立場で自身の経験を語っている。
注射から錠剤へ:推奨が与えた「確信」
レルゴリクスCTとリンザゴリクスは経口のGnRH拮抗薬で、子宮内膜症や子宮筋腫に関連するホルモンを抑える。従来のホルモン注射と異なり、臨床医によれば長期服用が可能で、効果の発現がより速い場合があるという。
NICEの推奨範囲は限定的だ。子宮筋腫については、中等度から重度の症状をもつ成人が対象。リンザゴリクスは長期治療向けに推奨され、用量は患者によって異なる。子宮内膜症については、すでに他の薬物治療または外科治療を試した人が対象となる。いずれも、すべての人にとっての第一選択薬ではない。
Modality Community Gynaecology ClinicのAamena Salar医師(女性の健康を専門領域とするGP)は「NICEの推奨が、臨床医にこれらの治療を用いる確信を与えた」と述べ、より早期の段階で対応できる柔軟性が生まれ、治療の遅れやより複雑な手術を避けられると説明する。錠剤であるため通院が不要で、副作用が出れば中止できる利便性も挙げている。University Hospitals Birmingham NHS Foundation TrustのNilofer Husain医師は、診断と手術の両方で長い待機期間がある中、NICEの推奨が長期的・非侵襲的な治療へのニーズに応えていると指摘した。
長期安全性とモニタリング、そして次の一手
Husain医師は「長期的な安全性についてはさらに情報が必要だ」とし、対象患者の慎重な選択と、骨の健康スキャンを含む定期的な検診の重要性を強調している。実際、Ajayiさんは痛みとホットフラッシュを経験して一時的に服用を中止し、婦人科医のレビューを待っている状態だ。それでも服用したことを後悔してはいないという。
NICEの女性・生殖健康担当コンサルタント臨床アドバイザー、Marie Anne Ledingham氏は「これらの錠剤がすべての人に適しているわけでも、効果があるわけでもない」としたうえで、認知度の向上が医師との十分な情報に基づく対話につながることへの期待を示した。
周辺の政策も動いている。Renewed Women's Health Strategyには、婦人科の待機リスト削減、診断の迅速化、婦人科処置時の疼痛緩和の改善が盛り込まれている。NICEはまた、GPが子宮内膜症をより早く診断する助けとなりうる唾液検査「Endotest」を条件付きで推奨し、過多月経と子宮内膜症に関するガイダンスも提供している。
製薬業界にとって、この数字が示すものは明快だ。評価機関による推奨が、投与経路の転換(注射から錠剤へ)と結びついたとき、処方実績は1年という短期間で3倍規模に動きうる。一方で、長期安全性データの不足と骨健康モニタリングの要請は、この市場が今後も推奨条件とリアルワールドの追跡に強く規定されることを意味している。