何が起きたか
住友ファーマ株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:木村徹)は2026年10月27日、開発中の抗がん剤enzomenib(一般名、開発コード:DSP-5336)について、米国子会社のSumitomo Pharma America, Inc.が、再発または難治性のKMT2A遺伝子再構成を有する急性白血病を対象とする米国食品医薬品局(FDA)の「ブレイクスルーセラピー(Breakthrough Therapy)」指定を受けたと発表した。
ブレイクスルーセラピー指定は、重篤または生命にかかわる疾患の治療を目的とした薬剤の開発・審査を促進する米国の制度である。指定を受けた薬剤は、開発および審査の迅速化に向けて、FDAから継続的な助言や支援を受けることができる。指定の対象となるには、未公表情報を含む臨床試験データに基づき、臨床的に重要なエンドポイントにおいて既存治療と比較して大幅な改善が期待できることを示す必要がある、と同社は説明している。
本剤は現在、再発または難治性のKMT2A遺伝子再構成を有する急性白血病を対象としたピボタルフェーズ2試験を実施中である。あわせて、再発または難治性のNPM1遺伝子の変異を有する急性骨髄性白血病を対象としたピボタルフェーズ2試験も実施している。同社は、enzomenibの早期承認取得を目指すとともに、患者に「ベストインクラス」となる新たな治療選択肢を一日でも早く届けられるよう、引き続き開発を推進するとしている。
enzomenibとは何か、これまでに何を積み上げてきたか
enzomenibは、メニンタンパク質とKMT2A(lysine methyltransferase 2A)タンパク質との結合を阻害する低分子経口剤である。KMT2A遺伝子の再構成やNPM1遺伝子の変異を有する急性骨髄性白血病では、メニンとKMT2Aの結合によって、造血幹細胞の維持に必要となる遺伝子の異常発現が認められ、これが急性骨髄性白血病の発症・維持に関連しているといわれている。本剤は非臨床試験において、メニンとKMT2Aの結合を阻害することで、それらの遺伝子の発現減少を介した抗腫瘍作用が示された。
規制上の後押しは、今回が初めてではない。FDAからは、2022年6月に急性骨髄性白血病、2026年7月に急性リンパ性白血病の適応でオーファンドラッグ指定を受けている。また2024年6月には、KMT2A遺伝子の再構成またはNPM1遺伝子の変異を有する再発または難治性の急性骨髄性白血病の適応でファストトラック指定を取得した。
日本国内でも、厚生労働省から複数の希少疾病用医薬品指定を受けている。2024年9月には再発または難治性のKMT2A遺伝子再構成陽性またはNPM1遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病で、2026年8月には急性骨髄性白血病における対象患者の範囲拡大(初発例を含むKMT2A遺伝子再構成またはNPM1遺伝子変異を有する患者)、および再発または難治性のKMT2A遺伝子再構成を有する急性リンパ性白血病の適応で、それぞれ指定を取得している。
なお同社は、本件の関連プレスリリースとして「開発中の抗がん剤enzomenibの急性白血病を対象としたフェーズ2試験の患者登録状況について」を開示している。
この指定が持つ意味
今回の指定で注目すべきは、その根拠である。オーファンドラッグ指定やファストトラック指定が、対象疾患の希少性や未充足の医療ニーズといった要件を軸に判断されるのに対し、ブレイクスルーセラピー指定は、同社の説明によれば、未公表情報を含む臨床試験データに基づき、臨床的に重要なエンドポイントで既存治療に比べ大幅な改善が期待できることを示す必要がある。つまり、enzomenibは「必要とされている領域の薬」という段階から、「臨床データで有望性を示した薬」という段階に一歩進んだことになる。公表されていないデータが評価の対象になっている以上、外部からその中身を検証することはできないが、FDAがその水準にあると判断した事実自体が重みを持つ。
もう一つの論点は、指定が下りた対象範囲だ。今回の指定は「急性白血病」を対象としている。一方、これまでFDAから得てきたファストトラック指定は急性骨髄性白血病を対象としたもので、急性リンパ性白血病でのオーファンドラッグ指定は2026年7月である。開発中のピボタルフェーズ2試験も、KMT2A遺伝子再構成を有する急性白血病と、NPM1遺伝子変異を有する急性骨髄性白血病の2本立てで進む。遺伝子異常を軸に対象を定義する開発の組み立てが、規制上の評価にも反映されている形だ。
実務面では、指定によってFDAから開発・審査の迅速化に向けた継続的な助言と支援が得られる。日本企業が米国子会社を通じて米国での開発を進め、並行して国内でも希少疾病用医薬品指定を重ねてきた本剤にとって、この助言の機会をどう使うかが、同社の掲げる「早期承認取得」の実現を左右する。