何が承認されたか
第一三共は2026年10月27日、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるEnhertu®(トラスツズマブ デルクステカン)の単剤療法について、欧州連合(EU)で一部変更承認を取得したと発表した。
今回認められた適応は、タキサン製剤と抗HER2療法による術前薬物療法を受けた後に浸潤性残存病変を有する、HER2陽性(IHC3+またはISH+)乳がん患者への術後薬物療法である。承認したのは欧州委員会(EC)。
根拠となったのは、術前薬物療法後のHER2陽性乳がん患者を対象に、本剤とT-DM1(トラスツズマブ エムタンシン)を比較したグローバル第3相臨床試験「DESTINY-Breast05」の結果で、同試験は2025年10月開催の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2025)で発表されている。
第一三共によれば、本剤がEUにおいて根治を目的とした早期乳がん治療を対象に承認されるのは、今回が初めてとなる。
また本承認に伴い、第一三共はアストラゼネカから開発マイルストンとして75百万米ドルを受領する。
これまでの経緯と各国の状況
本剤は、DESTINY-Breast05の結果に基づき、米国・中国等においてすでにHER2陽性乳がんの術後薬物療法に係る承認を取得している。日本では承認審査中であると発表資料に記載されている。今回のEUでの承認は、同試験の結果を軸に進められてきた地域ごとの申請・審査の一つが新たに完了した形となる。
本剤は、第一三共独自のDXd ADC技術を用いて創製された薬剤で、全世界(第一三共が独占的権利を有する日本を除く)においてアストラゼネカと共同で開発・商業化が進められている。DXd ADC技術は、がん細胞表面に発現する特定の抗原を標的とした抗体と、複数のトポイソメラーゼⅠ阻害剤(DXd)をリンカーを介して結合させ、がん細胞の内部へDXdを届けるというもの。抗体薬物複合体は、標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつがん細胞への攻撃力を高める設計となっている。
第一三共のADCパイプラインは、商業化・臨床開発段階にある9つのADCで構成され、そのうち7つがDXd ADC技術によるものだ。トラスツズマブ デルクステカンとダトポタマブ デルクステカン(ダトロウェイ®、抗TROP2 ADC)はアストラゼネカと、イフィナタマブ デルクステカン(抗B7-H3 ADC)、ラルドタツグ デルクステカン(抗CDH6 ADC)、パトリツマブ デルクステカン(抗HER3 ADC)はMerck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAと、いずれも日本を除く全世界で共同開発・商業化が進められている。DS-3939(抗TA-MUC1 ADC)、DS3790(抗CD37 ADC)、STINGアゴニストADCのDS3610、DS1025(抗CD25 ADC)は同社単独で開発中である。
早期乳がん治療における位置づけ
発表資料によれば、乳がんはがんによる死亡の主な原因の1つで、2024年には全世界で新たに約240万人が診断され、69万人以上が亡くなっている。欧州では2024年に約54万人が診断され、14万人以上が亡くなったとの報告がある。乳がんの5人に1人がHER2陽性とされる。
注目すべきは、早期乳がん患者のおよそ3人に1人が「高リスク」とみなされ、再発の可能性が高く予後不良とされている点だ。現在の標準治療を術後薬物療法として受けた場合でも、一部の患者は浸潤性疾患の再発を経験するか、亡くなっている。そして転移性疾患と診断された場合、5年生存率は約34%に低下する。
つまり、術前薬物療法後に残存病変が確認された患者にとって、術後薬物療法は再発リスクを低減し、転移性疾患への進行を防ぐ重要な機会となる。この段階で治療成績を上げられるかどうかが、長期的な予後を大きく左右する構図である。
今回の承認は、この局面の標準的な選択肢であるT-DM1との直接比較試験を踏まえたものだ。進行・転移後の治療で実績を積んできたHER2 ADCが、EUにおいても根治を目指す早期段階へと適用範囲を広げたことになり、HER2陽性乳がんの治療アルゴリズムにおける本剤の位置づけが前倒しされた意味は小さくない。
日本では審査中であり、国内の医療現場で同じ選択肢が使えるようになるかは、今後の審査結果を待つことになる。第一三共は、HER2陽性早期乳がんの術後薬物療法に新たな選択肢を提供することで、EUのより多くの乳がん患者に貢献していくとしている。