何が決まったか

アストラゼネカと第一三共のエンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)が、欧州連合(EU)において、タキサン系およびHER2標的薬による術前治療後に浸潤性残存病変を有する、切除後のHER2陽性乳がん成人患者に対する術後補助療法(単剤)として承認された。発表は2026年10月27日。

承認は欧州委員会によるもので、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)の肯定的見解を受けたものだ。根拠となったのは第III相試験DESTINY-Breast05の結果で、同試験は2025年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表され、その後The New England Journal of Medicineに掲載されている。

エンハーツにとって、EUで根治を目指す早期乳がん領域での承認はこれが初めてとなる。

試験データ

DESTINY-Breast05は、術前治療後に乳房または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有し、再発リスクの高いHER2陽性早期乳がん患者を対象に、エンハーツ(5.4mg/kg)とトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を比較した、グローバル多施設共同・無作為化非盲検の第III相試験である。高い再発リスクは、術前治療前に手術不能であった場合、または術前治療後に病理学的に腋窩リンパ節陽性である場合と定義された。登録患者数はアジア、欧州、北米、オセアニア、南米の1,635人。

主要評価項目は治験医師評価による浸潤性無病生存期間(IDFS)で、無作為化から最初の浸潤性局所・腋窩・遠隔再発、または全死因死亡までの期間と定義される。副次評価項目には治験医師評価によるDFS(主要な副次評価項目)のほか、全生存期間、遠隔無再発期間、脳転移無発現期間、安全性が含まれる。

結果として、エンハーツはT-DM1と比較して浸潤性疾患の再発または死亡のリスクを53%低下させた(ハザード比0.47、95%信頼区間0.34〜0.66、p<0.0001)。3年IDFS率はエンハーツ群92.4%(95%CI 89.7〜94.4)、T-DM1群83.7%(95%CI 80.2〜86.7)だった。安全性プロファイルは既知のものと一致しており、新たな安全性の懸念は認められていない。

試験の主任研究者であるドイツ乳がん研究グループ(GBG)およびフランクフルト・ゲーテ大学のSibylle Loibl氏は、標準治療と比較して50%超の再発リスク低下を示したことに触れ、「対象となる患者の治療のあり方を変える可能性がある」と述べている。アストラゼネカのオンコロジー・ヘマトロジー事業部門エグゼクティブ・バイス・プレジデントのDave Fredrickson氏は、3年時点で92%超の患者が浸潤性疾患なく生存していることを挙げ、根治を目指すこの領域で「新たな基準を打ち立てる可能性がある」とした。第一三共のグローバルオンコロジー事業責任者でDaiichi Sankyo, Inc.社長兼CEOのKen Keller氏は、EUでの早期乳がん初承認が、より早期の治療段階へ革新的医薬品を届けるという姿勢を反映していると述べた。

背景と意味

資料によれば、乳がんは世界の女性で最も多いがんであり、がん関連死の最大の原因でもある。2024年には世界でおよそ240万例が診断され、69万人超が死亡した。欧州では2024年に約54万例が診断され、14万人超が死亡している。乳がんのおよそ5例に1例がHER2陽性とされる。

HER2陽性早期乳がんの治療は、手術前の術前療法と、手術後の術後補助療法の二つの段階に分けて行われるのが一般的だ。術前療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られることは長期生存改善の早期指標とされるが、術前治療を受けた患者の約半数(39〜66%)はpCRに到達せず、再発リスクが高まる。さらに、残存病変を有し従来の標準的な術後補助療法を受けた患者のおよそ4人に1人が、なお浸潤性疾患または死亡を経験している。いったん転移性となると5年生存率は約90%から約30%に低下する。

今回の承認は、こうした「残存病変あり」という高リスク群に対し、T-DM1を上回る成績を示した選択肢をEUで使えるようにするものだ。エンハーツはDESTINY-Breast05に基づく術後補助療法の適応で、すでに35を超える国・地域で承認されている。同剤は第一三共が創製したDXd抗体薬物複合体(ADC)で、HER2モノクローナル抗体にトポイソメラーゼI阻害薬(エキサテカン誘導体、DXd)を切断可能な四つのペプチドを基本とするリンカーで結合した構造を持ち、アストラゼネカと第一三共が共同で開発・商業化している。

契約上の扱い

今回のEUでの承認に伴い、アストラゼネカから第一三共に対し、HER2陽性早期乳がんの術後補助療法適応に関するマイルストン支払いとして7,500万ドルが支払われる。EU域内の大半の地域におけるエンハーツの売上は第一三共が計上する。両社の財務上の取り決めの詳細は、2019年3月に締結された協業契約に定められている。同契約では、日本については第一三共が独占的権利を保持している。

なおエンハーツは、DESTINY-Breast11に基づくステージII・IIIの術前療法(5か国超)、DESTINY-Breast09に基づくペルツズマブ併用の1次治療(40か国超)、DESTINY-Breast03に基づく切除不能・転移性HER2陽性乳がん(100か国超)など、複数の適応で承認を取得している。今回のEU承認は、同剤の適応がより早期の治療段階へ広がっていることを示す一例といえる。