何が始まったか

株式会社FRONTEO(本社:東京都港区、代表取締役社長:守本正宏)は2026年10月27日、大塚製薬株式会社(本社:東京都)と、AI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」を活用した腎領域における標的分子探索の共創プロジェクトを開始したと発表した。標的分子とは、薬を作用させる対象とする分子(遺伝子)を指す。

FRONTEOは本プロジェクトで、大塚製薬の創薬研究に関する知見と、自社のAI解析技術および創薬研究者チームの知見を組み合わせ、腎領域における標的分子の探索を支援する。具体的には、自然言語処理に強みを持つ自社開発の方程式駆動型AI「KIBIT(キビット)」と独自の解析手法を用い、大塚製薬の指定する疾患における新規性の高い標的分子候補を抽出する。さらに、抽出した候補について関連する科学的エビデンスを多角的に検証し、標的分子候補と疾患との関係性や作用メカニズムに関する仮説を構築するとしている。

FRONTEOはこの取り組みを通じて、既存の知見の延長線上にとどまらない新たな創薬標的の探索を支援し、腎領域における革新的な治療薬の創出のサポートにつなげることを目指すと説明している。

DDAIFとKIBITとは何か

「FRONTEO Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」は、自然言語処理に特化した方程式駆動型AI「KIBIT」と、FRONTEOの創薬研究者およびAIエンジニアの知見を融合したAI創薬支援サービスである。疾患関連遺伝子ネットワークの解析や、標的分子候補に関する仮説の構築を通じ、医薬品開発における研究者の意思決定を支援する位置づけだ。同社によれば、本サービスはすでに複数の大手製薬企業で導入され、実績を重ねているという。DDAIFに使われている技術について、FRONTEOは日本および欧州、米国、韓国で計21件の特許権を取得している。

中核となる「KIBIT」は、FRONTEOが独自開発した人工知能で、方程式を用いることで非連続な発見、因果関係の把握、高い再現性を実現するとされる。学習プロセスの軽量化によりパソコン1台で稼働し、日米欧で特許を取得済みと説明されている。同社は、KIBITの自然言語処理技術は汎用型AIとは異なり、教師データの量およびコンピューティングパワーに依存することなく高速かつ高精度での解析を可能にするとしており、解析した情報をマップ化(構造を可視化)する特許技術と合わせて、専門家のインサイトに直接働きかけられる点を強みに挙げている。

FRONTEO取締役/CSO(Chief Science Officer)の豊柴博義氏は、「腎領域をリードし、長年にわたり革新的な医薬品の研究開発に取り組んでこられた大塚製薬様と、同領域において共創プロジェクトを開始できることを大変うれしく思います」とコメント。DDAIFの強みについて「膨大な文献情報を高速かつ網羅的に解析し、既存の論文では報告されていない疾患と分子の未知の関連性を捉えることで、新規性の高い標的分子候補を非連続的に発見すること」と述べ、「本プロジェクトを通じて、新たな創薬の可能性を見出し、革新的な治療薬の創出とアンメット・メディカル・ニーズの解消に貢献できることを期待しています」としている。

両社の位置づけと、この提携の意味

大塚製薬は「Otsuka-people creating new products for better health worldwide」を企業理念に掲げ、未充足の医療ニーズに新たな価値を提供する医療関連事業と、ニュートラシューティカルズ関連事業を展開するトータルヘルスケアカンパニーである。FRONTEOは2003年8月創業、2007年6月26日に東証マザーズ(現:東証グロース)に上場し、日本と米国で事業を展開。資本金は2026年6月30日時点で915,057千円。ライフサイエンスAIのほか、経済安全保障分野、ビジネスインテリジェンス・コンプライアンス支援分野、リーガルテックAI分野などのリスクマネジメント事業、DX事業を手がけている。

今回の発表から読み取れるのは、AIの役割が「既存の候補の絞り込み」ではなく「まだ論文として報告されていない疾患と分子の関連性の発見」に置かれている点だ。FRONTEOが「非連続的な発見」という言葉を繰り返し用いているのは、文献に明示的に書かれた知見の延長ではなく、文献群の構造解析から仮説を立てる探索手法を指している。標的分子の枯渇が課題となる領域において、文献解析型AIを探索の入口に据えるアプローチが、国内大手製薬企業との共創という形で積み上がっていることになる。

また、DDAIFがすでに複数の大手製薬企業に導入済みであるという説明と合わせて見ると、AI創薬支援は個別の実証実験から、製薬企業の研究プロセスに組み込まれる支援サービスへと位置づけが移りつつある。本プロジェクトで抽出された候補がどの疾患を対象とし、どのような成果に結びつくかについては、今回の発表では明らかにされていない。