何が起きたか

アッヴィ(NYSE: ABBV)は2026年10月27日(米イリノイ州ノースシカゴ発)、成人の再発または難治性多発性骨髄腫(RRMM)を対象に、エテンタミグの生物製剤承認申請(BLA)を米食品医薬品局(FDA)に提出したと発表した。エテンタミグ(開発コード ABBV-383)は、静脈内投与される第二世代のBCMA×CD3二重特異性抗体T細胞エンゲージャーで、現時点では治験薬の位置づけである。

申請の根拠となったのは、グローバル・多施設・無作為化・非盲検の第3相試験「CERVINO」(NCT06158841)である。対象はプロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体への曝露歴を含む2ライン以上の前治療を受けたトリプルクラス曝露のRRMM患者で、合計393例が1対1で無作為化され、エテンタミグ群と治験医師が選択する標準治療(SAT)群に割り付けられた。SATにはカルフィルゾミブ+デキサメタゾン、エロツズマブ+ポマリドミド+デキサメタゾン、セリネクソル+ボルテゾミブ+デキサメタゾンが含まれる。エテンタミグは、単回のステップアップ投与の後、開始時点から4週ごと(Q4W)に投与する最適化投与法が用いられた。

主要評価項目は奏効率(ORR)と無増悪生存期間(PFS)の2つ。結果は、ORRが74.0%対45.7%、PFSはリスク60%減少と、いずれもSATに対して統計学的に有意な改善を示した。副次評価項目には全生存期間、奏効の深さ、微小残存病変(MRD)陰性化、疾患症状、身体機能が設定されている。トップライン結果は本年すでに公表されており、詳細は2026年のInternational Myeloma Society年次会合(英グラスゴー)で発表された。

安全性のデータ

エテンタミグ群で25%以上に報告された治療下発現有害事象(TEAE)は、サイトカイン放出症候群(CRS)、低ガンマグロブリン血症、好中球減少症、貧血だった。TEAEによる投与中止はエテンタミグ群3.6%に対しSAT群14%で、エテンタミグ群のほうが低かった。

単回のステップアップ投与を受けた患者におけるCRSの発現率は28.3%で、すべてグレード1(23.9%)またはグレード2(4.4%)であり、グレード3以上は報告されなかった。免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は1例(グレード1)だった。グレード3/4の感染症はエテンタミグ群27.7%、SAT群19.2%。一方、グレード5の感染症はエテンタミグ群1.5%に対しSAT群3.1%で、エテンタミグ群で少なかった。

背景──広がる選択肢と、広がりきらない運用

アッヴィの発表は、BCMAを標的とする二重特異性抗体とCAR-T療法が多発性骨髄腫の治療環境を大きく変えてきた一方で、その普及には制約があると整理している。挙げられているのは、CRS、感染症、神経毒性といった有害事象と、投与・モニタリングに専門的な体制を要する点だ。さらに、再発を繰り返すにつれて後方ラインの選択肢は乏しくなる。こうした事情が、疾患の生物学に対応しつつ、多様な医療環境で治療を届けられる薬剤の必要性につながっている、という説明である。

米国では2025年に約36,000人が多発性骨髄腫と診断されたと推定されている。症状が非特異的で他疾患に似るため診断・治療が遅れやすく、患者と介護者には身体的・精神的・経済的な負担が生じる。

エテンタミグの構造については、CRSと感染症の低減を狙った低親和性のCD3結合ドメイン、高親和性の二価BCMA結合ドメイン、そして単回ステップアップ後のQ4W投与を可能にするFcRn結合の保持という設計が示されている。ただしアッヴィは、これら構造上の特徴と臨床的効果との直接的な関連は現在検証中であるとしている。

業界にとっての意味

アッヴィのオンコロジー(固形腫瘍・血液腫瘍)領域責任者であるDaejin Abidoye氏は、患者には有効性だけでなく「いつ、どこで、どのように治療を受けるか」という現実に即した選択肢が必要だと述べ、管理可能な安全性プロファイルと月1回投与の利便性に言及している。発表では、地域の医療機関(コミュニティベースのケア)を含む幅広い治療環境での使用を支えうる臨床プロファイルと投与スケジュール、という点が冒頭に置かれた。

この位置づけは、有効性の数字そのものと同じくらい、投与実務の設計が競争軸になっていることを示している。単回のステップアップ投与で立ち上げ、以後は4週ごと。グレード3以上のCRSが報告されなかったという今回のデータは、専門施設以外での運用可能性を論じる際の材料になる。中止率が3.6%と低い点も、継続投与を前提とする慢性疾患の治療では意味を持つ。

アッヴィは今回の申請を、疾患の複雑さと患者の変化する治療目標に対応する骨髄腫ポートフォリオ拡充の一環と位置づけている。同社は血液がんと固形がんにまたがる35を超える治験薬を複数の臨床試験で評価中で、エテンタミグについても多様な患者集団・治療設定での複数の臨床試験が進行している。FDAの審査結果と、今後の試験から得られるデータが次の焦点となる。