何が発表されたか
イーライリリー(NYSE: LLY)は2026年10月29日、2026年第3四半期(Q3 2026)の財務結果と、2026年通期見通しの更新を発表した。
売上高は前年同期の176億100万ドルから39%増の243億9,700万ドル。報告ベースの純利益は64億5,100万ドル(16%増)、1株当たり利益(EPS)は7.22ドル(16%増)。非GAAPベースの純利益は66億7,900万ドル(6%増)、EPSは7.48ドル(7%増)だった。報告・非GAAPいずれのEPSにも、取得インプロセス研究開発費(acquired IPR&D)が4.57ドル分含まれている。前年同期の同項目は0.71ドルだった。
通期見通しは、売上高のレンジ中間値を55億ドル引き上げ、910億〜920億ドルとした。非GAAP EPSについては、基礎部分を中間値で4.07ドル引き上げたが、第3四半期の事業開発活動に伴う4.57ドルの取得IPR&D費用がそれを上回り、更新後のレンジは35.00〜36.00ドルとなった。
中身を数字で見る
売上増の内訳は、数量が53%増、実現価格が15%減。主要製品(Key Products:Ebglyss、Foundayo、Inluriyo、Jaypirca、Kisunla、Mounjaro、Omvoh、Zepbound)の売上は171億ドルに拡大した。このうち免疫・腫瘍・神経の3領域の主要製品は、前年同期比で100%増となっている。
地域別では、米国が34%増の151億ドル(数量41%増、実現価格7%減)。数量はZepboundとMounjaroが牽引し、価格低下は主にZepboundによるもので、リベート・割引見積りの調整が一部相殺した。米国外は47%増の93億ドル(数量76%増、実現価格29%減)。数量はMounjaroが牽引し、価格低下は中国の国家医保薬品目録(NRDL)へのMounjaro収載が主因とされる。
Q3の売上には約9億ドルの一時的な押し上げ要因が含まれる。主なものはJardianceのマイルストン4億1,000万ドル(ベーリンガーインゲルハイムとの提携に伴うもので、残るマイルストンはない)と、リベート・割引見積りの有利な調整である。前年同期のJardianceマイルストンは2億ドル、加えてQ3 2025には米国外のCialis権利売却に伴う1億8,000万ドルが含まれていた。
製品別では、Mounjaroが65%増の107億2,300万ドル(米国50億ドル・41%増、米国外57億ドル・93%増)、Zepboundが49%増の53億5,200万ドル。Kisunlaは175%増の1億9,300万ドル、Foundayoは1億8,400万ドル、Inluriyoは7,300万ドルを計上した。年初来の総売上高は671億7,000万ドル(46%増)。
費用面では、研究開発費が23%増の42億ドル(売上比17%)、販売管理費が14%増の31億ドル。取得IPR&D費用は42億ドル(前年同期6億5,600万ドル)で、主にAtaiBeckley社とCurevo社の買収に関するもの。報告ベースの売上総利益率は83.9%(1.0ポイント上昇)、実効税率は23.3%(前年同期22.8%)だった。
背景:承認と買収が同じ四半期に重なった
同四半期には規制面の進展が相次いだ。米FDAは、2型糖尿病の成人における心血管リスク低減を目的としたMounjaro、週1回投与の基礎インスリンOnswik(insulin efsitora alfa-gobe)、ER+/HER2-/ESR1変異の進行・転移乳がんに対するInluriyoとVerzenioの併用、未治療のCLL/SLLへのJaypircaの適応拡大を承認した。12歳以上の重症円形脱毛症に対するOlumiantの小児適応も承認されている。
開発段階では、2型糖尿病の成人を対象にretatrutideとOzempic 2 mgを直接比較した第3相試験でポジティブなトップライン結果が得られ、A1C低下幅が大きく、体重減少はOzempicの最高承認用量の2倍超だったと説明されている。EbglyssはCの中等症〜重症の手足のアトピー性皮膚炎で第3相結果、EloraTZPは肥満および2型糖尿病の成人で第2相結果が示され、第3相は2026年第4四半期に開始予定とされる。
事業開発では、治療抵抗性うつ病などを対象とするAtaiBeckleyの買収を完了。四半期末後には、自己免疫・アレルギー疾患領域のMerida Biosciencesの買収も完了した。デビッド・A・リックス会長兼CEOは、MounjaroとZepboundへの世界的な需要、Foundayoのグローバル上市、米国での肥満治療の保険適用拡大、腫瘍・免疫・神経の新製品が2倍になったことを成長要因として挙げ、テキサス州とバージニア州での製造拡張にも言及した。
意味:利益の形が「買収費用込み」に変わった
この決算で目を引くのは、売上と利益の伸び率の差である。売上は39%増、報告EPSは16%増だが、非GAAP EPSは7%増にとどまる。差を生んでいるのは4.57ドル分の取得IPR&D費用で、前年同期の0.71ドルから大きく膨らんだ。通期見通しでも、基礎的な収益力の改善(中間値で4.07ドル)が同じ費用で相殺される構図が明示されている。買収を続ける限り、見かけのEPSは押し下げられる——その事実が、会社自身の説明として数字で示された形だ。
もう一つは価格である。全社で実現価格は15%下落し、米国外では29%下落した。それでも数量が53%増えたため売上は伸びた。中国のNRDL収載や米国のZepboundの価格低下は、数量の拡大と引き換えに単価を下げる取引であり、肥満・糖尿病領域の売上が「量で稼ぐ」構造へ移っていることを示す。
加えて、Jardianceのマイルストンは今回で終わりだと明記された。約9億ドルの押し上げ要因のうち4億1,000万ドルがこれにあたる。次の四半期以降、同じ伸び率を維持するには製品そのものの売上が必要になる。主要8製品の構成、とくに免疫・腫瘍・神経領域が100%増で伸びている点は、GLP-1依存からの裾野の広がりを測る指標として、今後も追う価値がある。