議題は「製造・国内投資」と「これまでの議論の整理」

「創薬力向上のための官民協議会 施策検討・推進部会」の第3回会合が、令和8年10月30日(金)13時から15時まで、AP虎ノ門とオンラインの併用で開催された。議事次第によると、議事は(1)製造・国内投資、(2)これまでの議論の整理、(3)その他の3項目である。

配布されたのは、経済産業省商務・サービスグループ生物化学産業課による資料1「製造・国内投資」と、藤本利夫、牧兼充、吉川真由、宮柱明日香、ジョンポール・プリシーノの各構成員による提出資料5点である。

経産省資料:研究から国内再投資への連鎖が切れている

資料1は、日本には世界に誇るサイエンスがある一方、その成果が「事業化→量産→国内再投資」の連鎖としてつながらず、生み出された価値が次の国内投資に還流しにくい構造にあると指摘する。段階ごとの現状は次のように整理されている。

  • 事業化:米国または欧州で2014〜2023年に上市された新薬のうち245品目が日本で利用できず、うち124品目(51%)は国内開発にも未着手
  • 量産:バイオ医薬品の国内自給率は約14%(2021年、金額ベース)で、国内需要の大半を海外での製造に依存
  • 再投資:革新的医薬品産業の研究開発投資の伸び率(2015年比、2023年)は世界+99%に対し日本+6%。基礎調査では3割超が国内投資の縮小・見送り・海外移転を懸念

背景として、世界の医薬品市場に占める日本のシェアが2000年の16.2%から2025年に3.7%へ低下した一方、世界市場は5倍超に拡大した点を挙げ、市場の魅力低下が国内で事業を行う経済合理性の低下を招き、事業化・量産・再投資の停滞につながる悪循環があるとした。

施策面では、AMED等を通じた研究開発支援、創薬ベンチャーエコシステム強化事業(3,274億円)、ワクチン基金による製造拠点整備や再生・細胞医療・遺伝子治療の製造設備投資支援などを挙げつつ、国内への再投資を直接後押しする施策は限定的で、令和9年度予算で事項要求し具体化を検討中であるとしている。悪循環を断ち切るには、市場環境の改善とあわせ国内再投資を直接後押しすることが鍵、というのが資料1の立て方である。

藤本構成員:人材の供給力で誘致する

藤本利夫構成員(iPark Institute)は、アイルランドの研修・研究機関NIBRTを例に、人材の供給力を誘致策として整備する考え方を示した。NIBRTは商用工場を再現した施設として2011年に開設され、整備費は5,700万ユーロ(約91〜100億円)で主に投資誘致機関IDAを通じて政府が拠出、2025年の研修者数は約4,900人/年、企業別研修や規制当局者研修も担う。同国の過去10年の対内直接投資は150億ユーロ超、雇用5万人超で、上位10社中9社が立地しているとする。

日本企業の例として、武田薬品工業のアイルランド・ダンボイン工場(6億ドル超)はNIBRTと提携して全従業員を訓練し、品質管理担当20名を約12か月常駐させ、2019年に同国の投資表彰(従業員スキル向上部門)を受けたこと、富士フイルムの米ノースカロライナ州工場(32億ドル)では州立大学の研修センターBTECが従業員200人超を訓練し、修了者の98%が6か月以内に業界へ就職していることを挙げた。税制で競いにくい日本にとって差別化の余地が大きいのは人材の供給力だという主張である。

比較では、韓国のK-NIBRTが2024年に本施設を開所し、整備費約619億ウォン(計画値)、2025年の研修3,633人、WHOの研修ハブに指名されているのに対し、日本は専用の中核拠点がなく、例としてAAV製造研修の実習定員は各10名にとどまる。製造人材の需要は今後5年で約2,500人増えるとした。国内の先例としては、ニコン・セル・イノベーション(NCLi)が2015年にLonzaと提携して品質・運用システムと研修を導入し、2019年にBMSのCAR-T製品の初期工程を受託、2027年に全工程の商用製造を開始へ、BMSは5年で1億ドルを投資、2030年にはアジアのハブとして従業員を約300名から600名規模にする見通しを挙げ、人と品質の蓄積が誘致に先行する構図を示した。

牧構成員:日本が回収する「果実」を明確に

牧兼充構成員(早稲田大学ビジネススクール)は、イノベーション、スタートアップ、エコシステムの観点からの意見書を提出した。第一に、創薬エコシステムの中で日本が回収する果実(知財収入、投資リターン、国内での治験・製造、輸出、専門人材の蓄積)と、その価値が再投資に回る経路を明確にすべきだとし、「製造・国内投資」は研究開発成果を国内の製造、雇用、輸出、税収につなげる重要な経路だと位置づけた。

第二に、薬価の問題に対応する財源を社会保障の外にも確保すべきだと主張。創薬基盤の便益は新産業の成長、国内投資、雇用、輸出、さらに安全保障上の価値にも及び、これらを社会保障費の中だけで負担するのは限界があるとして、産業政策と危機管理の目的に沿った別財源の確保を求めた。第三に、成長戦略予算で世界市場に向けた創薬投資を支えるべきだとし、研究支援、投資回収の予見可能性、国内の治験・製造基盤、M&Aを含む出口を一体として整える必要があるとした。

吉川構成員:ベンチャーパートナーという人材

吉川真由構成員(ARCH Venture Partners ベンチャーパートナー)は、グローバルな経験を日本の人材育成につなぐ論点として、科学・人材・資本をつないで会社をつくる「ベンチャーパートナー(VP)」に着目した参考資料を提出した。VPはVCと連携し、経験と協働を通じて築いた信頼を生かして投資先を支える人材で、創業時には科学を事業計画にし知財や経営体制を整え、開発・成長期には開発責任者やCEOを迎えて投資家と対話し資金を集め、重要な転機では開発計画の見直しや提携、経営体制の変更といった判断を共に担うと整理する。

創薬には最後まで科学的な不確実性が残るため、経験者と判断体制、次の価値検証までの資金計画を整えることで挑戦を支えやすくなるとし、日本側の人材が同じ案件で判断と交渉を担い次の企業を率いる形を提起した。国籍より実務経験と経験の共有を重視する立場である。

宮柱構成員:抗体医薬・ADCの国内一貫製造とCDMOの実績形成

宮柱明日香構成員は、議事①「製造・国内投資」へのコメントを3点に整理した。

1点目は、勝てる・守るべき領域への重点投資。抗体医薬・ADCの原薬製造から無菌充填までの国内一貫製造設備や、細胞株・GMPセルバンク構築等の開発支援機能が不足しているとして、バイオ原薬製造、高活性コンジュゲート製造、ペイロード・リンカー製造、無菌充填の一体的整備を要望。細胞株・GMPセルバンク構築、非臨床CRO、CMC・分析技術といった共通基盤への支援、CGT等の将来領域への支援、デュアルユース事業等で整備した製造基盤を感染症有事に即応できるよう平時から維持・活用するための長期的で柔軟な支援を求めた。

2点目は、海外との政策競争を踏まえた国内投資・再投資の促進。国内需要の不足や海外CDMOの実績・経験・コスト面の優位性により、国内CDMOは製造実績の不足が初回委託の障壁となっていると指摘。アカデミア・スタートアップ等による製造委託費用への補助など実績不足の懸念を上回る経済的優遇を設け、国の支援で得た製造実績を公開して製薬企業の利用につなげること、老朽設備の更新や国内製造案件への補助金・税制優遇、建設費・設備費の上昇に対応した柔軟な投資支援を要望した。

3点目は、社会保障の視点にとどまらない医薬品産業政策。医薬品政策が社会保障・医療費のコストとして議論され、経済成長への投資としての価値が踏まえられていないとして、産業振興としての中長期的・継続的な公的資金の投入・拡充、革新的医薬品の多様な価値(健康寿命の延伸、生産性向上等)を踏まえた給付・負担の在り方の検討、イノベーションの適切な評価と市場環境の予見可能性の確保、米国のMFN価格政策への対応を挙げた。

プリシーノ構成員:製造投資の鍵は魅力的な国内市場

ジョンポール・プリシーノ構成員(EFPIA Japan会長)は、製造投資の意思決定には魅力的な国内市場が鍵であり、政策環境やグローバル製造ネットワークにおける日本の位置づけも重要だとした。要素として、市場の魅力度(市場規模・成長性、イノベーションへの適切な評価、政策・市場の予見可能性)、コスト・事業競争力(投資・操業コスト、人件費・エネルギー・物流コスト、専門人材の確保)、グローバル製造ネットワーク、規制環境(グローバル基準との整合、承認期間の短縮)、製造投資へのインセンティブ(税制優遇、土地・施設・先端技術設備への補助金、先端製造技術への支援)を挙げた。

EFPIA Japanの「創薬関連投資に関する調査」(2026年7月)では、将来の投資懸念として薬価政策が最大の障壁とされ、期待する制度変更が実現した場合の投資拡大の意向は、投資縮小・拡大の意向を示した16社のうち(n=14、複数選択)臨床試験・治験が46%(11社)、製造が29%(7社)、技術導入が25%(6社)だった。

加盟会社の投資事例としては、ベーリンガーインゲルハイムの山形県東根市への医薬品供給リージョナルハブ設置(約484億円)、中外製薬の神奈川県横浜市での国内創薬研究拠点の集約(約1,718億円)、ノバルティスの兵庫県丹波篠山市における放射性リガンド療法の生産力強化(約150億円)、ノボ ノルディスクの福島県郡山市の生産拠点工場への投資(総投資金額60億円)、アストラゼネカのオープンイノベーション「i2.JP」を挙げた。そのうえで、主要先進諸国水準の革新的医薬品の初期薬価設定、特許期間中の薬価維持(外国平均価格調整の見直し、市場拡大再算定の凍結)、主要市場に劣後しない特許品市場の年平均成長率9.6%の実現が、投資の誘致と創薬力の強化、経済成長の実現に不可欠だとした。

構図:市場環境と製造基盤・人材が同じ土俵に

資料を通して見ると、議論の軸は「研究開発の支援」にとどまらない。経済産業省は国内再投資を直接後押しする施策が手薄だったと認め、令和9年度予算での具体化を検討中とする。構成員側は、人材の供給力(藤本)、果実の回収と財源(牧)、会社づくりを担う経験者(吉川)、国内CDMOの実績形成と重点領域(宮柱)、薬価を含む市場の予見可能性(プリシーノ)と、それぞれ異なる入口から国内投資の条件を論じている。議事には「これまでの議論の整理」も置かれており、第3回は論点を束ね直す段階にあたる。