何が決まったか

Meiji Seika ファルマ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役:永里敏秋)は2026年10月30日、原口一博氏を被告として提起していた名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟について、2026年10月29日に東京地方裁判所で勝訴判決を得たと発表した。

事実関係

同社の発表によれば、この訴訟が提起されたのは2024年12月25日。提起先は東京地方裁判所で、被告は原口一博氏、請求の内容は名誉毀損に基づく損害賠償である。

訴訟の対象となったのは、原口氏が2024年6月頃より、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上において、虚偽の内容を含む投稿や動画配信等を繰り返し行い、同社の名誉を毀損したとされる行為だ。提訴からおよそ1年10か月後の2026年10月29日、東京地方裁判所は、原口氏による「生物兵器」「人体実験」「七三一部隊」などの発言の一部について、名誉毀損に該当すると判断した。

発表文では、判決が認定したのが発言の「一部」である点が明記されている。損害賠償の額や、被告側の対応については、今回の発表では触れられていない。

会社側の説明

同社は発表のなかで、「事実誤認に基づく発信や、科学的知見に基づかない発信、正当な批判・論評の域を超えた発信などによって人々の不安を煽る行為は、医療にかかわる企業として看過できない事態と考えております」と述べている。そのうえで、国民および医療従事者が安心して感染症対策やワクチン接種について考えられるよう、今後も取り組みを進めるとしている。

代表取締役会長の小林大吉郎氏は、コメントとして次の2点を挙げた。ひとつは、「当社の主張が認められたことは、SNSなどにおける当社や当社製品に対する様々な言説に対し、一定の司法判断が示されたものであると考えます」という、判決の位置づけについての評価。もうひとつは、「今後もEvidence Based Medicine(EBM)に基づいた感染症対策やワクチン接種に関するサイエンスコミュニケーションを推進し、国民の皆様からの信頼を維持できるよう真摯に努めてまいります」という、今後の方針である。

ここで会長コメントが「一定の」という限定句を使っている点は、読み落とさないほうがよい。判決が認定したのはあくまで特定の発言の一部についての名誉毀損であり、SNS上の言説全般に決着がついたという書き方にはなっていない。

業界にとっての意味

製薬企業がSNS上の個人の発信を相手取って訴訟を提起し、判決まで至った事例として、この件は業界にひとつの参照点を残すことになる。

従来、ワクチンや医薬品をめぐるSNS上の言説に対して、製薬企業が取り得る対応の中心は、正確な情報発信を重ねること、すなわち同社のいう「サイエンスコミュニケーション」であった。今回の発表は、それに加えて、司法の場で名誉毀損を争うという選択肢が現実に機能し得ることを示している。提訴から判決まで約1年10か月を要したという時間の長さもまた、この手段を検討する企業にとっては具体的な情報となる。

一方で、同社自身がコメントで「一定の司法判断」と表現しているとおり、この判決が個別の発言についての判断である以上、SNS上の言説への対応全体を代替するものではない。発表文が、判決の報告と並べて「今後もEBMに基づいた……サイエンスコミュニケーションを推進」する方針を改めて掲げているのは、その認識の表れと読める。訴訟は、情報発信の取り組みに取って代わるものではなく、並行する手段として位置づけられている。

発表文で同社が名誉毀損の判断対象として挙げたのは、「生物兵器」「人体実験」「七三一部隊」といった語である。同社が問題としたのが、製品の有効性や安全性に関する科学的な論争ではなく、それとは性質の異なる表現であったことが、発表文からは読み取れる。同社が「正当な批判・論評の域を超えた発信」という線引きを示しているのも、この点と対応している。企業として何を争い、何を争わないのかの境界をどこに置くかは、同様の局面に直面する他社にとっても検討材料となるだろう。