調査の概要と主な数字

メルクバイオファーマ株式会社(本社:東京、代表取締役社長:ジェレミー・グロサス)は2026年11月6日、「仕事と不妊治療の両立に関する実態調査」の結果を公表した。調査対象は全国の20〜49歳の男女で、調査方法はインターネットリサーチ。調査時期は2026年9月18日(金)〜9月27日(日)、有効回答数は1,035人(女性880人、男性155人)である。女性については、現在両立群・両立達成群・キャリア移行群・不妊治療断念群・未来の治療予定群の5群に各176人を割り付け、両立を阻む壁や職場の風土を比較・分析した。

最も象徴的な数字は、両立できている・できた理由の内訳だ。『現在両立群』と『両立達成群』では「職場の理解」が38.1%で、「職場の制度が整っている」の26.7%を上回った。

また、退職や転職、雇用形態の変更などを経験した『キャリア移行群』の女性のうち、「勤務先に制度がある」と答えた104人を見ると、「利用した制度はない」と回答した7.7%を除く92.3%(96人)が何らかの社内制度を利用していた。制度を使ったうえで、なおキャリアの移行に至っているという構図である。

仕事を優先して治療を断念した『治療断念群』の女性では、両立の壁として最も多く挙がったのが「時間制約に対する職場の肩身の狭さ・評価低下への恐怖」で43.5%。『現在両立群』の27.7%を大きく上回った。同群は現在の勤務先について、公平な評価への信頼や心理的安全性といった点を低く評価する傾向も見られたという。

両立を継続するために必要な支援としては、「時間単位で取得できる有給休暇・不妊治療専用休暇」が42.6%、「業務の標準化・マニュアル化」が42.2%とほぼ同率で並んだ。職場の風土としては、「治療による急な通院や体調不良時でも、嫌な顔をされずにサポートし合える職場の雰囲気づくり」を求める声が最多だった。

プロジェクトの経緯

今回の調査は、同社が2026年6月に始動した「仕事と不妊治療の両立プロジェクト」の一環として実施された。同プロジェクトは、不妊治療と仕事の両立を「個人の問題」から「社会で支えるべき課題」へと転換することを目指すもので、2017年から展開する「YELLOW SPHERE PROJECT」の取り組みを発展させた位置づけだ。当事者の声や先進企業の事例、有識者の知見をもとに、企業で実践できる支援のあり方を提示し、情報発信や提言活動を行うとしている。

同社は、2026年3月16日に発足した「社会で支える不妊治療共創会議」にもコアメンバーとして参画しており、両者の活動を連動させる方針を示している。望まない離職、いわゆる「妊活離職」は当事者のキャリアや人生設計に影響するだけでなく、企業にとっても人材確保や生産性に関わる課題だと同社は整理している。

メルクバイオファーマは、ドイツ・ダルムシュタットに本社を置くメルク(Merck KGaA)の日本法人として2007年10月1日に発足した、がんと不妊治療を重点領域とするバイオ医薬品企業である。

「制度の有無」から「運用の質」へ

調査結果から同社が導いた企業への提言は、制度拡充と併行して、安心して使える運用・マネジメント体制を整えるべきだというものだ。具体的には、管理職や全社員への研修を通した職場の理解促進、時間的な制約がネガティブに働かない評価設計、急な通院をチームでカバーできる体制の構築、治療の開示範囲を本人が選択できる環境づくりを挙げている。

ここに、企業の両立支援を測る物差しの変化が表れている。これまで人事施策の達成度は「不妊治療休暇の有無」といった制度の整備率で語られることが多かった。しかし、制度がある職場で9割以上が制度を利用しながらキャリア移行に至っているという数字は、制度の有無だけでは離職やキャリアダウンを説明できないことを示す。評価されるべきは制度の数ではなく、その制度が肩身の狭さを感じずに使えるかどうかという運用の質になる。

専門家としてコメントを寄せたスリール株式会社代表取締役の堀江敦子氏は、鍵を握るのは管理職だと指摘する。同氏は、治療経験者の37.3%が職場で一切開示しておらず、その最多の理由が「プライベートなことで知られたくない」(57.5%)であること、急な欠勤へのバックアップ体制を整えてもらえた割合が現在両立群41.9%に対し治療断念群21.3%にとどまることを挙げ、事情を聞き出すのではなく、多様な状況を前提に業務を設計し評価できるチームの仕組みが必要だとしている。

開示しない人が約4割いるという前提に立てば、支援は「申し出た人への個別対応」では届かない。誰が治療中かを把握しなくても機能する業務の標準化や時間単位の休暇といった仕組みが、両立支援の実効性を左右することになる。