生成系AIのClaudeを開発する米アンソロピックは2026年10月27日、筋ジストロフィーの治療薬を開発する米新興企業ミスリル・メディシン(Mithril Medicine)を買収したと発表した。ミスリルは創業者1人だけの会社で、Claudeを使って11の外部研究機関との契約、物流、実験を取りまとめ、構想からマウスでの有望な結果までを18か月足らずで進めた会社となる。創業者はアンソロピックに入社して研究を続け、アンソロピックは、候補が有望であり続ければ早ければ2028年後半に人での臨床試験を始められるとしている。

https://www.anthropic.com/research/early-progress-drug-development

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2802O0Y6A021C2000000/

  1. 発表の内容
    アンソロピックはClaudeで医薬品開発を加速する初期進捗 (Early progress on accelerating drug development with Claude)と題した報告を公開しており、内容は大きく二つ含まれている。一つは、ミスリルを買収し、自社での創薬を本格的に始めたこと。同社は、小児の希少な筋ジストロフィーなどを対象にした創薬プログラムを始めており、科学的な作業と運営の作業の多くをClaudeが担うとしている。買収金額などの条件は公表されていない。

もう一つは、Claudeを使う製薬・バイオ企業6社との取り組みの結果である。

  1. ミスリル・メディシンと創業者

ミスリルの創業者はCody Tranbarger氏で、同氏は米アマースト大学で生物学と経済学を学び、ゴールドマン・サックスの投資銀行部門でバイオ企業のM&Aや資金調達を担当していた。その後、投資会社Casdin Capitalで細胞・遺伝子治療などの遺伝子医療分野の投資を率い、バイオ企業の設立を手がけるベンチャーキャピタル、アトラス・ベンチャーで客員起業家を務め、遺伝子編集の会社Revision Bioの共同創業者でもある。つまり、研究者ではなく、投資と金融の出身となる。

アンソロピックによると、ミスリルはTranbarger氏1人だけの会社で、2種類の希少な筋ジストロフィーの治療薬を開発していた。Tranbarger氏はClaudeを使って、11の外部研究機関との契約、物流、実験を取りまとめ、会社の運営のほかの多くの面もClaudeに任せていた。その結果、一つの筋ジストロフィーについて、治療薬の候補を構想からマウスでの有望な結果まで18か月足らずで進めたとされる。同氏はアンソロピックに移って研究を続け、新たなプログラムもいくつか始める予定である。

https://www.cureraredisease.org/team-members/cody-tranbarger
https://urallnews.com/pharma-update-anthropic-buys-a-single-person-biotech-startup-backed-by-atlas-venture-key-findings/

  1. 開発品:ラミニンをつなぎ直す二重特異性抗体

ミスリルの開発品は、LAMA2関連先天性筋ジストロフィーを対象とする二重特異性抗体で、ラミニン-411のα4鎖と筋線維の膜にあるβ-ジストログリカンの両方に結合し、両者をつなぎ直す役割を果たす。この疾患では、筋線維を外側から支えるたんぱく質ラミニンα2が、LAMA2遺伝子の異常によって欠けることで起こり、現在の治療は対症療法にとどまり病気の進行を変える治療はないとしている。

図
図1 ミスリルの抗体の仕組み(模式図)
  1. 提携先6社での取り組み

同じ発表で、アンソロピックはClaudeを使う6社との取り組みも公表しており(図2)、CAR-T細胞療法の部品となる遺伝子配列を約70%短く設計したGenerate Biomedicines、食物アレルギーを対象に約1か月で約35,000の抗体を設計したDivergence Labs、約10週間で約1,010の抗体の改変体を作って試したBigHat Biosciencesなどが掲載されている。Envedaとの取り組みでは、製造記録点検の1,061ページの文書をClaudeが点検し、人が見つけた11件の問題をすべて見つけたうえで、さらに7件を見つけ、人の点検時間は89%減ったとされる。

図
図2 アンソロピックが公表した提携先6社での取り組み

ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)も載っており、臨床試験の段階にある初期の新薬について、試験計画の評価と成功確率の見積もりにClaudeを使っており、両社は2027年にこの取り組みを広げる予定となっている

https://www.beckershospitalreview.com/healthcare-information-technology/ai/anthropic-buys-drug-startup-reports-claude-results-with-6-partners/

  1. アンソロピックの生命科学分野での動き

アンソロピックは、この1年ほどでライフサイエンス分野の取り組みを段階的に広げており(図3)、2026年4月には米ジェネンテック出身の研究者が設立したAI創薬の新興企業Coefficient Bioを買収している。

2026年6月には、大手製薬企業が採算の面で後回しにしがちな希少疾患などを対象に、自社で創薬に取り組むと表明しており、9月にはロイターは同社がサンフランシスコ周辺に実験施設を設けたと報じている。同じ報道によると、アンソロピックはノバルティスのバサント・ナラシンハンCEOを取締役に迎えている。

図
図3 アンソロピックの生命科学・創薬分野の主な動き

よって、自社での創薬への参加は6月の時点で表明されていたが、今回の発表は開発品を持つ会社を買収し治験開始の目標時期を示した点で、それまでより一歩進んだ内容となっている。

https://endpoints.news/?p=542583
https://letsdatascience.com/news/anthropic-acquires-coefficient-bio-in-400m-deal-485a82ff
https://www.digitaltoday.co.kr/jp/view/76691/anthropic-launches-in-house-ai-drug-discovery-program-to-target-neglected-diseases/
https://unite.ai/novo-nordisk-taps-anthropics-claude-to-speed-drug-discovery