英アストラゼネカ(AZ)が、希少肥満症の治療薬を持つ米Rhythm Pharmaceuticalsに、約100億ドル(約1兆5,900億円)の買収を提案したと米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が11月4日に報じた。提示額は1株124ドル(約19,716円)で、開発のマイルストンに応じた追加の支払いを含めると最大134ドル(約21,306円)になるとロイターは伝えている。AZはコメントを控え、Rhythm Pharmaceuticalsは問い合わせに答えていない。
提案はまだ報道の段階で、両社とも事実関係を認めていない。
https://whbl.com/2026/11/04/astrazeneca-made-10-billion-bid-for-obesity-drugmaker-rhythm-wsj-reports/
https://investinglive.com/stocks/astrazeneca-makes-10-billion-offer-for-obesity-drugmaker-rhythm-wsj-reports/
1 報道の内容
WSJによると、AZは以前からRhythm Pharmaceuticalsに関心を示していており、10月に1株124ドル(約19,716円)での買収を提案したとされる。開発のマイルストンに応じた支払いを含めると最大1株134ドル(約21,306円)、総額は約100億ドル(約1兆5,900億円)であり、買収はAZの希少疾患部門アレクシオンを通じて進める形と報道されている。
それ以上の状況および条件については明らかになっていない。
2 Rhythm Pharmaceuticalsとイムシブリー
Rhythm Pharmaceuticalsは米ボストンに本社を置く企業で、食欲を調節する脳内のMC4R(メラノコルチン4受容体)経路に作用する薬を開発している。唯一の販売品はMC4R作動薬のイムシブリー(一般名セトメラノチド)で、遺伝子の異常による肥満症(POMC、PCSK1、LEPRの欠損症)とバルデー・ビードル症候群(BBS)の肥満の治療に使われてきた。
2026年3月19日には、米食品医薬品局(FDA)から獲得性視床下部性肥満(HO: 脳腫瘍やその治療などで視床下部が傷つくことによって起こる肥満症)への適応拡大の承認を受けている。Rhythm Pharmaceuticalsによると、9月30日までに500人を超える医師から700件を超える処方開始の申込があった。HOの適応では、欧州委員会の承認も受け、日本では8月24日に厚生労働省の承認を受けて10月13日に発売したばかり。
7〜9月の売上は9,210万ドル(約146億円)で、前の四半期から29%、前年同期から80%増加しており、米国が6,750万ドル(約107億円)で全体の73%を占めている。

パイプライン品では、経口のMC4R作動薬bivamelagonを、年内にHOで第3相試験に進める予定となっている。プラダー・ウィリー症候群(PWS)でも承認申請に向けた開発に進む予定で、2027年にFDAと合意して試験を始める予定となっている。bivamelagonは韓国のLGケムから導入した薬で、Rhythm Pharmaceuticalsは11月2日、LGケムに4年間で3.5億ドル(約556億円)を支払う予定。
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001649904/000162828026069106/q32026earningspr.htm
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001649904/000162828026052170/q22026earningspr_draft.htm
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001649904/000162828026030136/q12026earningspr_draft.htm
3 事業の重なり
ロイターによると、買収はAZの希少疾患部門アレクシオンを通じて進める形になる。AZは2021年にアレクシオンを390億ドル(約6兆2,010億円)で買収しており、AZの7〜9月の希少疾患領域の売上は26.33億ドル(約4,190億円)で為替の影響を除いて10%増加している。アレクシオンの製品は補体阻害薬のソリリスとユルトミリスが中心で、低ホスファターゼ症のストレンジックや開発品efzimfotase alfaなど代謝系の希少疾患の製品と開発品を有している(図2)。

肥満症ではAZは一般の肥満症と2型糖尿病を対象に経口の低分子GLP-1受容体作動薬elecoglipronの第3相試験を進めている。(イムシブリーは、HOや遺伝性の肥満症など、原因が特定された希少な肥満症を対象とするため対象は異なる。)
ロイターによると、米投資銀行ジェフリーズのアナリストは、AZが既存の事業の基盤に合う希少疾患の資産に注目するのは「完全に理にかなっている」と述べている。
4 財務面の検証
Rhythm Pharmaceuticalsの四半期報告書によると、11月2日時点の発行済み普通株式は6,933万株であ利、9月末時点で、ストックオプション・譲渡制限付き株式・優先株の転換などで普通株になりうる株式が1,138万株ある。両方を合わせた約8,071万株に1株124ドル(約19,716円)を掛けると約100億ドル(約1兆5,900億円)になり、報道の総額と一致する(オプションの行使価格は考慮していない)。発行済み株式だけで計算すると、124ドル(約19,716円)で約86億ドル(約1兆3,670億円)、134ドル(約21,306円)で約93億ドル(約1兆4,790億円)となる。
プレミアム(買収提案の報道前の株価への上乗せ)は、報道の前日にあたる11月3日の終値86.33ドル(約13,726円)を基準にすると、124ドル(約19,716円)で約44%、134ドル(約21,306円)で約55%になる(図3)。ただし、11月4日は報道の前から株価が上がっており、取引終了の直前に報じられた後、終値は110.68ドル(約17,598円)だった。報道の直前の水準(105.17ドル(約16,722円))と比べると124ドル(約19,716円)で約18%、終値と比べると約12%である。

実際のRhythm Pharmaceuticalsの売上は7〜9月で9,210万ドル(約146億円)で、これを単純に4倍して年単位にすると約3.7億ドル(約588億円)となるため、約100億ドル(約1兆5,900億円)の提示額はその約27倍にあたる(業績は急速に伸びているので、これはあくまで単純計算)。Rhythm Pharmaceuticalsはまだ赤字であり、7〜9月の純損失は4,240万ドル(約67億円)、1〜9月の営業損失は1.40億ドル(約223億円)となっている。
AZ側の時価総額は約2,920億ドル(約46兆4,280億円)で、約100億ドル(約1兆5,900億円)はその約3.4%にあたる。2021年のアレクシオンの買収額390億ドル(約6兆2,010億円)と比べると、今回の提案は約4分の1の規模である。
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001649904/000162828026069106/q32026earningspr.htm
5 AZとBMSの合併報道との比較
AZをめぐっては、2026年8月2日に英フィナンシャル・タイムズ(FT)が、AZとBMSが合併を協議していると報じた。統合すれば規模は約4,000億ドル(約63兆6,000億円)になるため注目されたが、8月5日には、ロイターが関係者の話として「取引は最初からなく、両社の間に協議はない」と報じており立ち消えている。
当時の報道では、BMSが抗凝固薬エリキュースとがん免疫治療薬オプジーボの特許切れを控え、この2品が2025年の売上482億ドル(約7兆6,640億円)の約半分を占めている上に、オプジーボとAZのイミフィンジが非小細胞肺がんで競合しており、独占禁止法の審査が複雑になりうると指摘されていた。今回のRhythm Pharmaceuticalsは希少疾患や肥満症領域でシナジーを生み出すものであり、規模、事業シナジーなどの観点で大きく異なる(図4)。

https://www.cityam.com/astrazeneca-explores-400bn-megadeal-with-us-rival/
https://www.biospace.com/deals/no-deal-between-astrazeneca-and-bms-senior-source-insists-reuters
https://www.fiercepharma.com/pharma/no-discussions-ongoing-astrazeneca-bristol-myers-merger-reutershttps://whbl.com/2026/11/04/astrazeneca-made-10-billion-bid-for-obesity-drugmaker-rhythm-wsj-reports/