FiercePharmaの6/23の記事“Big obesity bets and China's rise fuel potential $2T in 2032 drug sales: Evaluate”では調査会社EvaluateのWorld Preview 2026を基に2032年に世界の医薬品市場規模について解説している。
2032年にはその規模は2兆ドルを超えるとされ、牽引するのは肥満症治療薬と免疫疾患薬となっている。特徴としては、市場は一握りの超大型品への集中度が高くなっており、かつ5,000億ドル規模のパテントクリフ、中国発イノベーションへの依存急拡大などが進んでいくとされる。
1. 大型製品へのシェア集中
売上トップ20製品だけで業界収益の約2割(約4,000億ドル)を占め、年間売上200億ドルを超える製品が5剤出現する予想されている。“big drugs era continues,”とEvaluateは表現している。

2. チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)が市場最大売上の医薬品に
Eli Lillyのチルゼパチド(糖尿病でMounjaro、肥満症でZepbound)は2032年の年間売上を700億ドル超(11兆円強)と見込まれている。これはHumira、Keytruda、さらにはCOVID-19ワクチンの最盛期をも上回り、単一医薬品として史上最大になる。
Lillyはそれに加えて経口GLP-1のFoundayoを有しており、合計で2032年のトップ10製品売上のほぼ半分をLilly一社が占めると予想されている。次世代のretatrutide(トリプルGアゴニスト)とeloralintide(アミリン受容体アゴニスト)が、さらに100億ドルを上乗せする見込み。対するNovo Nordiskのセマグルチド(Ozempic/Wegovy)は、効果でLillyの二重受容体作動薬に劣後し、2032年のトップ10から僅かに外れると予測されているものの、CagriSema(セマグルチド+アミリン作動薬カグリンチド)との合算で250億ドル超は確保すると予想されている。
3. 免疫・がん・希少疾患──Pipeline-in-a-Product
肥満の次に巨大な市場は免疫疾患となる。一つの薬で複数の疾患を治療できる生物学的製剤が多く、2032年に向けて代謝・内分泌薬全体の成長率を上回ると予想されている。象徴的なのはAbbVieのIL-23阻害薬Skyrizi(2032年売上330億ドル超・全体2位)と、JAK阻害薬Rinvoq(170億ドル弱・全体6位)となる。一つの製品で適応症を次々に広げる「Pipeline-in-a-Product」戦略の典型とされる。

オンコロジーでは、第一三共とAstraZenecaのEnhertuが、がん治療薬として最上位(全体7位)にランクインし、希少疾患では、Johnson & JohnsonのDarzalex(多発性骨髄腫)やargenxのVyvgart(重症筋無力症)が、大きくなっている。
4. 次世代R&DのNPVと中国の躍進
開発中のパイプラインのNPV(=正味現在価値)を見ると、トップで評価されているのはSummit TherapeuticsとAkesoの二重特異性抗体ivonescimab(PD-1×VEGF)で、NPVは250億ドル超とされる。すでに中国で承認され、FDAは11月中旬に非小細胞肺がんでの可否を判断する見込み。Lillyのretatrutide(肥満)はピーク売上230億ドルでこれに続き、Amgenの抗体・ペプチド複合体MariTide(NPV277億ドル)、免疫のimeroprubart(Immunovant/HanAll、169億ドル)、povetacicept(Vertex/Zai Lab/小野、158億ドル)が名を連ねる。

加えて大きな構造変化が中国発イノベーションへの依存急拡大となる。。西側製薬企業のディール総額に占める中国発アセットの割合は、5年前の約5%から、2025年に50%超、2026年には3分の2(66%超)に達する見込みとされている。

しかもディールの形式は単発の「トランザクション」から長期的な「協働型(collaborative)」のパートナーシップへ変わりつつあるとのことで、中国はいまやイノベーションの産出地をリードする立場となっている。
5. 市場の引き下げ要因
一方で市場規模を押し下げる要因としては、まずパテントクリフがある。2024〜2032年に後発品に侵食される売上は5,000億ドル超に達するとされる。次に米国の薬価引き下げ圧力(MFN)と政策の混乱、さらに有望領域(肥満・免疫)での競争激化と、米中分断という地政学リスクが挙げられている。

結果、リスクの低減された複数適応アセットを求める動きが強まり、2026年のディール総額は過去最高の約2,000億ドルに達する可能性があるとされる。