ここ最近、GLP-1治療薬の適応外使用はますます増加しており、SNS界隈でも大きな騒ぎになっている。特に有名な起業家やインフルエンサーが単なる「痩せ薬」としてプロモーション的に打ち出していることが引き金となり、医師・専門家からの批判が相次いでいる。
東京都薬務課は2025年度だけでSNS上の不正取引等に対し497件の警告を発出し、そのうち約75%がマンジャロなど糖尿病治療薬関連だったとされる。

ただ、SNSを見ているとこれ以外のケースも含めて、法の問題なのか制度の問題なのか、あるいは倫理的な話なのかなどがごちゃ混ぜなことも多いため、整理しておきたい。
まずGLP-1薬の処方は、(1)適応の有無、(2)最適使用ガイドラインの該当施設かどうか、という二つの軸で見ると四つに分かれる。

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本来の姿は左上の(A)、すなわち肥満症の適応がある患者を、最適使用GLの施設要件・医師要件を満たす施設が保険診療で診るケースだ。問題化しているのは、(B)=適応はあるが施設要件を満たさないため自由診療で処方するケースと、(D)=そもそも適応がない人に美容目的で処方するケースの2つ。それぞれ性格が違うので、分けて見ていく。なお(C)=適応外で要件施設、というセルは実態としてほぼ存在しないと解釈する。
また(B)・(D)に共通する前提として、どちらも自由診療なので患者の全額自己負担となること、そして自由診療での処方の場合は副作用救済制度の対象外となることがある。患者はリスクとベネフィットのバランスをまず理解しておく必要がある。

まず(B)=肥満症患者を、最適使用GL非該当施設で診る場合。
ゼップバウンドは肥満症を適応とする一方で最適使用GLが定められており、施設要件や医師要件として標榜科や専門医、栄養士の在籍などを満たさない施設は保険診療では処方できない。

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001440799.pdf

ここに関してノボノルディスクは「現在の最適使用推進ガイドラインの範囲内で保険診療できる医療機関は約1,200施設、患者の25%以下しか治療されない」と指摘。「適応内で医師と患者が自由診療を意思決定するならば、我々として、あえてそれを止めるべきではない」と述べている。
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=79943
一方、これに対し肥満学会は苦言を呈している。
「肥満学会 ノボの最適使用GL軽視に苦言 小川常務 ウゴービ自費診療の拡大にクギ、適応の有無は『本質ではない』」
https://risfax.co.jp/risfax/193755

続いて(D)=肥満症でない人に、美容目的で処方する場合。
SNS炎上の中心であり、美容・痩身目的の投稿が飛び交っている。その対象薬は圧倒的にマンジャロで、ゼップバウンドと同成分ながら、日本では2型糖尿病のみを効能・効果として承認されている。したがって2型糖尿病を有さない人への処方は、肥満症の有無にかかわらずすべて適応外となる。
特にAGAなどのようにオンライン診療で手軽に入手できるサービスが乱立している。実際、上場企業のエキサイトホールディングスは東京都内の提携クリニックを通じて全国にオンライン診療と薬を配送するONE MEDICAL事業を展開しているが、IR説明資料で「マンジャロはニーズが供給を上回る状況にある」「仕入れルートの確実な確保が極めて重要」と明言している。
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS92613/5cb1d9f6/ab6a/4d5b/ba59/b544b7edf47d/140120260515537306.pdf
https://www.excite-holdings.co.jp/ir/news/0921_tokyo_invest/
この場合に問題になっているのは広告規制のことが多い。医療法と厚労省の「医療広告ガイドライン」、薬機法第66条(虚偽・誇大広告の禁止)、そして2023年10月施行の景品表示法ステマ規制などがある。患者本人が自分の体験を自発的に発信する分には広告に当たらないが、医療機関が体験談の投稿を依頼し、対価を渡している場合は景表法・医療広告GLの両方に違反する可能性がある。
規制対象は「全ての人」となっており、医療法では医師や医療機関だけでなく、「何人も」、虚偽の広告をしてはならないと定めている。SNS上で「個人の感想」を装って商品やサービスを紹介する場合でも、その背後に対価関係があれば、発信者個人もまた法令違反の主体になりうる。
ちなみにSNSでは個人によるマンジャロの転売を試みているアカウントもあり、これは薬機法第24条への違反となる。

まとめると、(B)は制度設計上の解釈論争であり、学会と製薬会社の間でもスタンスが異なる。(D)は薬の適応・広告規制・オンライン診療事業モデルが絡み合っており、今後も議論が絶えないエリアとなることが予想される。