GLP-1製剤の不適切利用が問題視されるようになり久しい。
PMDAは2023年6月、2024年10月、2025年4月と繰り返し注意喚起を発出し、製薬4社(ノボ ノルディスク、アストラゼネカ、サノフィ、日本イーライリリー)も連名で適正使用を呼びかけている。
直近では日本イーライリリーのシモーネ・トムセン代表取締役社長はマンジャロが伸び続ける中でも“不適切な処方は許容しない”と明言している。

これだけ社会的に問題視され、PMDAや製薬企業が適切な使用を呼びかける中でなぜ不適切処方が止まらないのかを述べる。(私見が入る部分もあるため、異論がある方はご意見ください)

その要因は一言で言えば“自由診療を規制する経済的インセンティブは誰にもなく、規制するための法的枠組みもない”ということに尽きると思われる。

まず経済的インセンティブについて。

前回の投稿でも述べたが、既存の薬価制度において自由診療での発売量は薬価再算定の判定から除外される。マンジャロは「保険診療分のみで1,000億円超に達した」として▲25%の引下げを受けたが、逆に言えば自由診療売上をいくら伸ばしても、薬価リスクにはならないということでもある。
さらに直近ではアメリカのMFN(最恵国待遇)に関して、GLP-1製剤も価格引下げ圧力の対象となっている。そのためいかにしてアメリカの薬価に影響を与えない(日本の薬価を下げない)で売上を伸ばすかという意味では、自由診療で伸ばすことに合理性がある。
さらに自由診療のクリニックにとっても稼ぎ頭となっている。価格設定が自由な自由診療においては、薬価差益を得ることが可能であるため、自由診療でのGLP-1製剤処方はクリニック側としても経済合理性が高い。

ちなみに、一点明確にしておきたいが、自由診療=不適切診療ではない。
ノボ ノルディスク ファーマ・小谷社長は、3月19日の年次記者会見で次のように述べている。
“適応内で医師と患者が自由診療を意思決定するならば、我々として、あえてそれを止めるべきではない。適応内の自費診療を保険診療の補完的な選択肢に位置づける。弊社は不適切な美容目的の自由診療は全くサポートしない。我々がサポートしているのはアクセスの最大化ということ。”

つまり、“美容目的の痩せ薬”は不適切な処方であるが、最適使用ガイドラインの枠組みではないが適応内(肥満症治療)の自由診療である場合は肯定する建付けとなっている。

次に法的観点から。
医療政策機構(HGPI)が公開した2025年9月26日の「社会課題としての肥満症対策」では下記のように記載されている。
“痩身目的のGLP-1受容体作動薬の処方は、医師法において医師の権利として定められる「処方権」の下、医師の判断で 処方されている。そのため、痩身目的で肥満症治療薬の処方を行う医師を規制する法律は存在しない。また、痩身目的で処方する医療機関へ薬剤を供給しないように製薬企業が規制することは現状難しく、流通経路のコントロールに現行システム下では限界がある”

つまり、医師法は医師の適応外使用での処方権を保障しており、糖尿病治療薬を痩身目的で処方するという行為自体に、明示的な法的禁止規定はない(医療広告の適応外使用宣伝禁止は法的に規定されている)。

また、医薬品医療機器等法(薬機法)は、医薬品の製造販売・流通を規律する法律だが、現行法では特定の医療機関への供給を製薬企業が拒否する根拠規定はないし、むしろ、製薬会社が特定の医療機関への供給を拒否すれば不当な取引拒絶としてリスクを抱えることになる。
実際、前述のノボ ノルディスク ファーマ小谷社長の記事では次のように述べられている。
“流通を制限することはできないので、いろんな施設に流通があるというのは理解している。われわれとしてコントロールできない。”
以上を踏まえて、GLP-1に関していえば企業・医療機関・社会全てが不適切な処方は許容されないと認識しているものの、規制する経済的インセンティブ・法的規制がないので、今後もおそらく止まることはない。
さらに、将来的に経口GLP-1が出てくることで処方のハードルは更に下がると思われる。
引き続きの注意喚起は出るだろうが、今後もGLP-1の自由診療市場は伸び続けることが予想される。