イーライリリーが第3相試験を進める次世代の肥満症治療薬であるRetatrutide(レタトルチド)を、違法に販売しているとして、同社は2026年8月12日に米国内の6事業者を提訴した。この薬剤は臨床試験中で、どの国でも承認されていないにもかかわらず、リリーが把握しているだけで100カ国以上にまたがる1万4,000件超の販売サイトや広告が存在するとのこと。
https://www.biospace.com/business/lilly-cracks-down-on-black-market-for-obesity-asset-retatrutide-with-six-lawsuits
https://thehill.com/policy/healthcare/6025205-lilly-targets-illegal-weight-loss-drugs/
Retatrutideは同社の次世代GLP-1薬剤として開発されているGIP、GLP-1、グルカゴンのトリプルアゴニストであり、公表された第3相データでは最高用量で平均28.3%、重度肥満の延長試験では最大30.3%体重を減少させており、もはや外科手術と遜色ないとして注目を集めている。
https://note.com/yayota/n/na715a55e57ec
提訴されたのは、Aesthetic Envy、Astra Peptides、Legendary Peptides、Striker Pharmacy、Texas Peptides、Lone Star Peptideという6事業者で、業態としては、調剤薬局、メディカルスパ、オンライン販売業者などとなっている。訴訟は6社だが、リリーは他にも200を超える事業者を米当局に通報し、100カ国以上にまたがる1万4,000件超のウェブサイト、SNS投稿、広告、オンライン販売を報告したと発表している。同社はこれを危険な闇市場(dangerous black market)として、国境を越えた犯罪ネットワークによる公衆衛生上の危機として規制当局や法執行機関に対処を求めている。

リリーの主張によれば、これらの事業者はRetatrutideを研究用途として宣伝しながら、実際には臨床使用のために提供している。そもそも未承認薬がこのように流通するのは日本では考えにくい話だが、米国では研究用途のみ(for research purposes only)または人体摂取不可(not for human consumption)と表示された成分を製造・販売・購入することは原則合法となっている。人間の治療用途として販売されているわけではなく連邦食品医薬品化粧品法(FD&C法)上の医薬品として分類されないため。
医薬品として扱われないということは、GMPの適用を受けず品質検証の義務がないことになる。にも関わらずラベルに「研究用途のみ」「人体摂取不可」と記しただけで、実際には販売業者の多くは用量の指示を添えて販売し、購入者はそれに従って自分に注射している。
https://www.glpwinner.com/insights/grey-market-peptide-quality-what-lab-testing-found
https://www.realclearhealth.com/articles/2026/08/13/who_is_policing_the_retatrutide_bootleggers_1200216.html
https://www.drugtopics.com/view/some-providers-prescribe-unapproved-retatrutide-for-weight-loss-at-alarming-rate

日本で例えるならば、研究試薬にカテゴリされながら実際には人への投与に使われているエクソソームが近いかもしれない。自由診療クリニックなどでの氾濫広告などが問題視され、規制が検討されている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF019N70R00C26A7000000/
流通しているレタトルチドの大部分は、中国などの海外にあるペプチド合成ラボで大量生産され、そこから個人輸入として海外から発送されるか、あるいはアメリカ国内の再販業者大量輸入したものを小分けにし、独自のラベルを貼って販売するルートに分かれるとのこと。この再販業者の手に渡る段階で追跡が非常に難しくなる。
また、販売業者の多くは“第三者機関による純度99%以上”と記した分析証明書(COA)を掲載しているが、COAは検査機関に送られた検体を記述しているにすぎず購入者の手元にあるバイアルがそれと同じものとは限らない。業者は良質な1バッチだけを検査し、その証明書をすべての製品に添付している可能性があるとのこと。
https://www.middlewaynutrition.com/glp-1/retatrutide-grey-market
今回の発表でリリーは規制当局、法機関、政府機関だけでなく、SNSプラットフォームとオンライン販売プラットフォームにもRetatrutideの販売をブロックするよう求めている。加えて、消費者、医師、決済サービス事業者、物流会社などにも協力を要請している。発表の中では“闇市場で売られているものは医薬品ではなく、その安全性は全く確認されておらず、承認も受けておらず、リスクを冒す価値などない(What is being sold on the black market is not a medicine – it is entirely unverified, unapproved and not worth the risk.”と述べられている。