2026年9月16日、中央社会保険医療協議会の費用対効果評価専門部会で、製薬業界からの意見陳述が行われた。日本製薬工業協会、米国研究製薬工業協会、欧州製薬団体連合会の3団体による資料の最終ページでは”本制度による価格調整は当面凍結すべきである”と主張されている。ちょうど1週間前の9月9日に行われた部会は厚生労働科学研究班による検証報告で“専門組織の決定に一定の妥当性はある”と結論づけていたが、それに対する反論の形となっている。
この費用対効果制度では、2026年8月31日時点で63品目が指定され45品目の評価が終了している。
45品目の結果は、薬価引き下げが36品目(80.0%)、薬価維持が9品目(20.0%)、薬価引き上げは1つもなかった。
9月9日の検証報告では、費用対効果評価専門組織の決定は各論点について企業分析と公的分析の内容を踏まえ、より確からしい分析方法の選択によって行われており一定の妥当性はあると結論づけていたが、業界陳述では二つの点で反論している。
第一に、根拠と範囲について。専門組織の決定はより確からしい分析方法の選択によって行われており、一定の妥当性はあるとあるが、その根拠及び該当する範囲が具体的に示されておらず、引き続き個別の事案ごとに確認を要するものと受け止めていると述べている。
第二に、議論の到達点について。各論点の検証を通じて整理された技術的課題について、その解決策が十分に議論されていないこと、およびこれらの技術的課題を踏まえた制度面の課題について議論が及んでおらず、引き続き議論を重ねていく必要があることが述べられている。

次に、2026年8月までに評価結果が報告された47品目のうち、1つ以上の分析対象集団で「健康アウトカム指標での改善なし」と評価されたのは22品目について業界は説明している。
このうち10品目(45.5%)は「十分なエビデンスがなく、比較対照技術に対する健康アウトカム指標での改善を評価できなかった」もの。一方でそれ以外の12品目(54.5%)は「十分なエビデンスがあり、比較対照技術に対する健康アウトカム指標での改善を示せなかった」だとしている。
「評価できなかった」薬剤に関しても、薬事承認時の臨床試験の評価項目が真のアウトカムではなく代替アウトカムだったケース、臨床試験実施時と費用対効果評価時の期間において臨床実態・評価指標に乖離が生じていたケース。薬事承認時に検証の対象とされていなかった集団が費用対効果評価の分析対象集団となったケース、薬価算定時に評価された有用性を直接示すデータが「健康アウトカムの改善」の評価から除外されたケースなどがあるとして、有用性がないのではなく臨床試験のデザインやデータ不足等のため有用性を評価できなかったと主張している。
検証報告での3つの論点についても業界は問題点と提案を述べている。
健康アウトカム指標での改善については、『あり/なし』の2区分では、評価結果の背景が十分に区別されないことを問題とし、段階的評価の導入を提案した。
ICERの不確実性については、価格調整の区分は基本分析のICER(点推定値)で決まり、階段方式が吸収できるのは同一段内の幅に限られると指摘した。具体例として、片頭痛治療薬では公的分析の再分析から追加分析でICERが最大5.5倍変動したことを挙げている。
比較対照技術の選定については、単一の比較対照技術の運用により、市場シェア1〜2%など臨床実態と乖離した比較対照が選定され、結果が価格調整に直結すると指摘している。諸外国(米・英・独・仏・加)は複数の比較対照を実臨床に基づき許容しているため改善の余地があるとし、臨床実態に応じた複数の比較対照技術を選定することで、もっとも安いものではなく、市場シェア・臨床専門家の意見を考慮して必要に応じて関係学会にも照会することを提案している。
また、令和8年度費用対効果評価制度改革の骨子では追加的有用性が示されず費用増加となる品目について価格調整範囲を拡大する方針を示していたが、業界資料はこれにも反対している。
現行の調整範囲は有用性系加算部分に限られる一方で拡大後は、小児や市場性などのインセンティブ系加算と薬価本体にまで調整範囲となるが、業界はこれに対して問題提起をしている。
1. 費用と健康アウトカムに基づく調整が薬価全体に及ぶことで、多面的な価値・政策目的を反映した薬価全体が、費用と健康アウトカムという評価軸のみで調整される
2. 小児や希少疾患用医薬品などの開発促進として付与された加算まで損なうことで、開発促進のための政策的なインセンティブ系加算が毀損される
3. 薬価収載時の算定比較薬を下回る薬価となり得ることで、薬価制度の補完という導入当初の制度趣旨から逸脱し、薬価制度との不整合を生じさせる。
4. そのうえで『健康アウトカム指標での改善』の評価には課題があり、その対応を経ずに価格調整範囲の拡大を論じることはできない

そして資料の最終ページで凍結の要求をしている。
根拠は二つで、「検証を踏まえて」という観点では、技術的課題は明らかだがその対応や制度への反映は今後検討が必要であることを述べ、「政策・国際環境を踏まえて」という観点では政府が特許品市場の成長やイノベーション評価を掲げ、MFN価格政策を含め国際的な医薬品政策環境が大きく変化していることから今は薬価を引き下げる局面ではないと述べている。
Youtube動画も公開されているため、そこで質疑も確認することができる。主な内容は下記の通り。
治験データと再指定(H3区分)の活用について
【質問(委員)】:治験段階からデータ収集を工夫できないか?また、追加エビデンスが出た際の再指定(引き上げ等)ルールを活用できないか?
【回答(製薬協)】:品目指定前に必要なデータを網羅的に集めるのには限界がある。また、現行の再指定は要件が厳しく機能していないため、「データ不足で評価不可」と「改善なし」を明確に区別する枠組みが必要。
分析の不確実性と比較対象の複数選定について
【質問(委員)】:不確実性は現行の感度分析で対応できないか?また、比較対象を複数にすると技術的に困難になるのではないか?
【回答(製薬協)】:感度分析では前提の違い(構造的不確実性)を捉えきれないため、シナリオ分析の反映が必要。比較対象も、シェア1〜2%の極端に安価な1品目のみとの比較を避け、臨床実態に即した複数選定を認めるべき。
「凍結」要望の真意と薬価制度との不整合について
【質問(委員)】:「凍結」を求めるのは制度の全否定か?また、薬価制度との不整合とはどういうことか?
【回答(製薬協)】:制度自体の否定ではなく、課題解決と薬価制度との整合性議論を優先すべきという趣旨。現行のまま調整幅を広げると、算定時の有用性加算が否定され、新薬の薬価が旧薬(比較薬)を下回る構造的矛盾が生じる。
- 主な委員意見
佐々木委員(健保連):第三者検証で一定の妥当性が認められた以上、「凍結」は受け入れられない。国民負担軽減とイノベーション評価のバランスを保ち、費用対効果の活用を進めるべき。
菅原委員(公益側):平均・中央値の価格調整率や市場規模加重ベースでの影響など、客観的データに基づき本制度のバイアスや薬価全体への影響を継続検証すべき。