何が起きたか

Rhythm Pharmaceuticals, Inc.(Nasdaq: RYTM)は、後天性視床下部性肥満治療薬「イムシブリー®」(一般名:セトメラノチド)が薬価収載され、日本国内で販売を開始したと発表した。日本法人のリズムファーマ株式会社が2026年10月14日に公表した資料によるもので、米国本社が2026年10月13日(現地時間)に発表したプレスリリースの邦訳にあたる。

イムシブリー®は、後天性視床下部性肥満を適応症として承認された、日本で初めての治療薬である。同社のインターナショナルリージョンプレジデントYann Mazabraud氏は「今回の発売は、これまで承認された治療薬がなかった日本の後天性視床下部性肥満の患者さんにとって、治療上の重要な前進となります」とコメントし、発売に向けて日本国内の体制整備を進めてきたと説明している。同氏は今回の発売を、希少な神経内分泌疾患の患者に治療薬を世界各地で届ける同社のグローバルな取り組みにおける「重要な節目」と位置づけた。

承認までの経緯と試験データ

発売に先立ち、イムシブリー®は2026年8月、後天性視床下部性肥満治療薬として厚生労働省から製造販売承認を取得している。この承認を裏付けたのは、後天性視床下部性肥満の患者142人を対象としたセトメラノチドの国際共同第III相試験「TRANSCEND」のデータである。

試験の内訳は、主要解析コホート120人に加え、日本人コホート12人、追加登録された海外症例10人。国際共同試験は主要評価項目を達成し、BMI減少率のプラセボ調整後の差は18.8%で、統計学的に有意だったとされる。

また、セトメラノチドは後天性視床下部性肥満の治療薬として、厚生労働省から希少疾病用医薬品の指定を受けている。Rhythm社は、日本国内の後天性視床下部性肥満の患者数を約5,000人から8,000人と推定している。

どのような疾患か

後天性視床下部性肥満は、視床下部の物理的損傷または構造異常によって、急激かつ持続的な体重増加を特徴とする希少疾患である。資料によれば、視床下部の損傷はα-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)産生の低下と、MC4R経路のシグナル伝達障害を引き起こす可能性がある。MC4R経路は空腹感、満腹感、エネルギーのバランスを調節する主要なシグナル伝達経路で、その障害は体重に影響する。

発症の契機として多いのは、頭蓋咽頭腫、下垂体腫瘍、頭蓋内胚細胞腫瘍の増大または治療後であり、そのほか外傷性脳損傷、脳卒中、感染または炎症なども損傷原因に挙げられている。MC4R経路の障害により、患者は過食および/またはエネルギー消費量の低下を伴って急激かつ持続的に体重が増える。発症は視床下部損傷後わずか6ヶ月で起こることもあるという。

イムシブリー®は、過食および重度肥満の治療を目的としたMC4R作動薬である。米国では食品医薬品局(FDA)が、後天性視床下部性肥満を有する4歳以上の患者、ならびにバルデー・ビードル症候群(BBS)、遺伝学的に確認されたプロオピオメラノコルチン(POMC)欠損症(PCSK1欠損症を含む)、またはレプチン受容体(LEPR)欠損症に起因する肥満を有する2歳以上の患者における、過剰体重の減少と長期的な体重減少の維持を目的として承認している。欧州委員会(EC)と英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)も、視床下部の損傷または機能障害に起因する後天性視床下部性肥満を有する4歳以上の患者における肥満治療と空腹感のコントロールなどを目的に、セトメラノチドの使用を承認している。

業界にとっての意味

今回の発売が持つ最大の意味は、国内に承認薬が存在しなかった疾患領域に、初めて選択肢が置かれたという点にある。患者数は約5,000人から8,000人と推定される規模であり、希少疾病用医薬品の指定を受けていることからも、典型的な大型市場向けの製品とは性格が異なる。

注目したいのは、承認の根拠となったTRANSCEND試験に日本人コホート12人が組み入れられ、国際共同第III相試験として実施されている点である。142人という試験全体の規模のなかで、国内データを含む国際共同開発が承認に結び付いた形になる。

また、同社は米国・欧州・英国で既に承認を取得しており、そこに日本が加わった。Rhythm社は本社をマサチューセッツ州ボストンに置き、セトメラノチドの他の希少疾患への臨床開発プログラムに加え、開発中のMC4R作動薬bivamelagonおよびRM-718、先天性高インスリン血症を対象とした前臨床段階の低分子化合物群の開発を進めているとしている。今回の国内発売は、こうしたパイプラインを抱える希少疾患企業が、日本市場にどのような体制で臨むかを示す一例となる。