何が発表されたか
株式会社ヘリオス(東証グロース:4593、代表執行役社長CEO 鍵本忠尚)は2026年10月22日、同社研究員による学術論文が査読付きジャーナル “Regenerative Therapy” に掲載されたと発表した。論文タイトルは “Development of an effective direct qPCR method for cell therapy product quantification in non-clinical biodistribution studies”、Manuscript Number は 33 (2026) 101189。執筆者は Yoichi Naritomi、Yuka Sato、Kumiko Goto、Yuriko Takeno、Hironobu Kimura、Kouichi Tamura の6氏で、所属は Kobe Research Institute, HEALIOS K.K., Kobe, Japan である。内容は、eNK®細胞のマウス生体内分布(BD)試験における定量評価のための、効果的な Direct qPCR 法の確立に関するものだ。
方法と数値
論文の前提として示されているのは、細胞治療製品(CTPs)の非臨床BD評価が、臨床試験における有効性と安全性を予測するために不可欠であるという点である。通常、BDはDNA抽出後のqPCRで定量されるが、この工程は手間と時間がかかり、DNA抽出効率にばらつきが生じやすいため、臓器重量や血液量に基づく正規化を難しくしていた。これに対しDirect qPCRは、DNA抽出を行わず、溶解したサンプルをそのまま定量できる。
研究では、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)由来の遺伝子改変NK細胞である HLCN061 を用いた。HLCN061細胞を含むマウスの臓器および血液を溶解・希釈し、ヒト特異的なAluプライマーセットを用いてreal-time PCRを実施。PCR反応には阻害物質の影響を受けにくいマスターミックスを使った。アッセイ性能は、直線性(R²)、増幅効率、相対誤差(RE)、変動係数(CV)、定量下限(LLOQ)で評価している。
結果は、すべての組織および血液サンプルでR²が0.99を超え、PCR増幅効率は90%から110%の範囲、RE値は±25%の範囲内に収まった。CV値は1例を除き25%以内。LLOQは、肝臓・肺・腎臓・心臓で0.25細胞/mg組織重量、脾臓および卵巣で1細胞/mg組織重量、血液で0.3細胞/μLだった。さらにこの方法を用い、マウスへの静脈内投与後24時間にわたるHLCN061細胞のBDを評価したところ、組織重量で正規化した濃度は肺で最も高く、血液からのクリアランスが最も速かった。論文は、このDirect qPCR法がCTPsの非臨床BD評価において有効かつ適していると結論づけている。
背景にあるeNK®細胞の開発段階
eNK®細胞(開発コード:AKT-01/HLCN061)は、遺伝子導入技術により細胞傷害活性の増強に加え、患者免疫細胞のリクルートや固形がんへの浸潤特性も強化された、ヘリオス独自の遺伝子導入iPSC由来NK細胞プラットフォームである。ヘリオスと開発パートナーの株式会社Akatsuki Therapeuticsは、eNK®細胞を用いた新たな治療法の研究を進めている。
自社研究では、ヒト肺がん細胞生着マウスモデル、ヒト肝がん細胞生着マウスモデル、ヒト中皮腫細胞生着マウスモデル、肺がん患者由来のがんオルガノイド(F-PDO®)に対する抗腫瘍効果を確認。中皮腫皮下移植モデル、肺がん同所生着モデル、肝がん皮下移植モデル、胃がん腹膜播種モデルの各マウスでも抗腫瘍効果を確認している。国立がん研究センターとの共同研究では、同センター保有のPDX移植マウスを用いてヒト肺がん組織に対する抗腫瘍効果を確認。兵庫医科大学とは中皮腫、広島大学大学院とは肝細胞がん、九州大学とはCAR-eNK®細胞を用いた脳腫瘍について、それぞれ共同研究が進む。現在は治験開始を目指し、PMDAおよび米国FDAと相談を進めている段階だ。
意味:治験準備の足場としての定量法
今回の発表は、新たな有効性データではなく、評価手法に関する論文である点が特徴だ。ただし資料が記すとおり、非臨床BDの定量は臨床試験での有効性・安全性を予測するために不可欠であり、治験開始に向けた相談が進む段階の開発品にとって、投与した細胞がどの臓器にどれだけ分布するかを再現性よく示せることは、申請資料の土台に直結する。
DNA抽出を省けることは、抽出効率のばらつきという、従来は臓器重量や血液量による正規化を難しくしていた要因を回避する。R²0.99超、増幅効率90〜110%、RE±25%以内という性能値は、この手法が実測に耐えることを示す数字として示された。肺で正規化濃度が最も高く、血液からのクリアランスが最も速いという24時間の観察結果も、同じ手法で取得されている。
Akatsuki Therapeuticsは胸膜中皮腫を最初の対象疾患として治験開始の準備を進めており、量産可能なoff-the-shelf型細胞治療の提供を目指すとしている。iPSC由来細胞という「他家・大量生産」を前提とする製品群では、分布評価の標準化が開発速度に効く。今回の論文公開は、その共通手順を外部の査読を経た形で示したものと位置づけられる。