何が承認されたか
第一三共株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長 兼 CEO:奥澤宏幸)は2026年10月22日、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)エンハーツ®(中国語表記:优赫得®、一般名:トラスツズマブ デルクステカン)について、中国の国家薬品監督管理局(NMPA)から新たな適応の承認を取得したと発表した。
対象は、前治療歴がある、もしくは代替の治療手段のない、切除不能または転移性のHER2発現(IHC3+)固形がんである。がんの発生部位ではなくHER2の発現状況で対象を定める、いわゆるがん種横断的な適応であり、同社によれば中国においてがん種横断的に承認された初めての抗HER2療法となる。
承認は4つの第2相臨床試験の結果に基づく。前治療歴のあるHER2発現の進行性固形がん(胆道がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、膵臓がん等を含む)患者を対象としたDESTINY-PanTumor02試験およびDESTINY-PanTumor03試験、HER2遺伝子変異またはHER2過剰発現の切除不能・転移性非小細胞肺がん患者を対象としたDESTINY-Lung01試験、HER2陽性の切除不能な進行・再発大腸がん患者を対象としたDESTINY-CRC02試験の4試験である。
ただし、この適応での承認は条件付きであり、検証的試験による臨床的有用性の検証が条件とされている。
中国での適応は10に
今回の承認により、中国におけるエンハーツ®の適応症は合計10となった。内訳は、HER2陽性の手術不能または転移性乳がんの一次治療、同二次治療、化学療法既治療のHER2低発現乳がん、化学療法未治療のHER2低発現または超低発現乳がん、HER2陽性早期乳がんの術前薬物療法、同術後薬物療法、HER2陽性胃がんの二次治療、同三次治療、HER2遺伝子変異を有する非小細胞肺がんの二次治療、そして今回のHER2発現(IHC3+)固形がんである。乳がんで6つ、胃がんで2つ、非小細胞肺がんで1つと、臓器別の適応を積み上げてきたうえに、横断的な適応が加わった形だ。
エンハーツ®は抗体薬物複合体(ADC)である。ADCは抗体と薬物(低分子化合物)を適切なリンカーを介して結合させた薬剤で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届けることにより、薬物の全身曝露を抑えつつがん細胞への攻撃力を高める設計となっている。
背景:抗HER2療法が届いていなかった領域
HER2は多くのがん細胞表面に発現するタンパク質で、その過剰発現はHER2遺伝子増幅によって生じる場合がある。一部のがんでは、がんの進行や予後不良と関連していることが多いとされる。
同社の資料によれば、中国で抗HER2療法が用いられてきたのは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、胃がん、非小細胞肺がん、胆道がんの治療である。一方、HER2の過剰発現は肺がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、唾液腺がん、膵臓がんなど他の固形がんでも認められるものの、エンハーツ®が承認される以前は、これらの幅広い固形がんを対象に中国で承認されている抗HER2療法は存在しなかった。つまり、HER2が発現していても使える抗HER2薬がない、という領域が残されていた。今回の承認は、その空白部分に初めて選択肢を置くものとなる。
意味:バイオマーカー起点の適応が中国でも
臓器別に適応を取得し、臨床試験を積み重ねていくのが従来の抗がん剤開発の基本形である。希少ながん種では対象患者が限られ、単独での開発が成立しにくい。今回の承認は、HER2発現(IHC3+)という分子マーカーを軸に、胆道がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、膵臓がんなど複数のがん種を一括して対象に取り込む形をとった。中国においてこの形式で抗HER2療法が承認されたのは初めてであり、バイオマーカー起点の適応設計が中国の規制当局の判断としても成立したことを示す事例となる。
ただし承認は条件付きであり、検証的試験による臨床的有用性の検証が求められている。第2相試験4本を束ねた承認という構成も含め、今後の検証試験の結果が位置づけを左右することになる。
なお、エンハーツ®は、第一三共独自のADC技術プラットフォームから創製された商業化・臨床開発段階にある9つのADCのひとつである。このうち7つは、がん細胞表面の特定抗原を標的とする抗体に複数のトポイソメラーゼⅠ阻害剤(DXd)をリンカーで結合させるDXd ADC技術を用いて創製された。エンハーツ®とダトロウェイ®(ダトポタマブ デルクステカン、抗TROP2 ADC)は、日本(同社が独占的権利を有する)を除く全世界でアストラゼネカと共同で開発・商業化が進められている。
同社は、本剤を通じてがん種横断的に新たな治療の選択肢を提供することで、中国のより多くのがん患者に貢献していくとしている。