何が発表されたか
大塚製薬株式会社と米国子会社のOtsuka Pharmaceutical Development & Commercialization, Inc.(OPDC、米国ニュージャージー州プリンストン)は、10月22日(米国時間)、IgA腎症を対象としたVOYXACT®(一般名:シベプレンリマブ)のフェーズ3(VISIONARY)試験における2年間(24カ月)の最終解析結果を発表した。発表の場は、2026年10月21日から25日までコロラド州デンバーで開催されている米国腎臓学会(ASN)年次学術集会「Kidney Week 2026」で、Opening Plenary Sessionでの口頭発表、Late-Breaking Poster発表、およびASNプレスプログラムの3つのかたちをとった。研究結果は同日、The New England Journal of Medicine(NEJM)にも同時掲載された。
中心となる数字は、腎機能低下または腎不全からなる複合腎イベントの97.1%のリスク低減である。510例を対象とした無作為化比較試験で、複合腎イベントはシベプレンリマブ群259例中1例(0.4%)、プラセボ群251例中28例(11.2%)に認められた。
内訳の数字
複合腎イベントを構成する各評価項目でも、一貫してシベプレンリマブ群で良好な結果が得られている。eGFR(推算糸球体濾過量)が40%以上持続的に低下した症例はシベプレンリマブ群1例、プラセボ群28例。血清クレアチニン値が持続的に2倍まで上昇した症例はシベプレンリマブ群では認められず、プラセボ群では13例。eGFRが15 mL/min/1.73 m²未満となる持続的な腎機能低下はシベプレンリマブ群1例、プラセボ群10例。腎代替療法を開始した患者はシベプレンリマブ群ではゼロ、プラセボ群では5例だった。
タンパク尿については、24カ月時点の24時間尿蛋白/クレアチニン比(uPCR)が61.3%低下した。ベースライン時に血尿を有していた患者で尿試験紙法による血尿陰性化が認められた割合は、シベプレンリマブ群78.6%に対しプラセボ群20.2%である。
安全性プロファイルは24カ月間を通じて一貫し、プラセボ群と同程度だった。全有害事象の発現率は90.7%対90.0%、感染症および寄生虫症は51.4%対51.0%、注射部位反応は35.1%対32.3%。新たな安全性上の懸念は認められていない。重篤な感染症の発現率はシベプレンリマブ群のほうが低く(1.9%対4.0%)、重篤または重度の有害事象、治療中止の発現率もシベプレンリマブ群で低かった。
これまでの経緯
VISIONARY試験(NCT 05248646)は、疾患進行リスクを有する原発性IgA腎症成人患者を対象としたグローバル多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。主要評価項目は投与9カ月時点のuPCRのベースラインからの変化によるタンパク尿減少、主要副次評価項目は24カ月にわたるeGFR slopeの年間変化率とされた。
主要評価項目の達成を受け、VOYXACTは「進行リスクのある成人のIgA腎症におけるタンパク尿の減少」の効能で2025年11月に米国FDAから迅速承認を取得している。主要な副次評価項目の結果は2026年8月のGlomCon Hawaii 2026で既に公表されており、年間eGFRスロープはシベプレンリマブ群+0.3 mL/min/1.73 m²/年(95%信頼区間:−0.4〜0.9)、プラセボ群−4.2 mL/min/1.73 m²/年(同:−4.9〜−3.6)で、治療効果は+4.5 mL/min/1.73 m²/年(同:3.6〜5.4、p<0.0001)。24カ月時点のeGFRのベースラインからの最小二乗平均変化量は、シベプレンリマブ群+1.3 mL/min/1.73 m²、プラセボ群−7.9 mL/min/1.73 m²で、群間差は+9.2 mL/min/1.73 m²(95%信頼区間:7.1〜11.4、p<0.0001)だった。
そして本年10月6日(米国時間)、大塚製薬はVOYXACTの正式承認取得に向け、米国FDAに対する生物製剤承認一部変更申請(sBLA)の段階的提出を完了している。試験完了は正式承認へのマイルストーンと位置づけられる。
業界にとっての意味
まず、評価指標の軸が移ったことが大きい。迅速承認の根拠はタンパク尿という代替エンドポイントだったが、今回示されたのは腎機能そのものの推移と、腎代替療法開始を含むハードなイベントである。資料によれば本試験は、IgA腎症を対象としたフェーズ3試験として初めて、KDIGO 2025ガイドラインが示す「年間の腎機能低下を正常な速度(1 mL/min/1.73 m²/年未満)に抑える」という治療目標を達成した。ガイドラインの目標値に照らして語れるデータが出たことは、臨床現場での位置づけ議論の前提を変える。
次に、効果の一貫性である。スクリーニング時のuPCR、eGFR、SGLT2阻害薬使用の有無という事前規定の層別化因子の各サブグループで治療効果が一貫して認められ、抗薬物抗体または中和抗体の有無にかかわらず臨床的ベネフィットが維持された。適用対象を狭く限定する理由が見つかりにくい形のデータといえる。
作用機序の面では、選択的APRIL阻害という標的の妥当性が、2年という期間で裏づけられた点が重要だ。免疫グロブリン値の低下が維持される一方、感染症リスクの増加は認められなかった。免疫を標的とする薬剤で常に問われる安全性の論点に、24カ月分の回答が示された形になる。
VOYXACTは、米国FDAの承認を取得した初めての、かつ現在唯一の選択的APRIL阻害薬である。IgA腎症は通常20〜40歳代の成人に比較的多く発症し、最終的に末期腎不全にいたる可能性がある疾患で、根本原因に対処する治療法には未充足の医療ニーズが存在するとされてきた。開発プログラムでは現在実施中の非盲検長期継続試験(NCT05248659)から今後追加データが得られる予定であり、長期の疾患修飾効果をめぐる検証は続く。